第4話
1年もたたないうちに夫婦として破綻しているものの、これも仕事のうち!とりあえず、それまでは放置で!!なんて思っていた案件をわざわざ話に出してきたコーラル様。
全く今更、王子と仲のいいふりをしなければならないなんて・・・。
溜息を飲み込み私は笑顔を作った。
「ええ・・・。あまり気が乗らないのですが、これも国を盛り上げる為の一つの施政だと思ってやり遂げるつもりですわ」
本当はやりたくないんですよ~!
それを、アピールしたつもりだった。
「そうですわよね。2人の仲睦まじいお姿を国民の皆さまは楽しみにされてますものね・・・・」
先程までの慌てぶりはどこへやら。自分で話題を振っておいて、落ち込むとは何事か?
しかも、私の意思を全然汲み取ってくれないとは、これ如何に?
「・・・そうでしょうか?今や、国民も皆、陛下の寵愛はコーラル様にある事を存じていますよ?それなのに、私と陛下がパレードをしたところで白々しさ満載ですわ」
そりゃ、一時でもあの王子に恋をしたから隣りに並ぶのがすっごく嫌だ!!という訳ではない。並べと言われたら並ぶくらいできる。
しかし、そこに愛があるのか?と問われれば『否』。情はあっても愛情はない。よって、コーラル様の言う『仲睦まじい』姿は国民には見せられないと思うのだが・・・・・。
「そんな事ありませんわ!陛下とキャロル様は大恋愛の末、結婚なさったと伺っておりますもの。いくら私の所に来て下さっていても、それは私が王妃となるように育てられた為、行くところのない私を拾って下さっただけの事。やはりキャロル様には叶いませんわ」
いや、待て!待て待て!・・・・も、もしかして、いや、もしかしなくても、コーラル様もあの世間に出まわっているバカバカしい物語を信じているとか・・・??
「コ、コーラル様?ま、まさかと思いますが、陛下が私の事を未だに愛しているとか思っていらっしゃりなんて・・・・」
そう問いかけると、目の前の姫は見るみるうちに、目に涙が浮かんできた。
思わず、叫びそうになった声を飲み込んで私は息を吐く。
どこまでも、純粋で素直な目の前の姫になんて言えばいいのだろう?というか、あれだけ寵愛を受けていて未だにその物語を信じているとは一体どういう事だろう。
目の前で、どんどん落ち込んでいくコーラル様を見ていると、なんだか無性に腹がたってきた。
王子の愛が私に向いているとか馬鹿げた事を本気で言っているのならこれは殴ってもいいのだろうか?
いやいや、まて。私。目の前のコーラル様はそれこそ、箱の中で大事に大事に育てられたお姫様中のお姫様だ。
まさしく、これがヒロインの思考。
・・・・一時、私もそんな事を考えていた時期があったじゃないか!!
なんとか、心を落ち着かせて自分のするべき事を考える。
・・・王道でいくならば、やはり私が悪者になるのが一番なのだろう。
っていうか、ヒロインの次は悪役!?一体、どれだけ物語の登場人物になれば私は救われるのか。
私は一つ溜息をつくと、この数か月上手くやっていた後宮はどこへ行った?
・・・・なんて事を考えながら言葉を発した。
「・・・・そうね。あの人は同情で貴方の所へ行っているけれど、そのうち彼はきっと私の元へ帰ってくると信じているわ」
・・・・くさっ!!なにこれ?なんのいじめ?
にやりと口角を上げながらコーラル様を見れば、コーラル様は瞳に溜まった涙が限界を迎えようとしていた。
これまた、自分も経験したなぁ~なんて思いながらその表情を見ていると、これまた可愛らしくぽろぽろと涙がこぼれ始めた。
あ~ぁ・・・。泣かせてしまった。申し訳なくなって思わずひとつ息を吐いた。
が、しかし、悪役になってしまった私のこれが彼女には呆れた溜息に見える事はわかっていた。
「・・・・コーラル様。あまり、長居をしても申し訳ありませんから、私そろそろお暇させて頂きますね。美味しいお茶をごちそうさまでした。何かありましたら、いつでもお声をおかけ下さいね」
本当に心からそう思って言っているのだが、きっと彼女にはまた違う意味で取られてしまうのだろう。
とうとうヒロインを引退し、私は悪役になった。
さて、部屋に戻ると再び王妃としての仕事が溜まっている。
「これも、後少し・・・・!!」
そうだ、これで私はこの仕事から解放される!!小躍りしたくなる気持ちを抑えて、自分を律する。
しかし、山の様な書類を手元ににやにやが止まらない。
悪役となった今、この先は見えている。なぜかって?なぜなら、私自身経験してきたからですよ!!
これから先は、姫が必死であのアホ王子の気持ちを繋ぎとめようと頑張る→王子さらにメロメロになる→悪役追い出される。この寸法ですよ!!
お姫様がやめられるのだ!これほど嬉しい事はないだろう。
「や、やっと・・・・やっと解放される!!ひゃっほーい!!」
いけない。自分を律すると決めたばかりなのに・・・。
ひとつ咳払いをして、机の前でしずしずと残る書類に目を通す・・・・・フリをする。
よく考えろ。ここからが要注意だ。お姫様業をやめるのはそんな簡単な事ではない。
難しい手続きやら、やめるにあたって、降嫁するか、もしくは目付役がいるどこかの貴族の養女となるか・・・・・。
国の重要ポストに一応いる身なので、国の機密が漏れないようそう簡単に手放してはもらえない。当たり前の事だが・・・。
だが、ストーリー通りいくのであれば、離縁に関しては問題ないだろう。
なにせ、私などはしがない田舎領主の娘。後ろについている貴族に特に強いものではなく、逆に私が王妃に相応しくないと未だに文句を言うやつがいる。
となると、目付役となってくれる貴族を探して養女・・・これが無難な所だろう。
「うーん・・・。田舎に帰りたいって気持ちもあるけど、やっぱりそれは無理だろうしな」
ならば、その目付役となってくれる人を早々に探しておかないと、とんでもない所にやられる可能性もある。それに、あまりコーラル様を泣かせてしまうと、あの王子に首をはねられたり、牢に入れられたりしかねない。
いや・・・。さすがに、首ははねられないだろう。仮にも1度好きになった女だ。そんなこと・・・・・しない・・・よね?言い切れるほど、王子を知らない自分がなんだか、悲しい。
と、とにかく、今度は上手く行くように前もって手を打っておこう。
同じ轍は2度踏む様な事はしないぞ!