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朝。登校中で、道を歩いている生徒が大勢いる。
そのなかで、そばに親しい相手はおらず独りの状態の玲香が、伏し目がちで何かを考えているような顔をしていた。
「お願いしまーす」
学校がもうすぐの位置に迫ったところで、そう言う声が聞こえてきて、彼女は視線を向けた。
「ん?」
見覚えのある人間だと思い、より注目すると、校門の前で生徒たちに呼びかけているのは真だった。
「あんた、何やってんの?」
「よお」
玲香に気づいた彼は、手に持ったものを差しだした。
「なあ、署名してくれよ」
「なに、署名って?」
「ほら、この前、俺が委員会の新聞に書いただろ、心の病気になっちゃうケースもあるくらい先生たちは忙しいって。だから、上の立場の偉い人に、教師の仕事量を減らすよう求める署名だよ」
「ええ? どうしてそこまでするの? ちょっと褒められたからって、そんなに先生たちに自分の株を上げたいわけ?」
顔をゆがめて玲香は問うた。
「ちげえよ。大場に頼まれてさ」
「え?」
玲香の表情はさらに険しくなった。
「それで、泣く泣くやってたってこと?」
「なんで泣く泣くなんだよ?」
「だって、あんたがそんなことを、それも一人で……」
すると、彼女の真後ろから誰かが声を発した。
「高山さん」
はっとした顔つきになり、恐る恐る玲香は振り返った。
真と同じく署名の用紙を抱えた修司が、実に優しい笑みを浮かべて立っており、間近までやってきた。
「どうも」
そう口にして、小さく頭を下げた。
「ど……どうして私のことを……」
友人の女子生徒から話を聞いた暴力事件と、蚊も殺さないような目の前にいる修司の、不釣り合いさが不気味で、恐怖心から引きつってしまう顔面を、玲香は必死に抑えようと努めた。
「同学年の奴の顔と名前はだいたい覚えたんだとさ」
玲香の動揺に気づいていない模様で、真が答えた。
「僕が、伊藤くんに署名の手伝いをお願いしたんだ」
修司が続けてしゃべった。
「近くにいればいいって言われたんだけど、どうせだからと思って、俺も呼びかけてたんだよ」
「何か問題があったかな?」
修司は玲香に尋ねた。
「あ……いや、別に……」
歯切れの悪い返答しかできない玲香であった。




