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銀門 3




















「めっけた!!」


「め…?」


「ぁ…………こふん」


小物の山から1枚のCDを探し当てたネアである


「すみません、昔の自分と邂逅しました」


「そうか、若かったんだな」


「……………………」


ひとしきりレオンを恨めしい目で見つめた後、持ってきたノートパソコンにLANケーブルを繋ぐ。少し間を置いてから、CDドライブに認証キーらしきディスクを挿入



読み込ませること数分、画面に何かの三面図が現れた



「ちょっと明さん、そのへんからメモリースティック取って貰えます」


「ん、いくつだ?」


「できるだけ大容量なのを2つ」


小物の山から長さ5cm程度の棒を探し当てて容量を見る、2GBと4GBが大半だったが、16GBのものが少量混じっていた


見繕ったものをネアに渡し、中に重要なものが入っていない事を確認してからサーバー内の情報を移し始める


そうしたら、レオンが画面を覗き込み始めた


「……何やってんの?」


「サーバーのセキュリティ突破に成功したようで」


「……どこの?」


「ここの」


「……え…」


聞いたレオンは身を乗り出して画面を流れていく情報を読み取っていく。飛行戦艦関係だけ抽出しているようで、画像や性能表が踊っていた


「三面図と基本情報だけですね、これから欠点を見つけるのはちょっと」


「いや待て待て待て待てなんだこれどうなったパスワードどうしたんだマジで」


「一定法則で並んだ0と1を一度に8192ケタ以上入力するとバグるという性質がありまして」


「へ…へー……」


「そのセキュリティホールからパスワードが取り出せるんですよ。ソフト面で根本的な改修されない限りはこれでいけます」


「コードは?」


「バレたくないので教えません」


めぼしいものを移し終えて抜き取り、それは自身のポケットへ。今度はもうひとつのメモリースティックを差し込んで全内容コピーし始めた。さっきのは自分用で、これはきっと提出用


「正規軍には自力で手に入れてもらいましょ」


でもなさそうだ


「いいのか?」


「最低でも一週間後には手に入るしな、パスワード割った後はこれ差し込めばいいんだろ?」


欲しい情報も無さそうだし、と付け加え、レオンが一旦ノートパソコンから離れる。あまり興味が無いのかと思って見ていたら、自分用のメモリースティックを探し始めた


「関係無いはずだったんだがなー……」


何か呟いている



「搭載兵装だけ見てみましょうか」


メモリースティック3本目を受け取りつつワードファイルを開き、武器の項目までスクロールする。軍の管理物なだけあって大衆向けロボットアニメのような多彩性は無く、複数の弾頭に対応できる発射機(VLS)と機銃、それと爆弾を積むための弾薬庫のみだ、最近の兵器は弾の変更で要求を満たしていて、それを撃ち出す側はあまり代わり映えしないのが実情である


「対地兵器は一通り積めるみたいですね。SAMにグリスン、将来開発される予定の弾道弾迎撃ミサイルにも対応可能。宇宙を目指す気は一応あるようですが」


「それは予算の問題だろ、一度失敗したとはいえ技術はあるんだから、金と国民世論があればすぐ行っちまうよ」


40年ほど前の話ではあるが、ヴァラキアの宇宙開拓に触発されたエクストロキアも成層圏の向こうに挑んでいた時期があった。まず1基目はエンジン不調で離陸すらできず、2基目は1000メートル飛んで暴走、泣く泣く自爆。そのあたりでアルメリアに追い越され、頼みの3基目も衛星軌道を素通り。有人飛行が実現したあたりで国民が反発を強め、それから今までエクストロキアの宇宙への道は閉ざされている


ちなみに弾道ミサイル対策の初期段階で飛行戦艦の主兵装とする案もあったが、ミサイルの『誘導』よりレールガンの『速度』を取った訳だ


「と…対空巡航ミサイル…?」


一番下の項目


『Uranusbreaker』と名付けられたミサイルシステムがぽつんと記載されている。それ以外には兵器種別のみで、どういうものであるかは書かれていない


巡航ミサイルは通常ミサイルと違い、自前の翼とジェットエンジンで飛行する、航空機と同じ飛行原理である。2000km程度の射程距離を与える事が可能だが、コストの兼ね合いもあって普及しているものは500km以内が主流だ。コンピュータを搭載されているため、プログラムに従って迂回したり、敵の迎撃に対し回避行動を取ることができる。最大の長所は射程で、空軍のアムラームミサイルが有効射程40〜70kmであることを考えると実にけったいな兵器となる


