先輩に片想い -side YUME-
「あはは、お前、ちっちゃいのにすげー上手いじゃん」
高校1年生の頃、バスケ部の先輩に褒められて、すごく嬉しかったのを覚えてる。
力だけは加減してくれるけど、1on1はいつも本気でやってくれる。
隣のコートで練習するのを見るとはなしに見ていて、目を引くのは彼の存在感。
普段はヘラヘラしてるのに、試合になった瞬間空気が変わる。そんな人。
男女のバスケ部合同の合宿。好奇心だけで自由時間に1on1を申し込んだのだ。
舐めて手加減しようとしたから、カットしてシュートを決めてやった。
「県選抜の実力って、こんなモンですか?」
あからさまに舐められたのが苛立たしくて挑発すると、先輩の空気が変わった。
周りは最初面白がっていたが、見てるのも飽きたのか各々のやりたいことを始めた。
熱くなりすぎるあたし達を、時折学先輩が止めてくれた。
学先輩は呆れてた。
「女の子相手にそんな本気出すなよ」と。
でもあたしは女相手だからって手を抜かずに、時には愛あるフィードバックもくれるのも嬉しかった。
子猿ちゃんと呼ばれても、可愛がってくれてるのがわかるから、嫌な気はしなかった。
生意気な後輩としてたまに洸平先輩が構ってくれるのが嬉しかった。
それが恋だったと気付いたのは、先輩が卒業してからのこと。
◇◆◇
一番偏差値の低い学部へどうにか合格して、先輩を追いかけて同じ大学へ行った。
相変わらずな妹扱い…子猿扱いで、ちょっと凹んだけど会えないときよりマシだった。
先輩がたまに一緒に歩いている女の人は、見覚えがあるようなないような。
艶やかな長い黒髪を靡かせて、たおやかに微笑んでいる。
彼女は学先輩の彼女ではなかったか。
でも、学先輩と話しているところは見かけない。講義室のフロアが違うから、多分だけど。
洸平先輩に聞いても、サラリと話題をすり替えられた。
そして、明るくお茶らけて、周りを盛り上げつつ、すれ違っていただろう2人のキューピッドをやってのけた。
「俺マジいい仕事したなー」
貼り付けたような笑みに、先輩の心がどうなってるか想像するだけで苦しくなった。
だって、洸平先輩、ずっとずっと“マユミン”のことが好きだったんでしょ。
だから、半分無理やり洸平先輩の家に上がり込んだ。
しつこく追いかけて貰った、「…なんなの、ホント」は、了承ではなく諦めだ。
そんなのわかる。
でもここは折れちゃダメ。
あたしの勘がそう告げていた。
脱いで。楽しませて。
なんて、何の経験もないけど、覚悟だけは決めたのに。
キスは寸前で止められて、タオルケットを巻きつけて突き放された。
性欲の吐口にすらなれないのかと、流石に泣きそうになった。
でも、
「違ぇよ!今お前に酷いことしたら、俺が立ち直れないわ!」
頭をガシガシと掻きながら言う先輩、やっぱり洸平先輩らしくて、ひどく安心した。
こんなときも、優しんだ。
「コンビニで何か買ってくるから、着替えてな。帰りたきゃ帰りなよ」
パタンと閉じられたドア。
『帰りたきゃ帰りなよ』なんて、帰ったらあたしにも心を閉ざすんでしょ。
試してるの、わかってるんだから。大人しく帰ってなんかあげない。
モゾモゾと先輩のにおいのするブカブカなジャージを着て、浴衣はなんかそれっぽく畳んだ。
「はは、まだ居たんだ。」
カラカラと笑って見せる彼が、あたしがまだいるのを見てホッとした気がした。
「屋台飯食べ損ねたから焼きそばとフランクフルト買ってきたよー。あとかき氷っぽいアイス」
「やったー!しろくまアイス大好きなんですー」
先輩がいつもの調子で言うから、あたしも何もなかったように明るく振る舞った。
どうするのが正解なのかなんて、わからない。
「俺やりたいゲームあるんだけど」
「対戦ですか!?負けませんよ!!」
「ハンデ欲しい?」
「要りません!そんな余裕今だけですよ!?」
兄と弟の容赦ない攻撃を受けて育ったのだ。
舐めてもらっちゃ困る。
「えっ、お前今のズルくない?」
「へへー。次はハンデあげましょうか?」
力では敵わずとも、対等に扱われるように噛みついて来たのだ。
「は?手加減してやったんだろうが」
不機嫌にリモコンを握り直す先輩に今度は心から笑えた。
いいや、正解でも不正解でも。
先輩がひとりで人知れず傷付いてなければいい。
周りを拒絶していなければ、いい。
あたしをそばに置いてくれるなら、何だって。




