彼女に片想い -side GAKU-
ーーーありがとう。潮崎くんはいつもこういうのやってくれてるよね。
って、いつも気付いてくれて。
褒められたくてやってるわけじゃないからいいんだけど、みんなが楽しんでくれてるのを見るのが好きだから、別によかったんだけど。
ーーーわたしもやるよ!これ、まとめてけばいいのかな?
そうやって細かいことに気付いてくれるだけでも嬉しいのに、手伝うねなんて言って一緒に調整やら雑務やらをやってくれる。
サラサラで長い黒髪を耳にかける仕草に目を奪われて、それに気付かれないように視線を逸らすのもいつものこと。
好きにならないわけがなかった。
残酷なもので、彼女には好きな人がいるらしかった。こういう情報って、勝手に入ってくるんだ。
聞いてなくても教えてくれる人はいるし、こっそり近付けるように裏工作頼まれたり、ね。
彼女は、クラスをまとめ上げている幼馴染で親友のあいつを好きで。
親友と話しているときの彼女は、楽しそうに笑うから。
…おれと話すときは、ちょっと気まずそうに目線を逸らしたりするのにね。
せめてもの救いは、その彼女本人から協力してと言われないことくらい。
声をかけてくれるってことは、嫌われてないんだろうとは思う。思うけど。
「また言ってんの?早く告白しろよ焦ったいな」
「……洸平、あのさ」
「あーはいはい聞き飽きたって。まゆみんに好きな人がいるとかなんとかだろ?彼氏じゃないんだろ?告白して考えてもらってもいいじゃん」
「うーーん…」
この親友は“まゆみん”“洸平くん”と呼び合う仲なのに、おれはいまだに名前でも呼べないでいる。
いいなぁ。
“潮崎くん”じゃなく、“学くん”って呼ばれてみたい。
…いや、本人に言えばいいだけだ。
“まゆみん”と呼ぶのは洸平だけではないのだし。
「もー!お前はさー」
歯切れが悪いおれに、洸平は呆れながらもその話を終わりにしてくれるのもいつものこと。
◇◆◇
「好きです!付き合ってください」
だから告白されたときは困惑した。
ほんとにおれ?って。
修学旅行の魔法だとわかっていても、…洸平に彼女できたからヤケなのかなってチラついても、頷く以外選択肢はなかった。
真っ赤に染まった頬も、ギュッと閉じられた目も、まるで本当におれのこと好いてくれてるように感じられて、ちょっと期待してしまった。
◇◆◇
可愛すぎて、何も言えなかった。
初めて2人で来た花火大会。
1年のときも2年のときも花火大会にはきたけど、いつも大勢で手分けして買い出ししたり場所取りしたり、てんやわんやしてるうちに終わる。
今日の彼女は、鮮やかな赤の浴衣姿がとても美しい。
綺麗な黒髪は、どこがどうなってるのかわからないけど綺麗にまとめ上げられていて。
顔を真っ正面から見られず、褒める言葉も口にできず、言葉も交わせないまま。
おれが友達に声をかけられていて、振り返ると彼女がいなかった。
はぐれたのかと探すと、屋台から少し離れたところに人影を見つけた。
彼女と…洸平。
「好きだったの…!」
震える彼女の声が聞こえた。
意識が暗闇に溶けていくような感覚と、冷静にそうだよねと納得する気持ち。
洸平が彼女と別れたのとか、聞いたのかな。
花火の音をBGMに、洸平が彼女の肩に手を添えて人混みから離れるのを、どこか他人事みたいに見ていた。
立ち尽くしたおれなんて誰も気に留めないだろう。
どれだけそうしてたか、ぼんやりメッセージだけ入れた。
『はぐれちゃってごめん。人混みすごいから帰るね。帰り気を付けて』
メッセージを送って、みんなが花火に夢中になる中、1人駅へと向かった。
夏休み中、彼女から連絡が来ることもなかったし、連絡を送ろうとしては消して、結局何も送らなかった。
クラスが違うのをいいことに、話すこともしなかった。
本当なら、ちゃんと話して別れ話もして、背中を押してあげる方が優しいんだろうけど。
ちょっと…流石に、決定的な言葉を直接聞きたくなかったのが本音。