「確か、燃料気化弾頭を積んだ多段ミサイルとか公式発表があった気がするが。他のファイルに書いてあるんじゃないか?」


「いえ…無いみたいですねこの中には」


ざっと見て飛行戦艦本体の実情しかない事を確認し、ノートパソコンを閉じた


「後でゆっくり見ましょう。今何時ですか?」


「午後5時前」


「じゃ、今日はもう休みということで」


行きましょとネアが出口へ向かっていく


「…………」


「俺はまだ仕事だよ」


「そうか、じゃあ……」


「頑張ってな」



何を










































M1A1エイブラムス 2両

M2ブラッドレー 6両

HiMLRS 2両

LAV−AD 2両

F−15E/Fストライクイーグル 3機

AH−64Dアパッチロングボウ 2機


ハーキュリーズに編入






次目標


コトボ占領に参加、同地を支配下に置くこと


先日までの3度における戦闘により敵主戦力は壊滅しており、現有戦力での占領は十分可能であると思われる。占領後は同都市に隣接する敵軍駐屯地へ進攻、基地としての機能を喪失させる


なお航空プラットフォームの情報については、現在諜報員を首都周辺へ送り込んでいるが、即急な情報取得は困難である。現在、敵基地からのデータ奪取か、対空ミサイルの高性能化が検討されている。現有兵器では対抗し得ないため遭遇時は即時待避すること
















「全体の戦況について書かなくなった、末期症状だ」


「さすがに早過ぎますよ」


負けそうな国が戦況をぼかして伝えるのはよく聞くが、開戦2週間目で勝ち続けているのにそれをやるのは少し考えられない


明日にはまたロデオストライカーに乗れと告げるコピー用紙を放り捨ててベッド上で一回転し、テーブルに置いてあったエネルギーバーを掴むユリアナである


エネルギーバーはレーションを解体して入手した間食用だが、緊急用のシリアルバーみたいな硬さはなく、触感は市販のカ〇リーメイトに近い、味をもっとマトモなものにすれば文句なしなのだが、なぜサラダ味なんてものを作ってしまったんだろう


「明日には直るの?あの車」


「たぶんエンジンは無事なんですよ、ギアボックス内は完全に壊れてますけど、そのへんの歯車交換すればなんとかなると思います」


と、テレビリモコンをいじくりながらエレナが言う


やってる番組はどこも同じようなプロパガンダ放送だが、旧世代的な戦争を煽るものではなく自制を求める内容になっている。方法はどうあれ戦争を無くそうとしている国が戦争推進する訳にはいかないんだろう


ちなみに"旧世代的なプロパガンダ"はクランフォール国内で絶賛放送中だ


「……戦争したくない国がなんで戦争の火種ばらまいてたんでしょうね」


「将来的に核ミサイルが拡散するのを予想して慌てちゃったんでしょ。なんだかんだ言って根は普通なんだから、問題なのは煽ってる連中と裏で手引いてる奴よ本当にしょうもない」


「アルメリア嫌いなんですか」


「おーもう大っ嫌いよー」


自慢げに言う意味がわからない


「じゃあ、なんでクラン側で参加したんです?」


「んー…?」



この戦争はアルメリアがクランフォールを焚き付けてエクストロキアに攻め込ませた戦争である。大陸半分を巻き込んだ大戦争になったのは予想していなかっただろうが、根本的な元凶はそこにある


つまり、クランフォール側=アルメリア側という事であり


「そういう条件で家出させてもらってるからね」


「家出?」


エレナがやや強めに反応を示した


そういえば家庭事情でなにか複雑な事があると昼に言っていたか、こっちは家庭事情というよりは進路の問題なのだが


そうこうしているうちに寄ってきた


「どういう理由でこんな所に来……」


「うりゃーー!!」


「わーーっ!!!?」









































隣部屋が騒がしい



太陽が完全に沈んだ午後8時、正規軍の消灯時間は10時であり、更に6時からは外出禁止なため、あれだけいた軍人が今は一切見当たらない。傭兵には関係無い規律ではあるがトラブル発生の原因となり得るため、星の知慧派、銀の黄昏ともども6時を境に引きこもってしまった


隣の女子集団はその雰囲気で修学旅行気分を楽しんでいるようで


「興奮するか?」


「孤児院って毎日こんな感じだしなぁ」


「……恵まれてんなー…」


孤児院にいる時点で恵まれない代表格だと思うが


「じゃ俺は情報収集してくるから」


「まだ働くのかよ?」


「こっから先は趣味だよ」


このワーカーホリックめ


「たぶんそのまま寝落ちするから朝まで帰ってこないと思う。1人でゆっくり休んでくれ」


「まじぃ?」


夕食付きで一泊1万2000円くらいのやっすいホテルだが、1人で使うには少々広すぎる。といっても部屋が広い訳でなく、畳数だと8程度の空間にベッド2つが押し込まれ、くつろげるスペースはベッド上と窓際の椅子2つのみである。物理的には狭いのだが精神的に広い


「寂しいなら一緒に行って一緒に寝るか?」


「よしわかった1人で行ってこい」


レオンを追い出す


その途端に静寂が部屋を包み込み、いや隣からは相変わらずの喧騒がだだ漏れではあるが


個室とは縁の無い生活をしていた明にとってこの状況は新鮮、数えても両手の指で事足りる。常に誰かしらと相部屋で、時には女性がいる事もあった、5歳くらいの


「…………」


静かだ


すぐ近くで大騒ぎしてるにも関わらずあたりは静か。なんだろうすごく落ち着く、暴れ回って電池切れで力尽きた修学旅行最終日に似たものがある、修学旅行行ったことないが


とりあえず椅子に座って一息、思いの外疲れは溜まっていなかったようで眠くはない。リモコン操作でテレビを付けたはいいものの外国のバラエティーでは笑い所がわからず、しかも戦争してる事が馬鹿らしくなってくるというおまけ付き、数分だけ見て消してしまった


次にテーブルの横の小棚をチェック。本1冊と、ダイス数個と、おはじき的なものがたくさん出てきた


TRPG『クトゥルフの呼び声』


なぜこんな所にある




ガチャン!




