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放課後の二年一組の教室で、カバンを持って本人の席から離れていこうとする修司に、近くにいた女子生徒が声をかけた。
「あ、大場くん、帰るの?」
「うん」
「バイバイ」
その女子は手を振った。
「じゃあね」
さわやかな微笑みで応じて、修司は去っていった。
姿が消えてもまだ修司のことを思っている様子の彼女のところに、別の女子生徒がやってきた。
「なに、里紗、大場くんのこと好きなの?」
「え? 違うよ。そんなんじゃない」
里紗という名の、修司と別れのあいさつを交わした彼女は、激しく首を横に振って否定した。
「でも、大場くんて、ほんと立派だよね。転校してきたばっかりなのに、保健委員もだけど、積極的に人に親切にしたりさ。普通できないよ」
目を輝かせた表情で言ったことによって、相手の女子は呆れてツッコむ感じで、再び指摘した。
「やっぱり、もう完全に、ホレてるじゃん」
「違うって。私のタイプ、知ってるでしょ?」
そうキャッキャッ話す二人を、そばの数人の男子が、見ていられないといった顔でうっとうしそうにしている。
すると、一人の男子が里紗たちに歩み寄り、しゃべりかけた。
「なあ、面白い話を聞かせてやろうか?」
悪そうな笑みを浮かべている彼を見て、嫌なことを口にしそうだと察した、里紗ではないほうの女子は、表情を曇らせた。
「どうせまたくだらないことを言う気でしょ。いいよ。里紗、行こう」
そうして里紗を連れて離れていこうとするなか、声をかけた男子生徒は、もったいないという顔で続けた。
「絶対に驚く、大場のすげえ話なんだけどな」
「え? なになに?」
里紗が興味津々で立ち止まって尋ねた。
「ちょっと、里紗ー」
友人の女子生徒に聞かないほうがいいといった調子で言われても、変わらぬ態度で彼女は耳を傾けた。
「あいつ、前の学校で……」
玲香が、別の女子と学校から帰る道を歩いている。
「あのさ。ちょっと、ある噂を聞いたんだ」
相手の生徒がそう口にした。
「ん?」
玲香は聴く姿勢になった。
「一組に転入してきた、大場って人、知ってる?」
「あー。知らないけど知ってる」
真から、記事を書くのに、修司に協力してもらったことを玲香は聞いていた。修司が悪さを働いたわけではないが、彼のその行為によって真から仕返しを食らった身として、ちょっとばかり嫌なイメージがついていたために、気分が悪くなって、ぶっきらぼうに答えたのだった。
「はあ? どういうこと?」
「いや、ほら、よくは知らないけど、転校してくるタイミングで、どんな感じの人なのかとか、多少の情報は耳に入ってきたってこと」
我に返り、玲香は態度を普通に戻して答えた。
「それで、何なの? 噂って」
「あ、そうそう。その大場くんが、転校してくる前にいた学校、私立なんだって。それは知ってた?」
「ううん。へー、そうなの」
「だから、前の学校に入るとき、受験してるわけじゃん。なのに公立のうちに移ってきたのは、それなりの理由があるらしいんだ」
「え? なに? その理由っていうのは」
いっぺんに全部言わない話し方のせいもあって、玲香は興味が強くなり、向けていた顔をさらに相手の方向に動かして訊いた。
「うん、前の学校でね……」
友人の女子は、しゃべっちゃっていいのかなとためらう様子で、少々間を取ってから述べた。
「暴力事件を起こしたんだって」
「え……」
玲香は驚いて目を見開いたのだった。




