第3話
「失礼いたします」
コーラル様の侍女に案内された部屋にはすでにコーラル様が待っていた。
「・・・ご機嫌いかがですか?キャロル様。どうぞ、お席におかけになって下さいませ」
流れるような所作で私に椅子を進めるコーラル様に私は慌てて礼の形を取った。
「ごきげんよう。コーラル様。では、お言葉に甘えて失礼致します」
さて、ここまではいつも通りだ。
やっと出てきた私の名は置いておいて、目の前のコーラル様について補足しよう。
目の前に座られるコーラル様は、私よりも背が低い。しかし、出る所は出ていて、引っ込む所は引っ込んでいる。なんともうらやましいバランスの取れたお身体だ。
そして、目の前でにっこりと笑われるコーラル様の見た目も文句なく美しい。
時間とお金をかけて磨かれているのだろう。お肌はつるつるもちもち。・・・・触った事はないが・・・・。
大きな目はしっかりとメイクが施され、整った形の唇には思わず吸いつきたくなるような潤いがある。
・・・・誤解を与えたくないので言っておくが、決してその様な目で見ているわけではない。
外見が完璧な彼女はもちろん中身も完璧だ。
公爵令嬢なだけあって、前回にも申し上げた様に、教養はもちろん知識も豊富だし、悪口など一切言わない。なんとも出来たお方だ。
しかし、そんな彼女にも欠点はある。
いや、もはや欠点とは言えまい。そんな所でさえ、彼女を引き立てる魅力の一つに過ぎない。
その魅力の一つが『天然』だ。
もう、どんなスキルですかそれ!!欠点?あるわけないじゃーん!!
ほほほ、壊れてしまいました。失礼・・・・。
そんな訳で、目の前の彼女は素晴らしい女性なのだ。
「・・・キャロル様?なんだか、お疲れの様ですけれど大丈夫ですか?」
ほら、この本当に心配している目。そりゃ、王子も惹かれるわ!
っていうか、なぜこの人をおいて、私に目移りしちゃったの?世界七不思議のひとつと言っても過言ではない。
「だ、大丈夫ですわ。ちょっと、色々考え事をしておりましたの。ホホホホ・・・・」
ホホホホ・・・。ってなんだ!!
彼女の補足でどれだけ疲れたんだ。私。こ、これからが大変なのに。
そう・・・・。問題はこれからだ。私が彼女の欠点として上げた『天然』には理由がある。
「まぁ!それでしたら、いいお茶がありますの!ティーナ!ブレイク産のコトルというお茶をご用意して差し上げて!!」
「・・・申し訳ありません。お気を使わせてしまって・・・・・」
「いいえ!いいのです。このお茶は、リラックス効果のあるお茶ですから、きっとキャロル様もお疲れが取れますわ。そうそう、このブレイク産と言えば、ブレイクの土地の豊かさから・・・・・」
は、始まってしまった。これぞまさに『天然』と言う名の鬼の所業。
『側室講義』である。疲れていると言っているのに、やれ、この品は何とか産で、そこの土地はどうだ。きっとこの土地の人柄はこんなのだと、彼女は話始めてしまう。
一度、彼女の講義が終わった後、聞いた事がある。
なぜ、そんなに詳しいのですか?と。
どこの品でもおいしければいいのではないのですかと・・・。
田舎娘だった私にはそれで良かった。これはおいしい!これはいまいち。そんな感覚でお茶を飲んでいたし、食べ物を食べていた。
しかし、ここは違うのだ。
「キャロル様!!王妃様ともあろうお方がそれではいけませんわ!女性は男性と違って諸国へと出掛ける事が限られております。ですから、実際に見る事が叶いません。そこで、女性はこうやってお互いの持つ知識をお茶などを通じて、その土地や、状況の把握をするのです。お茶ひとつとってもすばらしい教材になるのですよ!」
と、窘められてしまった。
その時に思いましたとも。ただ、優雅にお茶を飲んでいらっしゃる訳ではないのですね・・・・orz
「・・・キャロル様?」
おっと、いけない。うっかりまた考えに浸って彼女の講義を聞き逃してしまった。
いや、まぁ、聞く気がないと言えば聞く気がないのだが。
「そんなすばらしいお茶を選んで下さったのですね。コーラル様は。お優しいですのね」
聞いていた振りをしながらそういうと、目の前の姫は照れ臭そうに頬を染めてお茶に口をつけた。
なっんて可愛らしいのだろう。その上、素直で、知識も豊富だ。
「・・・・コーラル様が王妃をなさった方が国の為にもなるわよね・・・・」
ポツリと零れた言葉は、コーラル様にも聞こえていたらしい。
「そんな!!キャロル様!そんな事ありません!キャロル様だからこそ、王子を支え、素晴らしい国へと導いて頂けるのですわ!」
本当に悲しそうにそう叫ぶコーラルに思わず、首をかしげる。
はて、いつ王子を支えただろうか。
はて、いつ素晴らしい国へと導いただろうか。
私のやっている事といえば、山になっている書類を片付ける事と笑顔を張り付けて謁見する事、そして、たまに王妃として皆の前に顔を出す事位だ。
「・・・・コーラル様は本当に素晴らしいお方ですのね・・・・」
まったく、あの王子は何を見ていたのだろうか。
きっと、今頃後悔しているに違いないだろうが・・・・。
「そ、そんな事・・・・・」
目の前で頬を染める姫をみて私は心からにっこりと笑った。
私などの笑顔で照れまくるコーラル様をほほえましく、そして、ありがたく思いながら眺めていると、その視線に耐えかねたのか、コーラル様は私がわざわざ忘れ去っていた事を口にした。
「そ、そう言えば、もうすぐで、ご成婚1周年のパレードがありますわね!!」
ぐはっ!!
またもや天然炸裂か!?わざわざ、忘れ去っていたその事を思い出させてくれるなど、なんたる鬼!