第6話
頭に血が上っていたからか、私はベットに横になると、本当に眠りに付いてしまっていた。
だが、それも部屋付きの侍女によって阻まれた。
「姫様、コーラル様がお見舞いに来られました」
当初の目的であるコーラル様が来られた事に、まだ置ききれていない意識を無理やり起こしつつ、返事をする。
「そう、お会いするから貴方達は部屋を出ていて頂戴。コーラル様と2人で話したいの」
そういうと侍女は了承し丁寧にお辞儀をして部屋を出た。
さて、これからが大変だ。やはり、私に悪役など無理な話だ。なにせ、ヒロインより悪役の方が数段も難しいのだ。そもそも、王妃の立場で悪役などしてみろ。確実にコーラル様をつぶす事が出来るではないか!?権力って怖い!!
・・・・っていうか、仕事が忙しすぎなんだよ!!!
最近、ふと、言葉が荒んできているがそれは気にしないでもらいたい。
「・・・・失礼します」
扉からノックの音とともに弱弱しい声がかかった。
・・・・・私より病気ではないのだろうか?ああ、そうか、私は元気なのだった。
「どうぞ。お入りになって下さい」
そういうと、すーっと音もなく扉が開かれ、コーラル様が現われた。
相変わらず素敵で可愛らしい方だ。一生懸命笑顔を作ろうとしている姿にきゅんきゅんきてしまう。
「・・・キャロル様。お加減が優れないとお伺いしましたが、お身体の調子はいかがですか?」
弱弱しい笑顔と共にその言葉をいただき、コーラル様の方が大丈夫ですか?と言いたくなる。
「えぇ、大した事はないのだけれど侍女たちが大騒ぎしてしまって・・・。それより、先日はごめんなさい。コーラル様に酷い事を言ってしまいました。どうぞ、傍に来て、座って下さい。少しお話したい事があるので・・・」
そう言って、ベット脇に置かれた椅子をすすめると、コーラル様は一瞬戸惑ったようだが、綺麗な所作でその椅子に腰かけた。
「・・・あの、キャロル様・・・。お話とは・・・・」
どこまでこの人は素直に受け入れるのか・・・。ちょっと心配になってくる。
だが、今はそんな心配をしている場合ではなかった。
「えぇ。コーラル様は確か公爵家のご令嬢でしたよね?」
「・・・・?はい・・・・」
「コーラル様のお父様は確か、コーラル様を王妃にと今でも言われていましね」
たびたび顔を合わせる事があるが、いつも鋭い視線を感じる。
その事に心辺りがあるのか、コーラル様も顔を赤くして、俯きながら答えた。
「も、申し訳ありません。お父様にもキャロル様の素晴らしさをお話しているのですが、その・・・・陛下が通って来られる事もあって未だに・・・・。あ!でも、陛下が同情で私の所に通って下さっているのはちゃんとわかっていますから!!」
慌てたようにそう付け加えるコーラル様に私は首を横に振った。
「いいえ、そうではないのです。陛下はどうでもいいのです。・・・むしろ、陛下の事は喜んで貴方に差し上げます。そして、この王妃と言う立場も・・・」
私の言葉にコーラル様はぽかんと可愛らしい口を開けている。
「実は、私の病気と言うのも嘘なのです。本当は元気でぴんぴんしているのです。ほら・・・」
そう言って私はベットから降りて身体を動かした。
「えっ?え・・・?」
相変わらず鳩が豆鉄砲を食らったような顔に思わず苦笑してしまう。
「騙してしまって申し訳ありません。ですが、私、コーラル様と2人でお話がしたくて。先日はあのような事を言ってしまったので、普通に呼びだしても応じてくれないかと思い、こうして仮病を使ってコーラル様に来て頂きました」
「け、仮病・・・・・」
一生懸命私の話についてこようとしている姿も本当に可愛らしい。
「・・・・ど、どうしてそのような事を?」
驚いているものの、それはすでに表情からは取り払われていた。
やはり、他の方々が言う様にこの人の方が王妃に向いていると思う。
「えぇ。私、王妃をやめたいのです。ずっと憧れていたお姫様になれて浮かれていましたが、現実を知り思い知らされました。私などでは王妃は勤められないと。そして、憧れていた王子も、私にとっては王子ではなかったと」
その言葉にコーラル様は驚いたようだった。
無理もないだろうが。
「・・・そ、それで、その、王妃をやめたいとはどうして・・・。陛下の事は・・・・」
「陛下の事は愛しておりません。物語の主人公になって酔っていただけなのです。陛下に見染められて、お姫様になれる。そんな事が目の前に転がっていて、自分が主人公になれたものだから浮かれていたのです。ですが、私は気づいたのです。今更、こんな事を言うなんて調子のいい事だと思われるかもしれませんが、実際に『お姫様』になってこんなに大変だなんて思いませんでした。それに、陛下も同じでしょう。今まで陛下の周りにいなかった私のようなものに目移りしてしまったのでしょうが、私と結婚したものの夢から覚めたらやはり必要なのはコーラル様だと気付いた。だけど、周りの反対をあれだけ押し切って結婚してしまったら、陛下としての立場もありますから、どうする事も出来なかったのでしょう」
ふぅっとひとつ呼吸をすれば、コーラル様は険しい顔をされて考え込んでいた。
「・・・ですから、私、王妃をやめたいのです。自分勝手だと重々承知しております。しかし、間違ったままずっとこうしているのは国の為にもなりません。王妃は陛下を支える立場。それに見合った方がなるべきなのです」
私は全てを言いきると、まっすぐとコーラル様を見つめた。
すると、コーラル様は私の目をまっすぐと見つめ返してきた。その瞳には怒りが見て取れた。
「・・・・それで、キャロル様は私に何をしてほしいと?」
いつもの様な軽やかな声色とは違い、少し低く唸るような声にコーラル様が色々なものをこらえている事を悟る。
「・・・お察しがよくて助かります。こんな事を言える立場ではないと解っているのですが、私は他に頼れる肩を知りません。・・・・・私を公爵家の養女にしていただけませんか?」
その言葉を聞いたコーラル様はこれでもかと言うくらいに目が見開いた。
・・・当然驚かれるとは思っていたが・・・・。
「なっ!何を馬鹿な!!」
「えぇ!馬鹿な事を申し上げているのは重々承知しております。ですが、王妃をやめた私は国に帰ることもできず、他の者に利用されるのもこの国の為にならない。でしたら、次の王妃となるコーラル様のご実家に私の目付役としてもらえれば悪用などされず貴方の地位もゆるぎないものとなります」
良く考えて出した結果だ。一度は王妃となった以上、私の存在を利用しようとするものが現われるだろう。それを目付るのは骨が折れる。必ず私は利用され、国の為にならない。それならば、コーラル様の実家に入り、コーラル様の支えとなり、その地位を強固たるものにすればいい。そう思った。そして、それがせめてものコーラル様への償いになるのではないかと・・・・。
「養女として頂いたからと言って、その様に扱ってもら追うなどとは心にも思っておりません。どうか、聞き入れて頂けないでしょうか?」
懇願する私にコーラル様は一つ深いため息をついた。
更新が遅くなりました<(_ _)>
訂正がありましたので、活動報告にてご報告させていただきます。
どうぞ、引き続き王妃の苦悩を宜しくお願いします!!