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OP.SonicArrow 2





















「……乗りたくない」


見事に復活したストライカーへ物資を積み込み直している最中、ユリアナがそうのたまった


「酔い止め飲むか?」


「その程度のものであの地獄に耐えられるとでも?」


普通は耐えられると思うのだが、どうやら車酔いしやすい体質らしい。ここから目的地までは幹線道路が伸びているので上下には揺れないとしても、きっとエレナのことだ、前後左右に揺らしてくるだろう。ユリアナもあれやこれやで安全運転してもらおうと働きかけていたようだが、ことごとく失敗、スピード狂は不治の病だと実証するに留まっている


「ねえほんと急ブレーキだけでもどうにかならない?」


「意識すればいけますけど、なにぶん慣れというのが」


直す努力はしているようだ


と、それを聞いていたレオンが何か思い出したように顔を上げ


「その事だが、知り合いに頼んでエコモードを搭載して貰った」


「え?」


「簡単に言うとアクセル制限だよな」



近年の低燃費乗用車にはよく搭載されている。エンジンが電子制御されている事が前提条件となるが、強制的に加速を緩やかに調節し燃費を向上させる。燃料代を浮かせたい人には喜ばれる機能で、逆にレーサーや暴走族にとっては冒涜以外の何物でもない。実際、聞いて2秒でエレナが泣きそうになっていた


「だ、大丈夫だ切り換え効くから」


レオンが焦ってなだめ出す


反比例するようにユリアナは元気を取り戻し、そそくさとストライカーに乗り込んでM2用の弾帯をジャラジャラさせ始めた。もはや憂いる事は無いと、そんな顔だ



「でもアレが管理できるのって加速だけじゃないですか?」


「え?」


「アクセル踏んだ時は緩やかになりますけど、ブレーキとハンドリングはどうしようも……」


「ストップ、ストップ、それは出発するまで黙ってよう、話ややこしくなる」


これ以上余計な事を言う前にネアを黙らせ、乗車を促す。今日はウージー1丁に付け加えセミオートショットガンを腰からぶら下げていた。戦闘距離が短くなると見越してのチョイスだろうか、予備弾薬の所持数を半分こしている上に走る時邪魔だと思うのだが、そもそもウージーサイズのサブマシンガンを2丁持ちしている時点で常識は通用しない、黙っておこう


「……それで、私達の割り当てはどうなってるんでしょう?」


「俺に聞かれても」


「ですよね」


走りながら説明されるつもりで来たのだが、情報を持っているレオンは子供をなだめるのに必死だ。出発まで待った方がいいだろう


車内は既に弾薬と雑貨で3分の1が占領しており、うち1つのアーモ缶からは12.7mm弾がじゃらりと伸び、ユリアナの手によってM2重機関銃に繋げられつつある。今日は100発入り8個持ってきたようで、その代償としてMk19はEMPTY状態、出番はなさそうだ


後は大量の5.56mmと、少量の7.62mm、9mm、ネアの私物。特にバレットM82は収納ケースが無いらしく、2つに分解されたまま立てかけてあってかなり目立つ



「それじゃ、今日の割り当て決めようか」


セット完了したユリアナが降りてきた


「まずこれはおっさんに使わせるとして」


上のM2を指差す。いちいち狙撃ポイントを探していたら進撃速度に追いつけない上、その度に観測手を取られる性質上、攻撃には狙撃は向かないようだ


しかしM2だってうまく使えば狙撃にも使えるのである


「ストライカーの護衛に2人。まずマリーは決定ね」


さっきから助手席で沈黙を保っているマリアンへ視線を送る。いつも無口だが、今日はいつにも増して無口だった。朝に慌てて出ていってからまだ一言も喋っていない


それに関しては朝食時に少々尋問を受けたが、深夜の解散までに寝落ちしていた事もあって吐く事もなく、何が起きたかは神のみぞ知る


「ショットガンで防衛ってのもどうかと思うんで、私は動き回る方を」


座席に腰を降ろしつつネアが言う


「じゃあバランス考えて明くんも攻撃で」


「バランス?」


「昨日の1ショット1キルっぷりなら多少足引っ張っても大丈夫でしょ」


「ああうん、そういう意味な…」


自分を戦力として数えるにはかなり厳しいものがあるのはわかっているが、なるほど、そういう補完方法で来るかと。普通は楽な配置にして対応すると思うが、(10+0)÷2=5的なやり方だ


「恐慌状態にでもならなければ問題ねーですって」


それはもしかして励ましているのか?




