幼馴染の慰め -side NATSU-
ふーくんに好きになってもらえなくて、妹みたいにしか見てもらえなくて、ずっと悲しくて、でも諦められなかった。
ゆめちゃんのことが好きなんでしょ?
って言ったときの、あの照れたような優しい表情が忘れられない。
悲しくて悔しくて、たくさん嫉妬するのに、それを拾い上げてくれるのは他でもないゆめちゃんだった。
「うっ…ぐす…っ」
「ほらもー泣かないよ?もう小学校のお姉ちゃんでしょ?」
「うううう…」
ゆめちゃんが小学校3年生、わたしが1年生の頃には、もうゆめちゃんと目線が同じくらいだった。
浴衣で転んではぐれた私を探しに来たゆめちゃん。
そして、一足先に私を見つけて無言で手握っていてくれたのは、たっちゃん。ゆめちゃんの弟の拓夢。
「お!自分で歩ける?ちーちゃんすごいねー!」
「でも…ゆめちゃんの方がすごい…」
習い始めたバスケでもたくさん点を取ってて、ドッヂボールも強くて、ハキハキ明るくて、誰とでも話せる。先生とも6年生のお兄さんお姉さんとも。
ママもパパもゆめちゃんはすごいねって言うもの。
「なにー?すごい人は1人しかいちゃいけないの?」
「えっと」
「ユメもすごいし、ちーちゃんもすごいのよ!ほら、しゃんとして?せっかくの可愛い浴衣が台無し!」
卑屈になろうにも、一番にわたしのことをわかってくれるのがゆめちゃんだった。
ふーくんのことが好きだと言えば、
「えーそうなんだー!応援するーっ」
と、ニコニコで応援してくれる。
私と全然違うタイプで、大好きなお姉さん。
だから、これでいい。
◇◆◇
「………どうしたの」
仕事だからと一人暮らしの家に帰るゆめちゃんを玄関で見送った。
そのまますぐ近くのたっちゃんのお家に。
「ゆめちゃん、別れたって聞いたから、ふーくんをお願いしますって」
それだけでこの人は理解してくれたらしい。
「バカだね」
溜め息混じりにたっちゃんの部屋まで連れて行ってくれる。
「お人好しすぎ」
「…ふっ…」
たっちゃんは、ポロポロ泣き始めた私を抱きしめてくれた。
いつもそうしてくれたように背中をトントンとしてくれて。
話さなくてもわかってくれるから、私はたっちゃんに甘やかしてもらっちゃう。
だってだって、ふーくんに幸せになってほしいんだもん。
何を言ってるかわからないだろうに、たっちゃんは私を慰めてくれる。
興味なさそうに。
でも、優しい手つきで。
たまに、私の髪を撫でたり毛先を遊んだりしながら。
「ずっとこんななのかな」
「こんな?」
「ずっとくるしい」
自分で涙を拭いて顔を上げて笑ってみるけど、またポロンと涙が出てくる。
「幸せな恋をするって、ゆめちゃんに宣言してきたのに…自信ないの」
「ソレ」
ゆめちゃんが気にしないようにああは言ったけど、諦められる気もしないし、髪を切る勇気もなさそう。
ぼんやり考えていたら、目の前に影が落ちた。
「俺が幸せにするって、言ってもいいやつ?」
問い返す前に、ベッドに背中を預けた私を膝立ちで囲い込む。
ゆめちゃんとよく似たくりんとした目がゆっくりと近付いてくる。
「好きだよ」
ふにっと柔らかい感覚があって、でも私は抵抗もできなかった。
「あんなのやめて、おれを好きになんなよ」
「たっちゃ…んっ…」
混乱したまま、初めて触れる体温なのに、ずっと知っていたような気にもなってさらに混乱する。
息をした隙間から熱い舌が捩じ込まれて、驚いているうちに舌を絡めて取られる。
「…んぅ…っ」
ぎゅっとたっちゃんのシャツを握っていた。
どれくらいそうしていただろう。
熱くて逃げたいような、ずっとこうしていたいような、変な感覚。
「…っ、ちゃんと抵抗しろよバカ!」
離れた瞬間、サミシイと思ってしまったのは気のせいだったのか。
上気した頬、ちょっとうるんだ瞳。
「え?…えっ!?」
考えたこともなかった。
たっちゃんが私を…なんて。
だって彼女、いたし。
こんな…キスだって上手くて。
……初めてじゃ、ないんでしょ?
そんなことを考えているのは、的外れな気がする。
「だ、だって、たっちゃんは…お兄ちゃんみたいなもので…こ、こんなこと、されても……」
たっちゃんは私を膝立ちで見下ろしたまま。
私は顔も上げられない。
きっと今、すごく顔が赤い。
たっちゃんの瞳に、私はどう映ってる?
「考えても、くれない?」
現実感のないまま、正解の言葉を探した。
こういうとき中途半端にするより、ハッキリ伝えてもらった方がいいことを、私は知っている。
気持ちを宙ぶらりんにして、たっちゃんに辛い想いをさせたくは、ない。
「…応え、られないよ…」
だから、これでいい。
考えてすぐに答えが出るなら今すぐ応えられるはずだ。
そうできないってことは…
「……そう。わかった。」
スッと私から離れて、私を立たせたたっちゃんに連れられて、歩いて1分かからない家まで送られた。
口数が少ないのも過保護もいつものことなのに、スタスタと家に戻っていく後ろ姿に言いようのない不安を覚えた。
「…たっちゃん…?」
頭はボーッとしたまま体はふわふわしていて、なのに唇に残る熱が、あれは現実だと告げている。




