表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

第六話 正常な誤作動 ※秋吉視点

※秋吉くん視点


 秋吉薫ってやつは、人当たりには自信がある。

 頼まれたら断らないし、印象は悪いより良いほうがいいだろうと思ってる。

 悪いよりは良いほうがいい理論で身だしなみ、言動、人柄には気をつけている。



 ただ、それは人当たりの話。

 実際の俺は口下手だし、無趣味だし、自分から誰かに連絡をとることもしない。

 基本1人でいたい。

 時間があれば部屋の掃除と数独、動画に出てきたズボラ飯レシピを作って満足しているような人間だ。



「秋吉さん、この間は大変ご迷惑をおかけしました。とても助かりました。お礼にご飯でも」


 こういうときは後々のことを考え、当たり障りもないことを言っておかなければいけない。


「先方も怒ってなかったから問題なかったです。それなら、営業部のひとにも声かけておきますねー」


 取引先に他社の見積もり送っちゃった件だよな.....あれは肝が冷えた。

 どうにかなってよかった。

 彼女を責めるつもりはないけど、次回から俺もしっかり確認しよう。


「秋吉さん。あの、総務部の井上です」

「総務? ああ、白石さんのところの」

「あ、はい! 先月の懇親会の時はフォローいただいてありがとうございました! お礼です」


 懇親会で部長に飲まされてた子かな。


「飲み会あるあるだから、お礼とか全然気にしなくていいのに。でも、せっかくだからいただきます」


 可愛らしい紙袋だ。

 無下にするのも失礼だし、受け取らなくて何か言われても面倒だからありがたく頂戴。


「そうそう、白石さん厳しい人だって聞くけど、大丈夫そう?」

「そんな! 白石さん厳しくないです! 丁寧に指導してくださいますし、何度聞いてもいつも同じく指導してくれます」

「そうなんだ。頑張りすぎないように頑張ってくださいね?」


白石さんの後輩を見送るとふっと口元が緩んだのがわかった。


「......ん?」


 今、勝手に笑ったな。

 おかしい。

 最近やたらと自分がおかしい自覚がある。

 勝手に白石さんを目で探すし、話しかけたくなるし、白石さんの話をしたくて、聞きたくなってしまう。



 ぽこん。


 スマホの通知。

 見知らぬ企業アカウントからのメッセージを開いて思わず声が溢れてしまった。


「んふふ」


 白石さんとハンバーガー食べた時に話の流れで作品のアカウントを友達追加したのを思い出した。



「倉庫行ってきます」

「待って秋吉、過去3ヶ月分のB社の見積もりファイルあったら持ってきてくれると助かる」

「わかった」


 倉庫で自分の目当ての資料ファイルと頼まれた見積もりファイルを抱えると入れ違いで段ボールを抱えた白石さんが入ってきた。


「お、すばるちゃん。お疲れ様」

 

 とても、嫌そう。

 あーはいはい、通常運転。


「お疲れ様です......」

「備品整理?」

「そう、です。今日納品されたものもあるので」


 白石さんはよいしょっと声を出しながら段ボールを床に置いた。

 テキパキと段ボールの中のものを備品棚に収納していく。

 きょろきょろとあたりを見渡して棚の1番上を見上げているのを見て近くの机にファイルを置いた。


「1番上?」

「......そう、電球」

「置いたげるよ」

「ありがとうございます......」

「いいえー、脚立どこいったんだろうね」


 棚の1番上に備品を置き終わった。

 その間にも白石さんはせかせか備品の補充を行い、全て収納し終わると段ボールをたたんでいた。

 すすっと近づいてスマホの画面を見せた。


「すばるちゃん、これ見た?」

「はい? なんです、突然」

 俺のスマホをのぞいた白石さんはハッと息を飲み、勢いよく顔をあげた。


「なんですこれ!?」

「水族館コラボやるみたいだよ」

「水族館!?」

「コラボバーガー食べてからじわじわ気になってるんだけど、来週の土曜日とかどう?」


 白石さんは数回高速で頷いた。


「原作、読みますか!?」

「原作?」


 原作とは?


「よ、読む、ます」

「わかりました」


 白石さんが先に倉庫を出て、俺はファイルを抱え直して倉庫を後にした。



 秋吉薫っていうのは、元々そういう人間じゃない。

 休日は1人でいたいし、誰かをわざわざ誘うことなんてしない。


 少女漫画じゃあるまいし、抱えたファイルをさらに握り込んで浸るなんて、なんの冗談なんだろう。


 心拍数はいたって、正常。

 行動や言動は明らかに誤作動。


 気になってるならまずは原作漫画を読んでくださいと15巻分の漫画本が入った大きな紙袋を渡されることをこの時の俺は知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