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独裁者  作者: 柿井優嬉


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9/12

 朝。登校中で、道を歩いている生徒が大勢いる。

 そのなかで、そばに親しい相手はおらず独りの状態の玲香が、伏し目がちで何かを考えているような顔をしていた。

「お願いしまーす」

 学校がもうすぐの位置に迫ったところで、そう言う声が聞こえてきて、彼女は視線を向けた。

「ん?」

 見覚えのある人間だと思い、より注目すると、校門の前で生徒たちに呼びかけているのは真だった。

「あんた、何やってんの?」

「よお」

 玲香に気づいた彼は、手に持ったものを差しだした。

「なあ、署名してくれよ」

「なに、署名って?」

「ほら、この前、俺が委員会の新聞に書いただろ、心の病気になっちゃうケースもあるくらい先生たちは忙しいって。だから、上の立場の偉い人に、教師の仕事量を減らすよう求める署名だよ」

「ええ? どうしてそこまでするの? ちょっと褒められたからって、そんなに先生たちに自分の株を上げたいわけ?」

 顔をゆがめて玲香は問うた。

「ちげえよ。大場に頼まれてさ」

「え?」

 玲香の表情はさらに険しくなった。

「それで、泣く泣くやってたってこと?」

「なんで泣く泣くなんだよ?」

「だって、あんたがそんなことを、それも一人で……」

 すると、彼女の真後ろから誰かが声を発した。

「高山さん」

 はっとした顔つきになり、恐る恐る玲香は振り返った。

 真と同じく署名の用紙を抱えた修司が、実に優しい笑みを浮かべて立っており、間近までやってきた。

「どうも」

 そう口にして、小さく頭を下げた。

「ど……どうして私のことを……」

 友人の女子生徒から話を聞いた暴力事件と、蚊も殺さないような目の前にいる修司の、不釣り合いさが不気味で、恐怖心から引きつってしまう顔面を、玲香は必死に抑えようと努めた。

「同学年の奴の顔と名前はだいたい覚えたんだとさ」

 玲香の動揺に気づいていない模様で、真が答えた。

「僕が、伊藤くんに署名の手伝いをお願いしたんだ」

 修司が続けてしゃべった。

「近くにいればいいって言われたんだけど、どうせだからと思って、俺も呼びかけてたんだよ」

「何か問題があったかな?」

 修司は玲香に尋ねた。

「あ……いや、別に……」

 歯切れの悪い返答しかできない玲香であった。



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