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傭兵が必要な世界になってしまった理由は複数あるが、最たるはエクストロキアの焦りだろう
世界一の陸地面積を誇る国にとって、防衛能力の強化は必然的なものであり、特に大陸弾道弾から領土を防衛できるシステムは必要不可欠だった
通常の核防衛策は、自らも核を持つ事によって互いに睨み合いを続ける事である。撃った直後に反撃が来るから撃つ事ができないという、いわゆる核抑止論
しかし、大気圏脱出ロケットの開発に失敗したエクストロキアにとって、他国からの大陸弾道弾を抑止する術は無かった
今現在で大陸間弾道ミサイル、いわゆるICBMを持っているのは、北半球のアルメリア、クロスフロント。保有はしていないが、ヴァラキアもやろうと思えばすぐ作れるだろう
これから身を守る為に開発されたのが弾道弾迎撃兵器と、それの発射台となる航空プラットフォームだった
高速で迎撃位置に移動可能で、陸地に影響の生まれない段階で弾頭を破壊する事ができ、場合によっては通常戦闘も行う
それを開発しようとした結果、費用は軍事費で賄えるレベルを遥かに超え、支援という形で周辺国の首を締める事になった
だが一度目は失敗、離陸直後にエンジンから火が上がって、乗員120人を道連れに墜落している
120の中には明の両親も入っていた、と聞かされているが
そして現在、2機目が完成間際であり、仕掛けるなら完成前と思ったのだろう、周辺5ヶ国が宣戦布告に踏み切った
結果として生まれたのがこの状況
「また物資……、まさか明日も攻撃かける気じゃないでしょうね」
ぶら下げていた木箱を降ろして帰っていったヘリを見て呟く
入れ代わりでC−1輸送機が着陸し、今度は人間を降ろし始める
ベースキャンプまで帰還してからまだ30分。正規軍は戦力補充に励んでおり、今すぐ再侵攻します、とか言われてもおかしくない
せめて少しくらいは作戦を練り直して欲しい所だが
「よし、これで派手に動いても大丈夫なはず。痛い?」
「いや。悪いなわざわざ」
包帯の張りを確認してからシャツを着直す。迷彩服は穴が開いてしまったため、新品を調達しなければ。あの補給品の中に入っていればいいが
「いいわよ別に、これくらいならいくらでも」
救急箱をしまう女性を見る
年齢は同じくらいだろう、薄い茶色の髪が肩まで延びていて、目は青色、さっきまで着ていた迷彩服は脱いでシャツになっている
「ユリアナ・リリ・エルク・イェルネフェルト。ユリでいいから」
「む…ああ。明だ、よろしく」
荷下ろしを終えた輸送機は急ピッチで点検を終え、再度離陸していった。あれではパイロットが可哀相だ
人材がどれだけ貴重かはわかっているだろう、それでも急ぐという事は、やはり明日か
「明くんね、極東の人?」
「恐らく」
「?」
「2歳で親が死んで、なんか事情が複雑らしい、名前以外わからないんだ」
「あ……そう。ごめんなさい」
「大丈夫だ」
また輸送機が飛んできた。今度は大型のC−17で、中身は戦車と装甲車が1両ずつ
「エイブラムス、ブラッドレー…。あんな国頼って屈辱感は無いのかしら……」
「何が?」
「ああいえ、こっちの話」
最後に偉そうな将校が降りてきて、C-17が離陸。兵士数人が駆け寄った
「20時間後に再攻撃だとよ」
そこまで見て、後ろから男
くすんだ金髪で長身、体格もいいがゴツゴツしている訳でもなく、一言で表すなら『青年』
「……何、期待通りなの?バカなの?死ぬの?」
「まぁ下手したら死ぬな」
ぺらりと作戦指令書を見せてくる
こんな紙っぺらで地獄に行かされるとは
「レオンだ。傭兵の生き残りは俺ら4人だけらしいから、傭兵だけで1班構成とのことだ」
4人だけ、と
今日の朝には1小隊30人ほどいたから
約26人死んだのか
「で、あそこで弾薬漁ってるのがマリアン」
指差された方向を見ると、MG4軽機関銃を背負った、青色混じりの黒髪ポニーテールが、アーモ缶数個を抱えていた
軽機関銃といっても重量は8kgあり、発射速度は毎分885発。それに見合う弾数を持つとなると、女性1人では厳しいものがあるんじゃないか
「兵種はこいつが普通、あれが分隊支援、俺は狙撃兵な。まぁジャングル戦だとライフル背負ってサブマシンガン芸な訳だが」
よろしくな、と、手を差し出してきた
ので、がっしりと掴んでみる
そして笑顔
「……暑苦しい…」
「ん…?そこまで温度高くなくないか?」
「いやそういう意味じゃなくて……もういいわ」
ユリアナが立ち上がり、弾薬漁りに参加し出した
20時間後に出撃となると、いまから準備して飯食って睡眠取らなければならない
明も服を調達しないと生死に関わる
「こんな時代だ、頑張って生き残ろうぜ、相棒」
「…相棒はさすがに勘弁してください」
「そ…そうか……」
ショックを受けた
「ちょっとー!LAWが無いー!」
「あーそっちじゃねえよ!」
レオンも離れていく
火薬漁ってわいわいやっているのを見、溜息をひとつ
「なんだかなぁ……」
何が何なのか、自問自答したくなった