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crawling chaos 6




















「終わったか?」


「そうみたいね、友軍も帰っちゃったし」


青い敵機と灰色メインの味方部隊が取っ組みあっているのをレーション広げながら観戦していたが、ひらべったい機体のミサイル発射を最後にお開きとなったようだ。敵は逃げ、味方も一斉に帰っていった


他の連中も対空部隊を除き遅めの朝食か負傷者の手当て中で、しばらく移動再開する様子は無い。飯はまずいが一応落ち着いていた


「詳細不明の反応がまだレーダーにのこってるんだがな」


「どんな」


「だから詳細不明」



ケイジャンライスだか何だかよくわからないレトルト食品をトレーに開けつつユリアナとレオンの話を聞く


「……」


後方、マリアンがトレーにモラセスを振り掛けていた。それはいい、今に始まったことではない


その隣、ネアが青い顔でそれを見つめていた


甘ったるいビーフステーキなんぞ見せられたらそうなるのは当たり前だが、よく見ると凝視しているのは瓶の方


ラベルには何かタニシがのたくったような文字が書かれている。全体の雰囲気を考えても国産ではなさそうだ



そうしていたら、ネアがこっちに気付いて寄ってきた


「っ…」


ふわっといい匂いがする


微かに甘い、しかし爽やかな感じ。ああこれが女性フェロモンというやつかと思う頃には顔が熱くなり


激しく首振りして邪念を排除


「外国製の糖蜜モラセスって、密輸入品しか存在しないはずなんですが」


「……え…?」



密輸入


税関も検閲も無視してひそかに運び入れる事。もちろん犯罪



「結局は砂糖作った後の残りカスですから、衛生面に問題があるんですよ。後進国のものなら特に」


「…あの奇怪な文字は…どこの?」


「赤道直下のセントルバトスってとこのもんなんですが、あれ確か糖度世界一でギネス載ってる代物だと」


「…………え…?」


「一般的なグラニュー糖の数百倍、砂糖を作った副産物の糖蜜にその砂糖ぶち込んで更に煮詰めるとかマジキチな事やってる会社の……」


「ちょ、ちょちょ待った待った、あの黒い液体について言及するのはやめよう、きっとあれは俺らが関知してはいけないものなんだ」


「超絶甘党のクーさんが絶叫悶絶した代物なんですよ!?」


「誰!?」






その後正気を失ったネアを落ち着かせるのに数分






「……寝てるな」


「寝てますね」


色々考えてしまう前にマリアンごと視界から排除してしまおうとストライカーに移動。車内に入ってまず見たのは毛布に包まるエレナだった


数時間ごとに休憩したとはいえ徹夜で運転していたのだから当たり前だが、床で寝転がる事もないだろうに



いたたまれないので、予備の迷彩服を出して下に敷いておく



「ミール・レディ・トゥ・イート。通称MRE……」


それはこのレーションの名前だ


内容物のほとんどがレトルト食品、A5コピー用紙よりちょっと大きいビニールパックに1食分が積められており、同封の加熱剤で温めればすぐに食べられる。1日3食をこれで過ごすと3750calの熱量を補給可能


どの角度から見ても戦闘糧食レーション、王道中の王道である


「戦地で現地民にばらまかれた回数No.1、多国籍軍での評価最低レベル、極貧国ではこれが通貨代わりになることもあるという……」


「そんなすごいもんなのこれ」


「すごいっつーか…生産性やら携行性やらが高水準でまとまってる代わりに味が残念なんですよね。あまりに流出しまくるんでネットオークションで普通に手に入るっていう」


「ふぅん」


何と言うかやけに詳しい


先日も思ったが、どこかの特殊部隊に所属していたとしか思えない武装対応幅と射撃精度である。各PMCにも精通しているようだし、軍事に関しては万能と言える


傭兵業が長いならそれも有り得るだろう、しかし傭兵では無かったようだし、何より歳食ってるようには見えない


前の職業はメイドだというし



ケイジャンライスを口に運ぶ。汁がよく染み込んでくったくただった



「……レーションの品評会とかやったりするのか?」


「やろうと思って開催される訳ではねーんですがね。多国籍軍が編成されると自然発生的にレーション交換会が起きるんですよ。私が知ってる限りじゃトロント紛争の際に、優勝したのは東矮だったかな」


「これの開発元は?」


「最下位」


ですよね



しかしやはり詳しい、その場にいたような詳細説明っぷりでその後もネアは話し続ける


というか、実際いたのだろう、きっと


「国民性を反映してるというか、ジャンクフード万歳の国ですから、こうなるのは仕方ありませんね」


クラッカーにピーナッツバターを塗って食す。かなり甘い


「クランフォールは料理は世界最高峰なんですけど、これ(MRE)の影響受けちゃってレトルトオンリーでなんとももったいない」


洋ナシのシロップ浸け、やはりよく染み込んでいてシロップの味しかしない。全般的に食感を求めたら負けのようだ


「やっぱり缶詰なんですよ、そりゃゴミとして残りはしますけど、直火であっためた豚肉缶に勝るものは存在しないと私は」


トッピングとして小さいタバスコ瓶が付いていた。何にかければいいんだろう、というか瓶はいらないだろ瓶は、多過ぎる


「ちょっと、聞いてます?」


「え?」













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-------

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お湯を沸かしてインスタントコーヒーを2つ。途中でエレナが起床したためミルク追加


