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まひろちゃんの話

久しぶりの帰省

作者: アーク
掲載日:2026/04/04

小鳥遊千花は結婚してから1度たりとも実家に帰った事が無い。


地元の村にはいくつもの風習があり、小さい頃から因習とも呼ぶべきそれらに振り回されてきた自覚がある。


あれは、中学生の時だった。


夜中、息苦しさを感じて目を覚ますと村長や神主が主張するところの「イエモリ様」が千花のからだに覆いかぶさっていた。


()()()()()()()()()()()()()()()とは言われてはいたが、この土地で生まれた千花は兎も角八坂の家は元々この地域の出身では無い。


千花は無意識に目の前にいるイエモリ様に嫌悪感を覚え、思い切り相手の鳩尾に掌底を打ち込んだ。


触れた。


その感覚は確かに人間のものだ、と今でも確信している。


夜が明けると家には村長と神主が来ていて、「お宅の娘がイエモリ様に逆らった」と厳しいお叱りを受けていた。


イエモリ様?


ふざけるな、神様なら、―――村人を護る神様だと言うのなら。その村人を傷付ける様な真似をするものか。


そんな出来事もあり、千花は父に頼んで寝室に鍵を付けて貰う事にした。


母は、「村のしきたりに、寝室に鍵を付けてはならない、とある」と言っていたが、「それなら、鍵に見えなければいい」と父は千花の部屋に組み木細工に似た仕組みの鍵を付けてくれた。


見た目には、千花の部屋は今まで通りだが、扉の部分は手順通りに組み木を動かさなければ開かない仕組みになった。


組み木が開く手順は、千花にだけ教えられた。


「都会の大学に進学したい」


そんな出来事があったからか、千花の希望はあっさりと両親に認められた。


そして千花は進学先の大学で智治と出会い、何度か同じ講義を受けた際に席が隣りだった事から会話の機会が増え、―――気付けば、恋人同士になっていた。


やがて智治と将来を誓い合い、結婚の挨拶に地元に帰省した時の村長の態度を見て千花は二度と地元には戻らない事を決めた。


*


「お義母さん、なんだって?」


「親戚の子を、家に引き取った、って...」


父の従姉妹の嫁ぎ先の家と言う遠縁の親戚にあたる中学生の家守まひろ、と言う女の子を引き取ったのだと、スマホのメッセージ画面には写し出されていた。


「大丈夫なのか?千花の地元と言えば良くない噂で有名だって真奈が言ってたぞ」


「都市伝説の話は、そうね。私も被害に遭いかけているから一概に全てを否定出来ないけど...、会った事の無い親戚とはいえ、心配だわ...」


ふたりが話していると、娘の真奈と息子の夜紘が千花のスマホ画面を見て「ホラスポブレイカーちゃんだ」と言った。


「2年前に、修学旅行に行った時に見かけたよ、この子」


「修学旅行の3日日、ずーっと寝てたんだって!お友達になったなっちゃんから聞いた!!」


子供達の話を纏めると、まひろ、と言う女の子にはとんでもなく強い守護霊様、の様なモノが憑いていて所謂悪霊怨霊の類いは決してまひろには近付けないのだと言う。


「なっちゃん、って言うのはね、あたし達やこの子のお友達!」


「お家が神社で、幽霊とか妖怪が視えるんだって!」


神社、と聞くと地元のせいで良い記憶が無いのだが一般的な神社は関係ない、と千花は割り切っている。


―――まひろを引き取った、と言う次の日、まひろはホラスポブレイカーとしての片鱗を遺憾無く発揮した、と、父から電話があった。



大学進学、結婚を期に1度も帰省していなかった地元に足を踏み入れると確かに「ナニカ」が変わった空気に満ち溢れている気がした。


真奈と夜紘は「おかーさんの方のおじいちゃん達に直接会うのは初めてだ」と楽しそうに八坂の家のある丘の上に走って行った。


結構な上り坂なのだが、子供達は特に苦にもせず駆け上がっていった。


八坂の家に辿り着くと、縁側でメッセージで送られてきた写真の少女まひろがいた。


まひろの傍らにはかなり上背のある男がいて、まひろにしっかりとくっついていた。


家の中でも男女がキッチリ分けられているこの地域では本来有り得ない光景に、父の話は本当だったのか、と千花が思っていると、まひろの傍らにいた筈の男が目の前に立って、こちらの顔を覗き込む様に見ていた。


「まひろに、害は無い」


そうつぶやいたかと思うと男は再びまひろの傍らに座り、その頬にすりすりと頬擦りしていた。



久しぶりの実家は、家の中がとても明るく感じた。


子供の頃は、家の中に何処か陰鬱な気配が漂っていると感じていたのに、そう言った様子はちっとも無かった。


これなら安心して家に帰っても良いかもしれない。


「ねえお父さん、まひろちゃんと一緒にいるあの人は誰?まひろちゃんのきょうだいかなにか?」


父は「たぶん、詳しく話すと長くなる」と言った。父がそう言う時は間違いなく半日以上が潰れるので答えだけを聞く事にした。


「彼が、この村を心霊的にも、都市伝説としても物理的に終わらせた存在なんだよ」


「物理。」


「確かなのは、彼は地方で畏れられたり信仰される少数派(マイナー)な妖怪や神の類いでは無い、って事かな」


―――八坂夫妻と小鳥遊夫妻が、まひろの傍らで番犬か、気まぐれな猫の様な振る舞いをしている男がかの有名な「酒呑童子」と知るのはもう少しだけ先の話である。

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