5年越しの両想い -side MAYUMI-
ゆっくり駅まで歩いて、ぽつりぽつりとだけど、会話をした。
人混みではぐれそうになって、伸ばした手が手に触れて、お互い照れて赤くなって無言になっあのに、手を握って離れがたくてずっと指先だけ触れたままで駅まで歩いた。
夢、みたいだ。
「帰ったら、夢だと思っちゃいそうだから、メッセージ送っておいても…いいかな…?」
情けないことに、明日になったら…いや、電車に乗って別れたら、全部現実だと思えない自信があった。
潮崎くんも、おれも言おうと思ってたと、メッセージを送ってくれた。
“これからよろしく、彼女さん”って。
わたしも“よろしく、彼氏さん”って返して、笑い合った。
何度も何度も見返したメッセージが、3年ぶりに更新された。
メッセージがこんなに嬉しいなんて。
それから、時を埋めるようにたくさんメッセージして、電話もして。
夏休みの間、お互いバイトや予定がない日に会ったりもした。
夢じゃないのかも?
と思えるようになったのは、夏休みが終わる頃だった。
◇◆◇
「まゆみんオハヨー」
「洸平くんおはよう」
「いいねぇ、幸せそうににやけちゃって」
「えっ、えっ、にやけてる!?」
両頬を押さえると、洸平はカラカラと笑う。
3年前の花火大会の日もこれまでも、たくさん話を聞いてくれた洸平くんにはメッセージで報告していた。
学くんも仲が良いから、学くんからだって聞いているだろう。
こんなふうに何事もなかったように声をかけてくれるのは優しさなのか、揶揄われていたのか。
…いや、本人が言わなくても、わたしが洸平くんの気持ちを軽んじちゃダメだ。
「あっ、あの、ありがとう。いろいろ。」
「ほーんと、手が焼けるよねー君たち。また付き合ってすぐすれ違って別れるとかやめてよー?」
「えっと、うん、ありがとう。ちゃんと学くんと話すね…」
学くん本人と話して、お互い誤解したまますれ違っていたのだとわかった。
ようやく、洸平くんをはじめ、友人たちに言われていたことの意味も。
ずっと寄り添ってくれていた洸平くんから言われると、耳が痛いどころじゃない。
「学くん…ねぇ」
「えっあっ、潮崎くん!」
呼び方指摘されて訂正すると、洸平くんはまた
「いや、よかったなと思って。『おれもまゆみんって呼びたい』とかずっとイジイジしてたからさ。呼べよ名前くらいって感じ」
ヒラヒラと後ろ手に手を振って、洸平くんは仲の良い友人たちの方へ歩いて行った。
◇◆◇
「真弓さん、お昼一緒に食べない?」
学くんに提案されたのが夏休み明け。
「学くん」「真弓さん」と呼び合えるのがこそばゆい。
いつも一緒にお昼を食べていた友達には、ニヤニヤしながらも快く送り出してもらった。
忘れられない人がいると、言っていたから。
話題は尽きない。
大学の友達の話も、高校の頃の共通の話や、観に行きたい映画、行ってみたい国から、学くんのことをたくさん知りたくて、話したくて。
就職先やインターンの話もして、暇さえあれば一緒にいる。
不思議と、喧嘩することもなく気まずくなることもない。
ドキドキはするし、見惚れもするけど、隣にいると落ち着く。
「浮かれてるって、自分でも思うんだけど」
お昼を食べながら照れたように学くんが口を開いた。
「大学卒業したら、一緒に住まない?」
ーーーそれって。
「もちろん、結婚を前提に。」
ポカンと口を開けたまま、私は食べようとしたコロッケを落とした。
お皿の上だ。セーフ。…じゃなくて!
「就職とか将来のこと考えてると、真弓さんが隣にいないのはどうしても考えられなくて」
わたしだって、隣に学くんがいる未来を当たり前に想像していた。
どうかな?
と、ちょっと不安そうに首を傾げる学くん。
そんなの、答えは決まってる。
「ーーーうん、うんっ!!」
思いがけず涙ぐんでしまって、学くんに渡されたハンカチで目元を拭った。
学くんは安心したように、穏やかに微笑んでいる。
「来年は、2人で花火見に行こうね。浴衣着て。」
「ちゃんと、可愛いって言ってね?」
「うん。いつも……可愛いよ」
「ふふ、大好き」
「おれも大好き」
秋の肌寒い中、冷えてきたからと言い訳をして、肩を寄せ合って囁き合った。




