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戦況報告
開戦後72時間以内の電撃戦で占領した地域は89%を保持、第2撃での侵攻作戦もパラナを除き成功している。次作戦では防衛戦力の乏しい地域を重点的に占領し、各拠点を孤立化させるよう行動する。戦況は優勢ではあるものの、依然として戦力比は1対3であり、各国との連携が重要視される
トロント動向
隣国トロントは我軍と同時に宣戦布告したものの、エクストロキアとの国境は山脈が大部分を占めており、陸上支援は期待できそうに無い。しかし航空機による爆撃と物資補給を約束しているため、南部の航空戦力は最低限に抑え、北部に集結させるべきである
パラナでの敗北について
事前の航空偵察及び衛星写真では攻略部隊の60%程度と思われていたが、侵攻時には倍程度まで増強されていた。これは周囲の密林地帯に潜伏していたほか、地下に大規模施設が存在すると考えられる。この地域のみに伏兵が現れた理由は不明であり、早急な占領、及び調査が必要と推測される
傭兵の雇用について
現在我軍は約500名の外人を含む傭兵を雇用しており、ある程度の独立性を持たせた上で我軍に随伴させている。これはクロスフロントにおける傭兵部隊の活用を参考としたためである。傭兵は機動性が高く、撹乱戦術を取るには最適で、主に別動隊として活用される。しかし我軍とのトラブル発生数は増え続けているため、更なる独立性の強化が求められる
アルメリ
「……気分悪くなってきた…」
「このロデオ車両内で読むもんじゃねえよ、おっと!」
機甲部隊を含むパラナ攻略別動隊は時速50キロ内外で東進を続けている。偵察車を前方に据え、その後ろに戦車、歩兵戦闘車、自走砲、対空車両と続き、やや離れてトラック群
第666分隊ストライカー装甲車は更に後ろで孤立していた。まぁ、衝突の危険があったので意図的に離れたのだが
エレナの運転はすごい、急加速と急減速しかないのだ。等速直線運動中はある程度の安定性が出るが、障害物に突き当たった瞬間にぐいっとブレーキ踏んでぐいんと曲がる。その度にユリアナが悲鳴を上げていた
「これが高性能車両の代償だよ」
「え?」
「これやるからこいつで我慢してくれ、って事だ」
我慢できそうにないのが1人いるが
「もういっそ殺せ〜……」
「ほら頑張れ、あと30分くらいだ」
「無理〜……」
エチケット袋片手に青い顔で寝転がるユリアナである。頭はマリアンの膝に乗っていた
「一応だが、敵情報を確認するぞ」
「1個旅団ってこれに書いてあるけど…っとと…」
「それが全部攻略本隊の方向いてる訳じゃ無いんだ。半分以上は市街地内に立て篭もってて、周囲にパトロールが出てる。痛っ!…見つからずにパラナ入りは無理だろうな」
「この規模って1日で制圧できるもんなのか?」
「常識的に考えて無理だ、立て篭もった敵はしつこいぞ。逃げてくれればいいが、最悪どうにかして基地に押し込んでからそれに書いてある通り他部隊に補給路を断って貰って、干上がるまで攻城戦になるな」
「うへ……あだっ…!」
「少し前に大規模地下施設を作った記録があってだな、何に使うかは不明だがとにかく広い、下手したらもっと隠れてる可能性もある。下手なおおお!?……下手な攻勢は危険なんだよ」
「つまりまた負ける可能性も……」
ガッゴォォン!!
