幼馴染に失恋 -side TAKUMU-
あ、振られるんだなと、夏海を見た瞬間に悟った。
ふわふわしていて女の子らしくて好きだったのに、バッサリ短くなっていたから。
ボブにしていてもふわふわで可愛いことに変わりはないんだけど。大人っぽくなって知らない女の子みたい。
長いのが似合う。
ふわふわで可愛い。
お姫様みたい。
そう言ってたくさん撫でていた俺に対する当てつけなのかと思ってしまう。
なかなか口を開かない夏海にこっちの方が泣きたくなる。
「…いいよ、無理に話さなくて。だいたいわかる。」
ホッとした表情で顔を上げる夏海。
ちょっとした表情ひとつで、感情が手に取るようにわかる。
…わかってしまう。
1週間も離れていて、ちょっとは寂しいとか思ってくれているのかなと淡い期待を抱いてしまっただけに。
夏海からメッセージが来ることもなかったし、バカらしい。
ああは言ってたけど、ちょっとは俺を男として意識してくれないかな、とか。
風太と並んで歩いている後ろ姿を見かけたとき、あの距離感で焦がれた瞳を向けているだろう夏海の顔を見たくなくて通り過ぎた。
告白しても尚意識されない現実を、風太との差を見せつけられたくなくて。
クラスの男の子たちは苦手だけど、たっちゃんはゆめちゃんと似てるから怖くないの。
とか言ってたくせに、好きになるのは風太みたいな男らしい奴なんじゃん。
姉貴に甘えるように俺にも甘えてくるのに、そこに姉貴に甘える以上の感情はないのだろう。
顔はまあ似てるんだろうし、身長だって姉貴ほどではないにせよそんなに伸びなかった。
そんなこと言ってたって何にもならないんだけど。
「…就活、進んでる?」
「え?ああ、うん、まあ…」
急な話の変化に困惑しつつも頷く夏海。
「俺、全国転勤あるけど、いいかなと思ってるとこあって」
「転勤?」
「そう。だから、卒業したらここ出てく」
まだ決めかねていたけど、今決めた。
近くに夏海がいるのに甘やかさない自信もなければ、諦められる自信もない。
「な、なんでぇ?」
ポロポロと泣き始める夏海。
それがどれだけ酷いことなのか、わかってるのかな。
でもその涙を拭いてあげるのはもう俺じゃないってこと。
「やだよぅ」
「あのね…」
「何で?わたしのこと嫌いになった?もう好きじゃない?」
ズルい。
俺が泣きながらそんなこと言われたら拒否できないのわかってるんだろ。
「好きだよ。だから…」
「じゃあなんで?わたしがこの前あんなこと言ったから?今更遅い?」
こういうとき俺の服を握って見上げてくるのは小さい頃からの癖。
昔から夏海の涙にだけは弱い。
それはズルいよ。
これ以上突き離せなくて、夏海から目を逸らす。
ーーーのに。
「す、すき、なの…!」
「………は?」
予想だにしてなかった言葉に再び夏海の方を向くと、唇にやわらかい感覚。
動揺のままグラリと揺れ、音立ててベッドに2人なだれ込む。
「は?なに…」
ぎゅうと俺に乗っかり抱き付く夏海。
やわらかい体温が密着する。
何考えてんだ。
「なに、急に。同情とかいらないんだけど」
「ち、違うよ!たっちゃんが大好きなの!ほんとだよ!あっ」
潤んだ瞳で見つめられ、耐えきれず夏海を組み敷く。
どうせそういう意味じゃないんだろう。
怯えられたら傷付くくせに、試さずにはいられなかった。
「意味わかって言ってんの?」
見下ろす俺に、脅したはずの夏海は照れたように頬を染めて目を伏せる。
ーーー同意と取るよ?
してほしくてたまらなかった反応。
「ーーーっ!」
衝動に全てを任せてしまいそうになり、ギリギリのところで夏海から離れて、ベッドの端に夏海に背を向けて座り直す。
「……俺への当てつけに髪切ったんじゃないの?」
「あてつけ?って…?」
夏海は起き上がり、控えめに俺の隣に座る。
「髪は…この前までふーくんが好きって言ってたのに、すぐたっちゃんに行くみたいな、軽い女だと思われたくなくて…」
「は?」
「ちゃんとふーくんのことは終わりにしましたって証明しなきゃと思って」
「………はぁ?」
「失恋して、新しい恋をするなら、髪を切るって…」
ちょっと違うような気もするが、もし、言葉のまま受け取るのであれば…。
顎のラインに揃えられたふわふわの髪に触れながら説明してくれるそれが、…期待してしまう。
「み、短いの、似合わない…?」
「………いよ」
「うん?」
「可愛いに決まってんだろ」
照れたように笑う夏海を抱き締めた。
「たっちゃんだーいすき」
すぐに抱き締め返してくれる夏海。
頭を撫でるとあっという間に毛先に触れてしまって、でもそれは俺のために切ってきたんだと思うと愛おしくなる。
「うん。…俺も大好き」
どちらからともなく、キスをした。