「よし行くぞー」


レオンが乗り込んできてハッチを閉め、運転席にエレナが入る。ほどなくしてエンジン始動、ゆっくり、とはいかないものの常識の範疇内な速度で動き出す


「アクセルが!!アクセルがぁぁ!!」


「大丈夫だ!!最高速制限はかけてない!!」


案の定というか騒ぎ出した


「あー快適快適」


ユリアナが満足そうにくつろいでいる


が、10秒待たずに急ブレーキ、急旋回ときて、エコモードの限界が浮き彫りとなり


「快…適……じゃない…?」



残念ながら今回も地獄になりそうだ
















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「結構遠くまで来ましたねぇ」


ストライカーに揺られつつ、ネアが呟いた


そう言われて見ればクランフォールとの国境からはだいぶ離れた気がする。明が参戦してからの数日でも物凄い速度で進撃しているし、それに開戦72時間での奇襲戦を付け加えると、エクストロキアの30%は既に占領したと言える。同盟国が4ついるといっても、うち3国は敵陣の国で手一杯だし、残りも地理的都合により陸軍がうまく展開できていない。実質、クランフォールのみでの戦果だ



アルメリアの支援があるとしてもこの速度は速すぎる



「なぁ、なんでこんな急いでるんだ?」


「すまん今ちょっと忙しいからユリに聞いてくれ」


送受信機を接続したノートパソコンと睨めっこしているレオンが言う。青い顔でうーうー唸っている人に聞けと言うのか、まぁ、きっといつも不遇な扱い受けてる分の仕返しだろう


「……大丈夫か?横になった方が」


「あー……いや…加速が無いぶんまだマシ……」


壁に後頭部を押し付けていたユリアナがゆらりと顔を通常位置に戻し、大きく深呼吸。直後に襲ってきた減速Gに悲鳴を上げ、勢い任せでネアの肩を枕にした


前回と比べると症状は軽く、吐くまでは至っていない。しかし念のためエチケット袋は持たせている、握り潰されてグシャグシャだが


「……約1世紀前ぇー…北洋…大陸戦争ぅー…」


「うん」


「世界最高の経済基盤を持つクロスフロントに対しぃー…開戦当初の奇襲で圧倒的有利に立ったヴァラキアですが……結局負けたじゃん…」


「そうだな」


「状況…まったく一緒…」


「……おお」



現在の敵、エクストロキアは国土面積第1位、土地が広いという事はそれだけいろんな事ができるという事であり、実際、GDPではクロスフロントに次いで世界2位となっている。対するクランフォールはここ数年のゴタゴタが原因で経済基盤など崩壊しているも同然であり、全体規模においてエクストロキアの10%にも満たない、持久力の差は歴然としていた


「ヴァラキアは20年とちょっと耐えたけど…クランの場合はもって半年だから…最低でも年明けまでには決着付けないとまず負ける訳……」


「それ、可能なのか?」


「可能だと思う…?」


普通、無理だ


悪事を働いた国を他の国がフルボッコにするというシチュエーションなら、過去最速で2ヶ月、正規軍が瓦解し散発的ゲリラまで追い込んだ前例がある。しかしそれは戦力差が歴然としていたからであり、例えるならアントニオ猪木がガキ大将を張り倒した状況だ。今回はその逆なので、勝つにはやり始めの奇襲しかない


「でもね、結局、こうなるしかなかったのよ…あのクソ腹黒国家アルメリアから支援され始めた時点で操り人形は確定だったし…よしんば拒否しても財政破綻するだけだし……」


「…で、しょうがないから早期終結を目指してると?」


「そ……正規軍殲滅はどう考えても無理だけど…一切の反撃を許さず圧倒できれば、向こうがやる気を無くすかもしれない…クランとしては今の恐慌状態から抜け出せればそれでいいんだから……」


「煽りまくった国民感情は?」


「そんなもんマスコミが頑張ればどうにでもなるわよぅ……」



症状悪化したらしく、頭を下にずらしてネアに膝枕させた、限界らしい



「……まぁ補足しますと、砂漠だらけのヴァラキアが27年も戦争できたのは理由があったんです」


苦笑しつつ、ネアが話を引き継いだ。こういう話はやたらと詳しそうだが、どうなんだろう


「いくつかありますけど、最たるはクロス政府が能天気だったんですよ。真横にある国を仮想敵国にもしないで自国内での使用前提な兵器ばかり作ってたから、開戦後の反撃が呆れるほど遅れた」


砂漠の粉塵に戦車や戦闘機が耐えられなかったんですね、と付け加えた。今日まで続く引きこもり外交っぷりだ、攻める気など毛頭無かったのだろう


しかし、戦争とは攻めなければ終わらないのである


「今回それと似たようなアドバンテージはアルメリアからの高性能兵器です、どうなるにしろ永続的なものではない。戦況が逆転すれば早々に手を切りたがるでしょう」


「……つまり?」


「1センチの後退も許されないんです、私達は」




夢見事だろう、それは




「やらないと全滅」


「マジか」


「いつの時代だって他人には無理強いするもんです、どうなったって構わないんですから」



確かにそういう風潮がある


外交=潰し合いなのだ



「でもまぁ、とりあえずはエチケット袋作り直すとこから始めましょうか」



「確かに」

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