「うおっ!!」


部屋のドアがいきなり開いた


突然の出来事に二十面体ダイスを取り落とし、残りを落とさないよう落ち着かせながら視線を出口へ。入ってきたのは黒髪ロングの女性、Tシャツとジャージのズボン姿で、入るなり最寄のベッドに直行して無言のまま潜り込んでしまった


「……」


「…………」


「…………いや、マリアンさん何やってんすか」


「うるさくて眠れん」


それはよくわかる、壁1枚挟んでこれだからな


なるほどなるほど


で、これはどういう状況だ?


「さすがに孤児院出身でもこんな展開は慣れとりませんよ?」


「そうか」


「……昨今の男女同室っていうのは無条件でそういう理解をされる傾向にあってですね?」


「そうか」



駄目だこいつ無敵だ



落ちたダイスを拾って、状況を確認してみる。押しかけ女房も真っ青の勢いでマリアンがやってきて2つあるベッドのうち片方で寝始めた。前述した通り部屋は狭く、大部分の面積を占領しているベッドは間の距離が50cm程度しかなく、軽く跨げば簡単に乗り移れる。思春期の少年が情熱を爆発させるには十分すぎる状態だ、ただし相手を考えると爆発させたが最後であり、またこの状態にいい体格のお兄ちゃんが組み合わさった可能性もあったというのも考えるとそれはそれで悪寒がしてくる



気まずいのでテレビを点けた


『正解は?』


『据え膳食わねば男の恥ィ!!』


消した



「あー…………明日の予定ってどうなってんだっけ?」


「いつも通り、攻めて占領する」


いつも通りになるほど繰り返しているんだろうか


「……嫌だとか思ったことあんの?」


個人的な恨みがあってこの戦争に参加しているようだが、昨日の地下施設で見た限りはなにか葛藤めいたものかあるように見えた。仕返しに殴り込みかけて、罪悪感に引っ張られた感じだろうか



つか、この質問は地雷じゃないか?



「……殺人行為を楽しんでる訳じゃないからな、そういう感情は常にある」


被っていた布団から頭を出して黒い瞳を見せる。眠いのか、両方とも半目


寝ようとしていた所から顔を出したという事は話に乗ってくれるという事でいいんだろう、しかし話というよりはカウンセリングっぽい事になる気もする


「それはやっぱ、復讐とかしたいって理由?」


「……」


僅かに頷いた


「奴らが原因で深刻な不景気になっただろう」


「ああ、確かに悲惨なものがあったけど」



最初は株価の暴落が原因とテレビが説明していた。少ししたらクーデターが起きて、すべてエクストロキアのせいだと言い始めた


少し調べてみると出てくる単語は『飛行戦艦』であり、完成時は共同保有する約束で周辺国から開発費を収集していた


その『ちょっと過剰なODA』がどれだけ経済を締め付けていたかは不明にしても、額を見ると何らかの影響を与えていたのは間違いない



「間接的にだが……そのせいで大多数の国民が切り捨てられた。銀行凍結されて、それから医療保険も。私は大学にいて、何も知らされなくて……」


「…………」


「結局…最後まで気付けなかった、馬鹿みたいに学費だけ振り込んできて、そんなもの払わなければどうにでもなったのに」


「国立?」


「私立」


それはまぁ、ものすごい親である


私立の学校は国から金が降りてこないため、1年間の学費は約100万円。銀行口座が差し止められロクに稼げない状況、さらに保険が効かないとあっては、普通は大学なんて通ってる場合ではない


「逆恨みなのはわかってる、だがそうでもしないと、あの頃は本当に……」


「……それで、冷静になってやめたくなったって感じ?」


「途中で投げ出す気は無い」


「お…」


「今やめたら今まで殺したのが無駄になる。それは、駄目だろ……」



呟くように言って、布団の中に戻っていった



「む……」


今まで年下の相談に乗る事は多々あったが、そんな有象無象がどうでもよくなるレベルだ。世話役としては優秀な方だと過信していたか


しかしまぁ、言ってくれればできる事は……




ガバッ




「うおっ!!」


いきなり布団を引っぺがしてマリアン復活、またダイスを落とした


「眠気が失せた」


立ち上がって歩いて、明とは反対側の椅子に座る。そしてメモ帳とペンをどこからか調達してきて、TRPG『クトゥルフの呼び声』を開く


「え、やんの?」


「隣の連中も呼んでこい」




ああ


どうやらこの地雷、二段式だったようです

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