会敵
幸福か不幸かで言えば、不幸な部類に入るんじゃないかと思う。
2歳の時に両親が死んだ。いや、死んだらしい。当時の事はよく覚えていない、記憶していたのは"明"という名前だけで、物心ついた時には孤児院兼教会にいた。
頼るべき身寄りも無く学校に行けなかった、成人に近付いてくると教会に頼り切りなのも申し訳なくなり、20歳の誕生日に傭兵業に就いた訳で、今は初陣の真っ最中だったように思う。
概要を確認してみよう。
目標はエクストロキア北方の都市パラナの制圧で、クランフォール正規軍1個連隊を含めた大部隊だったはずだ。
自分と味方数名はジャングル地帯を突破して別方向から奇襲をかける割り当てで、武装はSG552アサルトライフル、デザートイーグル50AE自動拳銃、M67手榴弾2個。ジャングルを抜けるまで会敵する可能性は低いと言われている。入って5分で嫌気がさすような密林だったからすぐに納得した。
そのまま30分くらい歩いて、そう、確かクレイモア地雷に引っ掛かった。
射程50メートルの小粒鉄球700個を前方60度にぶちまける地上設置型地雷だ、それが起爆して右脇腹に激痛が走った所までは覚えている。
感触からして、地面に倒れているらしい。あと発砲音が聞こえる、かなり近い、というか、近すぎる。
「…………」
ゆっくり目を開けてみる。
まず目に入ったのは飛び散る空薬莢と、足。
場所はジャングルで、やはり倒れていた。発砲音の正体は目の前で行われている銃撃戦。
視線を上に向けてみるといたのは人間の女性で、色の薄い茶髪、こっちに背を向けてアサルトライフルを連射している。
「おいもう持たないぞ!!早く回収しろ!!」
「わかってる!!いいから援護!!」
別方向からパパパパ!という軽い銃声とガガガガ!という重い銃声が加わった。それを確認してから女性がこっちを向いてしゃがみ込む。
「立てる?200メートルくらい後退するわよ」
10代後半か20代前半という所だろうか、自分と同い年くらいに見える。比較的長めな髪に、緑と茶色のウッドランド迷彩
「あ……あぁ…」
差し出された手を掴み一気に立ち上がる。途中で腹に激痛が走ったが、引っ張られたため動作は止まらず。
「走って!!」
女性は再度反転して連射を再開、どうしても鈍速になるこちらにペースを合わせ、ゆっくり後退していく。
流し目で後ろを見るとフェイスペイントまでした真緑の敵兵らしき人間が5、6人、3方向からの銃撃で足止めを喰らっていた。
「ストップ!!」
「うぉ!?」
いきなり肩を掴まれて急停止、脇腹が痛い。
下方向に押し込まれてしゃがむと、岩の影に隠れる形となった。
「傷口見せて、応急処置する」
とは言われたものの、有無を言わせず服をめくられ腹を露出。そしてピンセットを取り出す。
「え……それで何する気だ…?」
「何って、弾の摘出」
「は…ちょっと待てそんな麻酔も無しに…!」
「大の男がつべこべ言うな!!」
腹にそれが突っ込まれた。
「い゛……!!」
時間にして約2秒、そこらの衛生兵に見せたら拍手ものの手際だったろう、しかし痛いものは痛い。
「うん取れた、もう大丈夫よ」
全力で痛みに耐えている所にガーゼが当てられ、テープでぐるぐる巻きにされる。
「オッケ!!」
しばらく悶絶していたら痛みが引き、以降何ともなくなった。素晴らしい腕である。
余裕ができたので周りを見回してみる、ピンセットをしまった女性はアサルトライフルの弾倉を交換して三度発砲し始め、それを合図に短機関銃を握った男性がこっちに向かって走り出し、左から軽機関銃装備の女性が乱射しながら近寄ってきた。
「1名排除」
追ってきた敵1人に弾丸が命中してつんのめり、そこに追撃が入って動かなくなった。
「ッ……」
生まれて初めて死体というものを見る。
嫌悪感は無い、自分もあれを作るためにここまで来たのだ。しかし怖いものは怖かった。
「撤退命令だ、本隊が壊走したらしい」
「でしょうね、この様子じゃ」
アサルト装備の女性が腰に固定していた筒を1本外す。M72ロケットランチャー、LAWと呼ばれる使い捨て装備である。
「聞いてた?出発地点まで戻るわよ。合図したら走って、できれば撃ちながら」
「お…あぁ」
SG552をストックを使わず構える。アサルトライフルだが、サブマシンガンとしての使用も可能だ。
それを確認してから軽機関銃が射撃を停止し、数秒、隠れていた敵兵が顔を出した。
「ゴー!!」
足元を狙ってロケット弾が発射された。
着弾まで見ずに反転して疾走。ランチャーを捨てる音と、ボゴン!という爆発音を背中で聞きながらジャングルをひた走る。
「3名生存、来るぞ!」
軽機関銃が撃ち始め、敵も撃ってきたらしく近くの木に穴が開いた。片手でSG552を構え後ろを向くと、アサルトライフルの女性がLAW2発目を準備していた。早く撃って軽量化したいようだ。
「足止めする!!」
銃弾が足元に集中し始めた。
それに習ってセミオート射撃すると、1発命中して隙が生まれ。
「発射!!」
頬を爆風が撫でた。
「うへ……」
2人爆発で吹っ飛んで倒れる。残り一人も体勢を崩して立ち止まり、銃弾で穴だらけにされていく。
「このまま突破するわよ、大丈夫?」
「む……大丈夫だ、もう痛くない」
「そう、良かった」
走りながら微笑まれた。
「……」
何だこの胸の高鳴りは。