OP.SonicArrow 4
「あと何分だ?」
「2分切った」
左横5メートルで敵歩兵2人が話し合っている。内容を考えるに何かを待っているようだが侵入に気付いている様子は無く、出入口からここまでの歩哨が全滅している事も知らないらしい、このまま動かないようなら展開はさっきと同じ
「じゃあ今頃向こうはて…………」
血の花がひとつアスファルトに咲く
一切の狂い無く頭部に直撃だ、2人のうち片方が倒れ、間髪入れずに飛び出して残った片方へデザートイーグルを向ける
マグナム弾が飛び出して、歩哨の胸に直撃
「駐車場は掃除し終わりましたね」
50メートル離れた場所からネアが出て来た。あの距離から拳銃でヘッドショットだ、どういう目をしてるのか知りたい
「ここから進めるとこまで進んで、会敵した時点で強攻突破に切り替えますよ」
「本当に2人で大丈夫か?」
車の間から出て競技場への階段前に集まる
人がいないといっても1個小隊はいるだろう、約20人、蛇の人なら楽勝だろうが
「見た感じなら大丈夫でしょう、素人臭さもねーですし」
「1週間たってないけどな」
「とりあえず上登って……なんですと?」
1段目に足をかけた直後、ネアが勢いよく振り返った
もたついている場合ではない、移動継続を促す
「……もしかして懲罰部隊だったとか…」
「犯罪者集団ではないな」
「じゃあ幼少期から戦闘訓練を…」
「その可能性についてはむしろ君の方が疑わしい」
階段を登って地上1階に到達、人影は無かったができるだけ小声に切り替える。比較的新しい施設らしく綺麗なリノリウムが続いていた
観客席には数人立っているのがわかっているためそちらには近付かず、施設中央を目指して前進
「いいですか、兵士というものは訓練修了したからってすぐに活躍できるものじゃないんです、殺人行動に慣れるまで1ヶ月程度かかります」
「まぁ嫌は嫌だけどな、今でも」
「あなたの即応性は普通じゃありえない」
「あー、そういや子供が怪我したの見ても冷静すぎるとか言われてたな」
廊下は一通り確認し、ウージーに持ち替えたネアが部屋のチェックを始める。明のSG552は室内でも十分取り回せる作りをしているが、どうせ補助だ、本格的に始まるまでデザートイーグルでいこう
「……ご両親は18年前の航空プラットフォーム1号機で亡くなったんですよね」
「ああ、記憶は無いけど」
「あの惨状を直で見たのなら、物心つく前の出来事でも脳が勝手にアレと比較しちゃってるのかもしれません、あれ以上の死体なんてそうそう作れませんから」
ただその場合…と言いながら事務室への扉に手をかけ、一瞬停止、明に向けて指を2本立て、次いで扉を指差す
少なくとも中に2人
デザートイーグルを構え直し、ネアの肩を2回叩く。打ち合わせ通り突入を開始した
「なん…!!」
ドアをぶち空けてから1秒足らずで正面にいた2人がダウン、脇を通って明も入室し、左側の通信兵へ発砲、デスクの影へ消えた
「クリア!」
この間2秒
まず死体を見て高級士官ではない事を確認し、それから通信機、電話中ではなかったようで目立った点は無し
「次行きますよ、たぶん今ので気付いたでしょ」
急ぎ部屋から出て2階への階段を探す。自分ら以外の足音も発生しており、敵が向かってきているのは間違いない。ただ数は少なく、本当に本拠点かと疑いたくなる閑散具合だった
ネアを先頭に2階へと駆け上がり、遊び場で反転する間にショットガンの発砲音2回、入れ代わりで敵兵が転がり落ちていく
「廊下の向こう側に敵!!」
どうやら本拠地は放送室にあるようだ、廊下にあった長椅子が押し倒され目下体育マットで補強中。それを守るべく敵兵2人がライフルをこちらへ
一直線の廊下でこの状況はかなりまずいものがあるが、そこからのネアは超人的だった
構えていたショットガンを右手1本で持ち替え腰のMk23大型拳銃を左手で抜き取る。ほとんど照準をつけない腰溜めで連射しつつ真横にあったドアへ向けてショットガンを発砲、蹴倒して中に入っていった
「フラグ!!」
ライフル弾と共に指示が送られてくる。フラグとはフラグメントグレネードの略で、更に和訳すると破片手榴弾となる、つまり投げろという事。階段に伏せて隠れている現状、投擲を妨げるものは何一つ無い
「行くぞ!!」
レバーを握ったまま安全ピンを引き抜き振りかぶる。手を離した直後に信管が作動するので、投げてから爆発までに数秒
バリケードの内側にリンゴ玉が吸い込まれる
この場合、投げ返されるのは定番だ、しかしそれはネアが許さなかった
1人が拾って、振りかぶった直後、ウージーから発射された9mmパラが殺到、鮮血と一緒に床へと戻っていく
爆発、間髪入れずに走り出すネア
「クリア!」
明が辿り着く頃には残っていた指揮官も血に沈んでいた
『アルファからポラリスへ、敵部隊のポイント到達を確認した、予定通り実行する』
こちらの通信機は稼動中、受信状態で声を送っている
『ポラリス、どうした?』
返信するべき人間は既にいない、案の定不審がり出した
「……」
スイッチを送信に切り替え、ネアの指がマイクを叩く。モールス信号のようだ
『?…りょ、了解』
通信切断
「なんて?」
「勝手にせえって」
「大丈夫なのか?」
「アルファってのはたぶん小隊で規模20人ですから、突撃開始するとかそういう意味でしょう。こっちは先行する全部隊に何かしら車両が付いてますから、たかが小隊に負けはしませんて。ここに殺到される方が困りま…」
ドッゴォォォォン!!