「…………昼下がりの親子?」


「いや、年齢差2つしか無いんだが」


明現在20歳、エレナは18歳。この差は通常同年代に属する


ネアはどうかと視線を向けたが、速攻で顔を逸らされた


露骨に年齢を隠したがるのは20〜30代女性と聞くが


「それで、どうかしたか?」


「詳細不明機がすぐ近くまで来てるけど雲の上なのでやはり詳細不明、注意されたし」


車内に入ってきたユリアナはまずカップを取って紅茶パックを投入、残っていたお湯を注ぐ


「なんか知らないけとだいぶ巨大らしいわよ、1機だけだしどうせ偵察だろうけど」


「巨大?」



そういえば、ジェットエンジンの音がかなりの音量で流れているような



「飛行戦艦?」


「まさかぁ」


確か飛行自体は成功していたはずだ


亜音速で飛び、数百km圏内の航空機を即座に叩き伏せ、抱えた大量の爆弾で地表を耕す巨大全翼機


自分の装備を守るために自ら出てくるというのは疑問だが


「……ん?」


今気付いたが、エレナがミルク持ったまましょぼくれていた


湯の分量は計っていなかったが、そんな極端に濃くなったり薄くなる事も無い。火傷するほど熱くもしてないし


というかまだミルクに口をつけていなさそうだ、つまり問題は別



しかし、他人の感情変化にやけに敏感だな、自分


孤児員暮らしだったからか?



「どうした?体調悪くなったか?」


「体調…?体調……いえ…」


(´・ω・`)

みたいな顔である


眉毛が垂れ下がったままカップを口まで運び、ちょびちょび飲んでその後深呼吸


「……もし私に身寄りが無くなったら、子供にしてくれますか?」




いきなり聞いてきた




「だ……あの…駄目だ……俺にそのプレイは特殊すぎる……!!」


「落ち着きなされい」


フルマラソン直後のランナーよろしく酸素ボンベを押し付けられる


その間にエレナさんは同じ質問をネアへ叩き付けたらしく


途端に指折り計算始め、数秒後何かにたどり着きエレナもろとも絶望し始めた


「ぶはっ……いきなり何だよ。複雑な家庭事情ってやつか?」


「そんな複雑では……要因はシンプルなんですが…」



上のジェット音が大きくなった、味方がやってきたのだろう




「18…20…なんとイケイケな年齢……」


「はい落ち着けー」


ネアに酸素が吹き付けられる


その間エレナはシンプルな家庭事情を話そうとしたらしく口を開き、数秒固まって何も話さず閉じる。相変わらずのしょぼくれ顔でミルクを一気飲みした





「……お…?」


外で爆発が起きた


「墜落…?」


例の敵機が落ちたかしら、と呟きながらユリアナが下車。少し気になったため、落ち込む2人を残して明も外へ


墜落地点はここから近い、というか極至近距離だ。先刻の戦闘で荒らされた草原に焼け焦げた残骸が突き刺さっていた


「なんだあれ?」


「…………え?」


「いや、だからあの機体」


「あー……あれね…」


墜落の衝撃で大破している。残っているのは機首部分と翼の一部分のみで、残りは辺りに散乱。兵器にまったく詳しくない明はそれだけでは機種特定は不可能だ


「あれねぇ、F−15イーグルっていうクランフォールの戦闘機」


「そうかそうかF−15…………ちょっと待て」



味方が落ちた?



上空ではやかましいジェット音が鳴り続け、時たま発砲音や発射音。戦闘が行われているのは間違いないが、雨でも降りそうな勢いで雲が増えていて確認できない


そうしたら、もう1機火だるまで落ちてきた


こっち方向に


「直撃コース!?」


「まず…逃げて!!」


ユリアナが叫んで、ストライカーから2人出てきた。そして状況を確認してから全力で走り出した


今からエンジン点けていては間に合わない


落下してきているのは恐らくさっきと同じF−15イーグル。爆装はしていないだろうが、数トンの燃料を機内に詰め込まれている。墜落した瞬間に大爆発すると考えていい



今日は雨以外のものがよく降ってくる



「のわああぁぁぁぁぁ!!!!」


発生した大火災にストライカーが飲み込まれた


それからは逃げ切ったものの、追ってきた衝撃波に体を吹っ飛ばされ転倒。同じく吹っ飛んだ誰かに押し潰される


「いっ……痛ぅ……」


上にいるのはネアのようだ


怪我したのか僅かに鉄臭い。付け加えて肉が焼けたような香ばしさ


「おおおおいちょっと大丈夫か!?」


「だ…大丈夫です…即死でなければまだ……」


振り返ろうとしたが、首を押さえ付けられた


そのまま立ち上がって、深呼吸を1回挟んでから解放される。ネアは所々服が焦げているものの、体には掠り傷すら見当たらない


先日『呪い』と言っていたやつか


「さて……どうしましょうか、あれ」



空を見上げる


上空を隠していた分厚い雲から黒色塗装の鉄塊が顔を出し、数十秒かけて全体が雲から離脱


全長100メートルは軽く超えている。縦よりは横の方がやや長く、翼と胴体が一体化した外見は、例えるならば『ブーメラン』


出てきた瞬間、ただでさえ雲で暗い地上が一層暗くなった


「なんだありゃあ……」


「弾道弾迎撃用航空プラットフォーム『ウムル・アト・タウィル』。俗に飛行戦艦と呼ばれる代物です」


戦艦といっても大砲は付いていない、真っ黒い空飛ぶマンタだ。代わりと行っては何だが腹部の弾薬庫が解放され、無数の爆弾が見えている


「機甲部隊からこれだけ離れてれば大丈夫でしょう、目立たないようにしてれば」


飛行戦艦


この戦争の元凶


明が孤児になった理由



「…………」





なのに、何も感じなかった

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