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なんでこうなるかなぁ?

「なんでこうなるかなぁ?」

透明感のある爽やかな水色の空、その下に咲く満開の桜の木、おろしたての制服。

そんな誰しもが微笑んでいるような状況のもと、私の心は晴れなかった。

「なんというか、しみじみ縁があるんだねぇ……」

「いらないよぉ、あんなのと~」


 制服も鞄も靴も、ついでに猫毛のくせっ毛でまとまりが悪いため伸ばしていた髪も、校則で生まれて初めておさげにした。

 そんな新品だらけの中、一番新しくしたかったものだけが古いままで、がっくりと呟いた言葉に、隣に立つ親友の日比谷優樹は少し困ったような顔をして、そんなちっとも嬉しくないことを言う。

「優樹とは離れちゃうしさぁ、……っていうか、友達どころか知り合いすらも居ないんだけど、A組」

「うん、まぁ、それは残念?」

「なぜ疑問形?」

「やぁ、あんた、感極まると声大きいからさぁ……、私の耳も少しは平穏になるかなぁ? とか」

「……」

 自分でも気にしているので思わず言葉を返せないでいると、優樹はちょっと目を細めて

「私はEだしちょっと遠いね……、でも、いつでも遊びにおいでよ、私も会いに行くし」

 と、切り替えるように明るく微笑んだ。


 細身の長身、ショートカットの綺麗な栗色の髪の毛に囲まれた端正な顔立ち、その涼しげな外見そのままにクールな彼女はそんな風に柔らかく微笑むことは少なくて、レアなその笑顔に慰められて、もう一回背筋を伸ばしてクラス表示を見つめる。


 うっすら聞いたことはあっても、殆ど知った名前は居ない。

 知ってるだけ、何故か小学校六年間自分に絡み続けた面倒くさい奴の名前さえもちょっとマシな気持ちがした様な気がして

「ないない…」

 慌ててプルプルと首を振った。


 ガンッ!

 夢中で本を読んでたから、いきなりの振動に驚き本から顔を上げると、私の机に片手をついて、上から見下ろすようにしてこちらを見ている、苛立たしげに私を見つめる瞳。

 意地悪そうに歪められて無ければ結構形は悪くないんじゃないかと思う薄目の唇、見慣れないクラスメートの中で、唯一飽きるほど見慣れていても全く嬉しくない顔がそこにあった。

 けれど、あまりに本に夢中になっていたから、寝ぼけているかのように頭が働かず、思わずまじまじ見つめてしまう。

「な……なんだよ」

「や? それはこっちのセリフ」

 すると、ちょっと吃驚したかのように瞳を揺らすのに私も驚いてそう答えると、一瞬ぐっとつまり、けれど私のの手元を見つめ、また意地悪そうに瞳を光らせると

「それ……、学校に学業以外のもの持ってきちゃいけねーんじゃねーの?」

 勝ち誇ったように言った。

 ……本当に何でこう絡んで来るのか。


 戸田圭一、小学校六年間を振り返ると、嬉しくないことに殆どコイツの顔が浮かんでくる。

 私の何が気に入らないのか、小学校の入学式で隣の席になった時から、何故か目の敵にされ、しかも距離が離れない。

 理由の一つは私の名前、藤堂紗綾、……学校というのは意外と五十音順の出席番号というものが重要になる。

 戸田と藤堂、男子の15番と女子の15番、入学早々私達が隣同士だったのはそのせい。


 二つ目は、成長速度の問題、どうも、私の身長の伸び方と戸田の其れはかなり近いらしく、背の順で並んでもいつも近くにコイツの顔がある。

 私の身長はクラスの女子の中では平均より少し小さく、中盤より少し前の方をうろうろしていて……戸田も大体そのくらい。

 完全な隣同士というのはそう多くないのだけど、新学期に編成するたびに私の斜め前か斜め後ろにい居るという状況。


 結果私の小学校時代は、花壇を班ごとに作ることになった時、同じ班の班長だった彼は私にだけスコップをくれなかったとか、班での掃除当番の分担分けでは、私の居ない間にじゃんけんを済ませて面倒くさいことは全部私に決めるとか、ランドセルの背中の白い柔らかい部分に鉛筆でいたずら書きをされたとか、私の髪の毛をからかった替え歌を当時流行ってたCMソングのメロディに乗せて毎日のように歌われたとか……そんなコイツにやられた子供じみたいたずらの思い出に彩られている。


 そして、中学入学を機に離れると思って居た腐れ縁はまだ続いていて、当然私達の関係も変わることは無かった。

 ……まぁね、判らなくはないんだけど? 気に入らない顔が常に自分の周りにあるというのは実にうっとおしい、今はしみじみ私もそう思っている。


「おい、聞いてんのかよ?だから学業以外の…」

「あ、うん、大丈夫」

「あ?」

「この前先生に聞いておいた、本持ってきてもいいですか? って、そしたら、漫画は駄目だけれど、小説ならいいですよって。」

「……ちっ、おい、桜田! 昨日のカードどうした?」

 面白くなさそうに舌打ちして、友達に声をかけつつ去っていく背中を見て、ほっとしつつ、ため息をつく。


 ――そのゲームのカードは小説よりも確実に持ってきちゃいいけないものだと思うんだけどねぇ。

 

 ただ最近気になるのは、戸田の尻馬に乗って同じ様なことをする男子が増えてきたような気がすること……、小学校の頃からそういうのは居たけれど、このクラスになってからは妙にその人数が増えた気もしていた。

 昨日は机の上に出しておいた筆箱を取られて、戸田の尻馬に乗る男子と一緒になって投げ合うのに取り戻そうと追いかけ回すなんて羽目になっってしまったし……。

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