先輩の仮カノジョ -side YUME-
あたしは、たまに洸平先輩の家にお邪魔するようになった。
…子どもみたいにせがんで、嫌そうな顔をした後、好きにすればって言われるんだけど。
でも知ってる。
彼は、気を許した人しか家に上げない。
誰の家で宅飲みするかって話になると「うち狭いから」「親がいるから騒げない」とのらりくらり。
このだだっ広い家で、ご両親や誰かに出会したことは一度もないし、形跡もないのに。
そんなことは口にせず、あたしは洸平先輩と前みたいにゲームをやったり、バスケの試合の録画を観たりいろいろだ。
行くからにはと張り切っていろいろやろうとすると、「家政婦じゃないんだから」と止められる。
一緒に過ごすようになってわかったのは、はしゃぐときははしゃぐけど、意外と浮き沈みが激しいということ。
外ではおちゃらけて気分もムラなんか感じさせずにみんなを楽しませるのに、家では口数が少ないこともザラにある。
思い返せば、機嫌の上がり下がりこそあまり見せないものの、バスケの調子はかなりムラがあった。その調子に合わせて安定感のある学先輩がフォローに入るという、いいバディだったわけだ。
人に見せない一面を、ユメには見せてくれるんだって舞い上がる。
「あっいいなー!」
フカフカのソファに沈んでSNSを見てたら、思わず声が出てしまった。
何、と、目線だけで問われる。
「友達が遊園地行ってて写真上げてるんですー!楽しそう!」
イースターのイベントが如何に素晴らしいか、遊園地の楽しみ方がどうだと力説してしまった。
「へー」
静かに聞いていたコウちゃんの気のない返事で話が終わるかと思いきや、
「行く?」
「へ?はい。うん。行きたい。」
「いつにする?」
思いがけない返しにフリーズ。
「…ひぇっ!?」
えっ。だってだってだって。
2人でってことでいいの?…みんなで?
「あ、そういう話じゃない?」
「ふ、ふたりで…?」
「あ?嫌なら誰か誘う」
「やっ!行きます行きます!2人で行かせていただきます!予定合わせます!」
ニカッと笑う外仕様じゃなくて、ふっと空気だけで笑った。
いつもの明るい洸平先輩ではなく、オフモードのコウちゃんなのが嬉しい。
「コウちゃん大好き!」
「ハイハイ、可愛い子猿ちゃん」
やわらかいソファで腕にぴっとりくっついても拒否されないのが嬉しい。
「そんなこと言ってー!コウちゃん、ユメにベタ惚れだもんねー?」
「ハイハイそうだねー」
二の腕に預けた頭を撫でてくれるのが嬉しい。
それって犬猫に対する感じ?それとも…
ねぇねぇ、もうこれ付き合ってるってことでいいよねぇ!?
◇◆◇
“仮カノジョ”にしてもらって1年が経った。
…順調、だと思う。
お互いの予定が合う日にはコウちゃんの家に入り浸り、泊まるときはコウちゃんは寝室で、あたしはだだっ広いリビングのソファ。
たまにゲームが白熱しすぎて2人して寝落ちすることもある。
そういうときはコウちゃん、ユメを抱き枕みたいにしてくれて、朝飛び起きるのだけど。
まだダメかな。
ユメじゃダメかな。
コウちゃんの家でほろ酔いのコウちゃんにキスをした。
ちょっと勢いよすぎて歯がぶつかった。
「…酔ってる?」
「ユメは飲んでないよ」
ユメはファーストキスなのに、コウちゃんは照れるどころか、心配するくらい余裕があるらしい。
「コウちゃん、ユメねぇ、キスもエッチもしてみたいんだよねぇ」
「はぁ?」
「だって、ユメのカレシはコウちゃんだから、他の人とやるわけにいかないでしょ?だから抱いて欲しい」
ちょっとだけ、声が震えちゃった。バレてたかな。
「ちゃんとゴムも買ってきた」
怪訝そうに眉を寄せて、諦めたようにコウちゃんはゆっくり息を吐き出した。
「…はぁ。いいよ」
そして、ユメに優しいキスをくれた。
分厚い胸も太い腕も、バスケをしているときに触れ合うのとは全然違った。
怖気付いたのにすぐ気付くコウちゃんは、やめる?と何度も聞いてくれたけど首を振った。
女として欲情してもらえるのが嬉しくて。
でも、相変わらずコウちゃんの本心はわからなくって。
幸せなような気持ちと、切ないような気持ちがないまぜになって、眠るコウちゃんの胸に擦り寄るフリをしてちょっとだけ泣いた。
でもいいんだ。
コウちゃんはユメを表向きには恋人として扱ってくれるから。




