彼氏に片想い -side MAYUMI-
「何か食べる?」
「あ、うん…」
なんで付き合ってくれてるんだろうと思った。
穏やかな笑顔を絶やさず、マメでよく気付く彼。
付き合って初めての夏祭り。
彼はわたしとの時間を優先してくれるようだった。
ちょっとでも可愛いって思われたくて、浴衣を着て、ヘアアレンジもたくさん動画見て練習して。
なのに、これ。
半歩前をゆく彼は、わたしの方を見てくれない。
◆◇◆
彼とは高校1年生のとき同じクラスになった。
入学早々に高熱を出して、1週間休んでからの初めての登校になった。
教室に入るのを躊躇っていると、
「もしかして笹川さん?」
「え、は、はい…」
「席こっちだよ。」
後ろから来た男の子に席に連れて行かれた。
「おれ、潮崎。前の席の子いなくて寂しかったんだよね」
プリントは机の中だとか甲斐甲斐しく世話をしてくれた。
「はるる、笹川さん来たよ。仲良くしてあげて」
「わー!まゆみちゃん?聞いたよー!インフルだったんだって?もう大丈夫なのー?」
さらにクラス委員のさばけた感じの女の子にも話しかけてくれて、クラスに馴染めるまで時間はかからなかった。
連絡マメ、クラス委員長というより副委員長として調整やサポート。
輪の真ん中の真ん中というより、みんなを輪に入れるのが彼の役割。
損なんじゃない?って思っちゃうくらい、人知れずみんなのために動いてくれて。
友達と観に行ったバスケの試合では、彼らしくたくさんアシストをしていた。
バスケなんて全然わからないけど、かっこいい。
「ねぇねぇ、笹川さんも花火大会行かない?」
「花火大会?」
「ほら、8月の。クラスのメンバーで行こうって話してて。……先約とか、ある、かな…洸平も来るんだけど」
「…じゃあ、いこうかな」
こうやって夏休み前に、わたしにも声をかけてくれる優しさ。
知り合いのいない1年生のクラスで浮かずに、高校ライフを楽しめたのは、間違いなく潮崎くんのおかげだった。
…好きにならないわけ、なかった。
◇◆◇
3年生の春先の修学旅行で、雰囲気に飲まれたみたいに告白して。
いいよって言ってくれたときは舞い上がって何も言えなかった。そのあとのことはほとんど覚えてない。
わたしの方が気持ちが大きくても、付き合ってればちょっとは興味持ってくれるかな、なんて思ったのに。
何を話していいか、わからなくて。
「学くーん」
「あ、みんなも来てたんだ。」
声をかけられて振り返る潮崎くん。
「見てみてー浴衣可愛いでしょ。」
「髪もお揃いなんだよー」
わたしといるときはそんなにこやかな笑顔を向けてくれない。
話しちゃダメなんて言いたいわけじゃない。言えない。…でも。
「ほんとだ、可愛いね」
ズキリと胸の辺りが痛んだ。
ーーーわたしには、お世辞でもそんなこと言ってくれないのに。
あ、泣きそう。
踵を返してフラフラと人混みを進む。
「すっ、すみませんっ」
俯いて歩いていたら人にぶつかってしまった。
「あれ、まゆみん」
「…洸平くん」
「どうしたの」
「あ、はは…はぐれちゃって」
何事もなかったように笑顔を作ったつもりだったのに、洸平くんは怪訝な顔。
「アイツと何かあった?」
潮崎くんの親友である洸平くんに、わざわざ言うのは気が引ける。
でも、修学旅行の前に、告白しなよと背中を押してくれた彼には言ってもいいかなと、甘えたくなってしまった。
「好きどころか、可愛いも言ってもらえなかったな…」
「え?」
ぽろぽろと堪えてた涙が落ちてきてしまった。
いいや、せっかく頑張って化粧したって、可愛いとも思ってもらえないんだし。
「好きだったの…!」
それは誰に向けたのか。
「あー…うん、だいたいわかった。こっちおいで」
洸平くんはわたしの肩を抱いて、人混みから連れ出してくれた。
なんで頷いてくれたの。
なんで今日一緒に夏祭り来てくれたの。
なんで。
花火もそっちのけで、洸平くんは泣き止むまで付き合ってくれた。
届いていたメッセージをぼんやり眺めて、また涙が滲んできた。
『はぐれちゃってごめん。人混みすごいから帰るね。帰り気を付けて』
大人数で来たときに、1人だけはぐれたときみたいなメッセージだね。
だって大好きな彼女なら急にいなくなったら怒りたくなるものなんじゃないの?
「潮崎くんに、わたしは必要ないんだろうね」
「まゆみん、それはさぁ…」
洸平くんが何か言いかけたのを、首を振って止めた。
「洸平くん、付き合わせちゃってごめんね。花火見れなかったね。あっ!彼女と!?」
はたと気がついた。
洸平くんだって彼女がいるんだから、こんなところにいさせてはいけないと青ざめる。
「そんなのいいよ。別れたし」
「え…えっ!?なんで」
「あー…まぁ、いろいろ?来てるのクラスのメンバーだから大丈夫。みんな勝手に楽しんでるよ」
送るねと言ってくれる洸平くんを断る理由もなくて駅まで送ってもらった。
電話をするどころか、メッセージを送る勇気のないまま夏休みは過ぎていった。
潮崎くんとはそれっきり。学校が始まっても理系クラスの彼と文系クラスのわたしは接点もないのだ。
わたしってなんだったのって、わかってるようなわからないようなことも、聞けないまま。
受験の慌ただしさに追われて、…と、言い訳をして、連絡をする勇気もないまま、わたしの初恋は終わった。




