銀門 2
車庫と隣接していた施設に入り、しばらく歩いてそこが宿舎であることを知る。1部屋10畳ほどの空間に総数10以上の多段ベッドが詰め込まれた姿は見てるだけで汗が出てきた
それが廊下両側にずらーっと並んでいるのだからもはや狂気である。下手したらこの中のひとつをあてがわれていたかもしれないと思うとレオンが偉大に見えてくる
「あった」
その中の1室でノートパソコンを発見。だいぶ古い型だったが、普通に使う分には何の問題もない、むしろ最近のはオーバースペックすぎるのだ
「個人の私物?」
「でしょうね」
電源を除いてケーブルは伸びていない、だが無線LAN機能があるようだ、ネットサーフィンするならこのままで問題なし
「ただ今はここのプライベートネットワークに入りたいので……」
周囲を漁って青いLANケーブルを手に入れ、それとパソコンを持ってネアが部屋から出ていく。端子を探しているようだ
施設中枢に直結されているネットワークに一般兵士用の無線LAN挟んだりしないだろう、それでは機密も何もない
アクセスポイント自体はすぐに見つかった、廊下の端という何に使うのかよくわからない場所にあったが、きっと緊急用だろうといい加減に納得する
「アクセスさえできればデータが残ってると思うんですが…………ぁー……」
電源を入れて、起動完了したあたりで数秒固まり、その後ゆっくりとディスプレイを畳んだ
「どうした?壊れてたか?」
「いや壊れてはいねーですけど……」
額に手を当てて数回首を振る、表情的には何か名状しがたい何かを見たような
「壁紙からアイコンから全部どピンクだった……」
「ぁーー……」
どんなだろうそれは、男として見てみたい気もする
ネアはパソコンを強制終了させ、再度起動、F11キー押しっぱなしで通常起動から外れ
「もはやこれは変態の域」
「あ」
Cドライブ初期化した
「全否定してる訳でもないですよ、ただ限度というものをですね」
「まぁ……いるんだよな、10代前半で脳の成長が止まる人」
学校らしき学校に行ったことがない明ではあるが聞いた事がある、12歳から15歳までが通う中学校では男子が人生最高潮の思春期を迎え、体育を覗いたり集まって話合ったり土手に探しに行ったりと1日の半分がピンクに染まっているとか
そしてその過程で生まれたイレギュラーが中二病や邪気眼という
「いや、その認識はおかしい」
「えっ」
気付けは再セットアップが終わっていた。必要最低限とはいえ、一体どんな速度で設定を終わらせたのか
「どうやらロック解除キーの入った記憶媒体が必要みたいです」
「ふぅん?普通はパスワードとか聞かれると思うが」
「パスワードはもう突破しました」
なん…だと…
「探しに行きましょう、これを割るとなると1日かかります」
「お……おう」
1日で済むのか
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「おう、どうした?」
宿舎を離れてレオンのいるビルまで移動してきた。占領の終わった後では怪しい記憶媒体なぞ接収済みだろうという判断だ
実際、各所から集めてきたタワー型PCやら紙媒体やらがフロア全体に並べられている。解析はひとつ上の階でやっているようだが、レオン1人が寂しくデスクトップをいじっていた
「何やってんだ?」
「とりあえず中身をざっと見て有益な物品かどうかを判断すんの。ほとんど全部初期化されてるんだけどな、中身がありそうなら上に持ってってセキュリティ割る」
「大変そうだな」
「そうでもないさ、一番早く情報見れるしな。……で…」
後ろを見る
「あの子は何やってんだ?」
「CD−ROMかフラッシュメモリを探してるんだと思う」
小物の山を切り崩すネアがいた
ただ煩雑に崩すのではなく種類別に分けて整頓している。本人は真剣だが、はたから見てるとバイトのおねーさんだ
「……施設内にサーバーがあるそうだけど」
「ああ、目下の問題はそれなんだよな。アクセスしようとしてパスワードにぶつかったんだが、解析に1週間かかりそうなんだよ。スパコンがあれば1時間で終わるんだが」
「…………」
どうやらその後にもうひとつ壁があるのを知らないらしい
PC処理で1週間かかるとなると、数分で突破したネアの情報処理能力は……いや考えないようにしよう、パスを知っていただけという可能性もある
「なかなかうまく見つかんないもんだな」
「何が」
「飛行戦艦」
指を上に向けてくるくる回してみせる。あれを撃墜する方法という事だろう、確かに早く見つけなくては生死に関わる
「本来ならあれの他に防空専門の中型機が付くからな、戦闘機じゃ接近すら不可能だ」
「地上からやれるのか?」
「やれない事は無いぞ、ただ奴の高度まで辿り着ける兵器ってのはかなり制限されるが」