「「いっでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」」
一際大きく跳ね上がったストライカーは着地後にエンジンをフル回転させ、最大速度まで持って行く
「何だ何だ何だ!?」
「敵航空機接近!!爆撃されてます!!」
天蓋を開けて首を外に出すと、ジェット機2機が攻撃を終えて旋回している所だった
「フロッグフット2機!!狙われてます!!前方で地上戦開始!!」
敵機来襲とほぼ同時、恐らく狙ったのだろう、エクストロキアのT−72とM1エイブラムスが砲撃戦を始め、自走砲は長砲身を天に掲げる
部隊はパラナ侵攻を中断しドンパチ始めてしまった
「どけ!」
後ろから言われて首を引っ込め、入れ代わりでマリアンがスティンガー担いで外に出る
FIM-92地対空ミサイル、毒針の異名を持つ。ロックオン装置を含む本体に砲身兼用のミサイルコンテナを装着し、発射機にバッテリーユニットをねじ込めば準備完了となる。電力供給が1分もたないのがネックだが、命中率世界一としてギネス登録されている
「迎撃するなら早く!!次狙われたら避けれません!!」
「わかっている!!」
外を見るため運転席横へ、エレナが小さい体でアクセルを踏んでハンドルぶん回していた。似合わない
前方に距離が詰まりつつある戦闘車両隊、25mmガトリングを爆撃機に向け乱射しているが、対空車両は1台のみ、勝てるかどうかはかなり怪しい
「あー、こちら666、航空隊を少し回してくれ、待ち伏せされた」
スティンガーミサイルが発射されて白煙が舞う。ロックはしっかりされていたが、上に逃げられたら射程が足りない
「次!!」
「あ…おう!」
通信中のレオンの脇を通ってミサイルコンテナとバッテリーを掴みマリアンへ手渡す
先程のスティンガーは避けられ、しかし味方のガトリングが1機を撃墜した
「ハインド1機接近!!」
ヘリコプター1機追加
「機関銃撃った事あるか!?」
「ある訳ねえよ!!」
「なら初体験だ!!やっちまえ!!マリアンはあっちに移動!!」
2射目を終えたマリアンが首を引っ込め、別の天蓋へ移動、M2重機関銃が使用可能になる
「あんま期待するなよ!?」
首を出す、目の前にヘリが1機
「気をつけろ!!下手したら顔なくなるぞ!!」
「あんた自分でやりたくないだけだろ!!!!」
エイブラムスとT-72の撃ち合いはエイブラムスの圧勝で終わりそうだ
こちとら数度の改修を受けたM1A1HA型で、戦後第三世代、劣化ウラン装甲による圧倒的な防御力を誇り、120mm滑控砲装備。ぬかるみにはまって移動不能な状態からT-72三両を撃破した逸話がある。
対するT-72は第二世代のB型、攻撃力ではエイブラムスと同等だが、それ以外のほぼすべてで劣っている。世界を代表する名戦車も旧式となっては最新機には勝てるはずもなく、草原に無惨な姿を晒していた
「フロッグフット来ます!!」
「トラック隊の援護位置に入れ!歩兵さえのこってればどうとでもなる!」
残勢力は爆撃機1機とヘリ1機。更に北から増援が来ているようだ。こちらも航空支援は要請したが、間に合うかは不明
「AGM!!狙われてるぞ!!」
「チャフぶちまけろ!!」
ボン!と、無数の金属片が打ち上がった。敵機のレーダー誘導を妨害するためのもので、何の変哲もないアルミ箔である
それだけでミサイル(Air-to-Grand Missile)は目標を見失い、草原に突っ込んで爆散した
「だぁら!!」
M2重機関銃を振り回してヘリに照準を合わせ発砲。12.7mm弾は反動が強く、しっかり握っていないとばらけてしまう。
飛距離が足りず、命中は無し。たが牽制にはなった
「そのまま抑えていろ!!」
マリアンがスティンガーを構え照準、ロックオンを終わらせ、撃ち上げる
白煙の帯を残してミサイルがヘリへ突撃し、横腹に直撃。轟音と炎を噴き出して爆発させた
「弾切れだ」
マリアンが引っ込む
しばらく味方のガトリングが爆撃機を追い回した後、向こうも弾切れで帰っていった。被害は偵察車が2両
「増援は?」
「友軍が間に合った」
少し遠くで爆発音
ヒュン、と、F-15Cイーグル2機が上空に現れた
「休憩兼ねて今のうちに弾の補充しよう、補給車呼ぶぞ」
「早くね?」
「ユリが限界だ」
ああ
姿が見えないと思ったら、隅っこで固まっていた
「見てやるな」
「了解」