後輩をお持ち帰り -side KOHEI-
ガランと無駄に広い部屋に通すと、ソイツ…ユメはちょっと怖気付いた。
うん、いいよ、帰りなよ。
ヤケに付き合う義理なんてないんだし。
ウイスキーでも煽ろう。1人でいい。
「先輩、お家の方は」
「いないよ。嫌なら帰れば」
「かっ、帰らないですっ」
ソファに座って、入り口で立ち尽くすユメに声をかけた。
もう、何でもいい。
「じゃあ脱いで」
早く帰るなら帰って。忘れさせるなら忘れさせてよ。
「楽しませてよ」
やり場のない苦しさから解放されるなら何でもいい。
「慰めてくれるんじゃないの?」
そう煽ってやれば、ソイツはキッと俺を睨んで帯に手をかけた。
「ーーーいいですよ」
スルスルと帯を解いて、浴衣が床にハラリと落ちた。
下着まで脱ぐ勇気はないのか、ユメは下着姿のまま太ももに跨る。
引き締まった、でも意外にも女らしい体で。
ギシリとソファが軋んだ。
ユメは俺に唇を近付ける。
いいじゃん、別に。
コイツが好きでここまで着いてきて、自分で脱いだんだし。
キツく閉じられた目でもわかるくらいのクリンと上向きなまつ毛。
やわらかそうな頬。
触れる吐息。
今頃アイツらは、ーーー
「っ、あー、やっぱダメ」
唇が重なる直前に、手で止めた。
フニっと、ユメの唇が手のひらに当たった。
「ーーーっ」
その辺に置いてあったタオルケットを手繰り寄せて、ユメに巻きつけソファに放り出す。
「あっ、なっ、せんぱいぃっ…」
タオルケットに絡まって動こうとするユメは、出口を見つけられずイモムシみたいにモゾモゾ動く。
「ごめん。」
ビクリと泣きそうな顔したユメが震える。
なんで、恐怖でも怒りでもなく、そんな哀しそうな瞳を向ける。
俺、相当酷いことしてるんだよ。最低って言われても仕方ない。
ーーーお前なんか最低だって、なじってよ。
なのになんで。
「…違ぇよ!今お前に酷いことしたら、俺が立ち直れないわ!」
好意100%の慰めを後輩にさせて、平気で居られるはずがない。
「ごめん、こんなことさせて。ユメ」
「あっ、あたしが…っ」
「悪者にならなくていい。ここまで来てくれてありがとう」
一息に言って、ようやく息が吸えるような気がした。
そうだ。気が紛れたのは事実で。
異性として好きではなくとも、ユメは可愛い後輩だ。
傷付けたくはない。
ごめん、こんなクズみたいな奴に付き合わせて。
「ほら、服着て」
「あっ!」
床に落ちた浴衣と帯を差し出すが、ユメは受け取らない。
「…なに?」
「浴衣を…その…あたし1人で着れなかったりして…ハハハ…」
「………」
考えなし…。
もう、完全に気が抜けた。どうでもいいや。
「腹減った。何か食お。コンビニ行ってくるからコレでも着てな」
クローゼットの奥にあった中学のジャージをバサバサとソイツに投げた。
それでも大きいだろうけど、最近着てるダボっとしたシャツよかマシだろう。
「帰りたきゃ帰んなよ」
言い残して家を出た。
そうだ、帰った方がいい。
どうせ、酒飲んでも眠れなくて夜通しゲームでもしただろうし。それが1人でも2人でも同じだ。
頭を冷やしてコンビニから戻ると、ユメはブカブカのジャージに着替えてソファで正座して待っていた。
帰っていいと言ったのに、ユメがまだいてホッとしている俺は相当情けない。
明け方までゲームをし倒して、寝た記憶もないまま朝になった。
眩しさで目を開けると、ソファにいた。首が痛い。
トントンと規則のいい音。
なんか昔よく聞いたような懐かしい…
「あ、おはようございまーす!」
「…ああ」
家の中をちょこまか動き回るユメ。
テーブルの食い散らかしたものも綺麗に片付けられている。
「先輩、冷蔵庫の中何もなさすぎじゃないですか!?」
「あー…」
米と卵とハムとかそういうものしかないかも知れない。
…じゃ、なくて。
「お腹すいたのでキッチンお借りしました!」
「ああ…うん…」
いい香り。
「チャーハン作りました!」
「お前、料理とかできんの。大丈夫これ」
「シツレーな!ユメ結構家庭的なんですよー?惚れちゃいます?」
「いや別に」
「チッ」
びっくりした。フツーに美味いから。
そんで、思ったより落ち込んでいなくて。
学から細々とメッセージが来ていたが、よかったねーお幸せにーって感じで。
バイトに明け暮れた、充実した夏休み。