「…………工作部隊とは思わなかったなぁー…」
都市全域を爆発音が包み込む
ビルが一斉に崩壊を始めた
「なんだなんだなんだ!?」
駅に到着すると同時、正面の大通りが崩れてきた高層ビルによって通行不能となり、さっき確認したマンションも倒壊、道を塞いでいる。目視で確認できる限りあと3箇所、同じように爆破されたようだ
ストライカーと74式戦車は既に見えている、何が起こったのか情報が来るはずなので、走って車両部隊と合流
「どうした!?」
「まずいぞこれはまずい!!本隊と分断された!!」
通信機に繋いだヘッドホンから派手に音洩れを起こしている、部隊全体がパニックに陥っているらしい。それを聴くレオンは聖徳大使ばりの判別能力で地図に×マークを印していく
片側2車線以上、隣にビルのある道は全滅、郊外を通るバイパスも橋の部分で×を付けられた。すべての道路を塞がれた訳ではなく地図上で見れば何の事はないが、こちとら普通の乗用車とは訳が違うのだ、細道なんか通っていては時間がかかりすぎる
「北口に回ってこの道使えばなんとか…少なくともダガー5とは合流できる」
「部隊おっきくしたら余計ドツボでしょうが!このまま増援無しで走り回るしか…!」
「考えてる暇は無いぞ!!東から2個分隊接近!!」
外でマリアンが叫んで、迎撃するべくユリアナもストライカーから下車
「南東の飲食店に対戦車兵!!RPGを構えてる!!」
どうやら隠れていたようだ、割れた窓から敵兵が顔を出し、ロケットランチャーをこちらに向けた。種類は超有名なRPG−7ではなく現役のRPG−22、最近流行りの使い捨てロケットランチャーで、重量3kg、1人で何本も持ち運べる上いちいち装填する必要がない、そして撃ったら捨ててしまうため通常戦闘にも参加できる。軽量故に戦車を破壊できるほどの威力はないが、装甲車程度なら難無く爆破できる
案の定、照準はストライカー
「急速回避!!」
エレナが宣言したのをレオンが復唱し周囲に伝達、ただちにストライカーから飛びのく
ギャリギャリギャリ!!と音を立てて8輪車がドリフトをかました。尻を掠ったがなんとか回避には成功
「敵前面に制圧射撃!!」
マリアンのMG4とレオンのM2が火を噴き出す、特に不満もなかったらしい、74式も従った
ユリアナは2発目を撃たれる前に対戦車兵を片付ける事にする、店内に引き篭ろうが関係ない、目には目をだ
M72ロケットランチャーのチューブを引き延ばす
「吹き飛べーッ!!」
爆風が後方に、爆炎が前方に飛び出した
数秒と経たず1.8kgの66mmHEAT弾が飲食店に突き刺さり、炎と衝撃波を撒き散らす。確実に仕留めただろう、チューブを捨てSCARに持ち替える
「グレネードランチャーでも付けたらどうだ!?」
「山なり弾道が気に食わない!!」
敵に接近させないようひたすら撃ちまくり、その間に74式を突撃させる。2〜3人倒して、後は退却していった
「おいどうする!?一旦退くか!?」
銀の黄昏が聞いてくる。後続がいないのだ、下手に戦闘継続していては危険である
が、こっちには退却できない理由がひとつ
「逃げるなら勝手にやって!!潜入させたのが戻ってないの!!」
手放した地点は通り過ぎたが、打ち合わせは場所も時間もまだ少し遠い、指示を送ればすぐ戻ってくるだろうが、こちらも前進しなければ合流は難しい
「わかった!!もう少しいってみよう!!」
最近のPMCは情熱的だった
「航空支援は!?」
「ヘリ2機が駆けずり回ってるが追加にはちと時間がかかる!!代わりといっちゃなんだが30秒後にMLRS!!」
敵陣にロケット弾をぶちまける、とのこと
「じゃあ着弾確認後に前進再開!!30秒!!」
装備の関係で足の遅いマリアンはストライカーに収容、その間にGPSシステムで潜入組の位置を探し出し、移動ルートを組み立てる。幸か不幸かここから一直線で、バレやすいが時間はそうかからない
次いでトランシーバーで連絡をはかる
『ごめんなさいごめんなさい止められたのにごめんなさいー!!!!』
「え!?」
『いっつもそうなんですよ最後の詰めなんですよ油断して包囲されるわ生き埋め喰らうわ!!』
「と、とにかく今駅にいるから直線で合流して!!10秒!!」
『じゅううううびょおおおおおおおお!!!!』
うるさいので切った
「来るぞ!!隠れろ!!」
衝撃波を喰らわないよう車体の影へ
轟音
「押しまくれぇぇ!!」
煙へ向かって走り出した