この隊の装備じゃまず無理だ、と付け加え、レオンはパソコンのチェックに戻った。HD内のファイルを名前だけ眺めていっているようだ
「兵士に拘束的な軍なのか欲求不満なのか。ちょくちょくエロ画像入ってるのは何なんだろうなー」
「それならさっきひでーもん見ました」
「?」
その衝撃はネアしか知らない
「デブリーフィングの前に伝達するべき事がある」
「おう」
パイプイスに腰掛ける
投影機が部屋中央に鎮座していりため薄暗い。場を仕切っているのはいつも空中管制機から指示を出してくる『アトラス』で、名前は……何といったか。年齢は30半ばといった所だが、正確な数は知らない
それ意外に室内にいるのはアストラエアことソリッドと、ネメシスと、タッグを組んでいるネフティス。名前はアルズ・ブラックウッド、21歳
あとパイロット志望の新米が4人ほど。仮にここのパイロットが全滅した場合、補充が来るまで彼らが前線に向かうことになる。帰ってきたら奇跡だと思うが
ちなみに言うと彼らは最年少で24歳、現役パイロット3人より歳喰っている。そういうどっちが敬語使えばいいんだかわからない状況はほんと勘弁してほしい
「まずネフティス」
「はい」
「機体が来るまで地上勤務だ。機種転換訓練も受けておくように」
「ですよねー」
奴は前回自機を墜落させた訳で、乗るべき機体が無い。そしてF−15のC型は既に生産終了しているため、新しい機種を取り寄せる事になった。普通なら部隊ごと取り替えるのだが、時間刻みで戦線を広げている今それはとても面倒だ
となると、F−15Eかラファールか
「それと連動して、アトリア隊はしばらく臨時編成を維持する。戦闘方法の違う機種の組み合わせとなるが臨機応変に対応するように」
「……それは俺が下がればいいのか、こいつを上げればいいのか」
「どっちでも構わん、搭載兵装で使い分けろ」
F−15Cは短距離ミサイル4発、中距離ミサイル4発を搭載し、接近しての格闘戦を主体としている。中距離ミサイルは会敵時に一斉発射してしまうため、メインは短距離ミサイル
対しF−22Aは短距離ミサイル2発と中距離ミサイル6発、バカげたステルス性能を用いた中距離戦闘を主体とする。短距離ミサイルは護身用で、基本スタイルは闇討ち
F−22Aに格闘戦やれと言えば涼しい顔でやってのけるが、闇討ちできる程のステルス性をF−15Cは持たない。前衛がいること前提ならできないこともないだろうが、恐らくF−22Aに前来てもらうことになるだろう
ついでに言うと『ステルス性能を持ったF−15』は現在開発中で、F−15SEサイレントイーグルという。30年前の機種の派生型がいまだに作られてるとは、すごいを通り越してもはや恐ろしい
なんて考えながらネメシス、アリソンに視線を送る
「あなたのお家へデリバリー」
やはりよくわからない
「最後、戦力増強の話だが」
「彼ら?」
「…………まだ無理だ」
新米パイロットを指差したら、苦笑気味に返された
本当に緊急時の補充要員である。普段は練習機で訓練をしたり、機体が空いている時を狙って模擬戦したりしている
大丈夫なんだろうか、こんな体制で
「飛行戦艦に4機やられた戦闘機の補充を要請したんだ。汎用性を考慮して『フランカーに勝利できる戦闘爆撃機』と要望を出したんだが……」
「何が来た?」
「ストライクイーグルが2機と、アパッチロングボウ2機」
豪華なんだか的外れなんだか
F−15Eストライクイーグル、F−15を大幅に再設計して対地攻撃力を付与した型だ。各種対地兵器の運用能力を獲得したほか、対空戦闘でも若干の能力向上を果たした。クランフォールが運用する機体では最高レベルに入るだろう
そしてAH−64Dアパッチロングボウ
世界最強の"攻撃ヘリコプター"だ
「戦闘機単体での飛行戦艦撃破を諦めたと見える」
「まぁ火力も足りないでしょうしねえ」
ネフティスが言う
「実物見たのか?」
「イーグル4機を叩き落として爆弾降らして帰っていくまでを救難信号出しながら見ました」
ああ、そういえばそんな時間があったな
「航空機搭載のミサイルじゃ火薬が足りませんよ、パトリオットでも持ってこないと」
「いずれは持ってくる、だが今は情報が足らん、どこにいるかもわからないんだ」
投影機にパソコンを繋いで、さっきの模擬戦を流し始めた
「デブリーフィングに移ろう、新米もよく見ておくように」
「やめろ恥ずかしい」
「大丈夫、恥ずかしいのは最初だけ」
「さっきからお前は俺を誘惑してんのかMに染めたいのかどっちだ」
「…………ロリコン」
ガタン!
「5年早えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!!!!!」
どっちにしろ恥かいた