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独裁者  作者: 柿井優嬉


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8/8

 放課後の二年一組の教室で、カバンを持って本人の席から離れていこうとする修司に、近くにいた女子生徒が声をかけた。

「あ、大場くん、帰るの?」

「うん」

「バイバイ」

 その女子は手を振った。

「じゃあね」

 さわやかな微笑みで応じて、修司は去っていった。

 姿が消えてもまだ修司のことを思っている様子の彼女のところに、別の女子生徒がやってきた。

「なに、里紗、大場くんのこと好きなの?」

「え? 違うよ。そんなんじゃない」

 里紗という名の、修司と別れのあいさつを交わした彼女は、激しく首を横に振って否定した。

「でも、大場くんて、ほんと立派だよね。転校してきたばっかりなのに、保健委員もだけど、積極的に人に親切にしたりさ。普通できないよ」

 目を輝かせた表情で言ったことによって、相手の女子は呆れてツッコむ感じで、再び指摘した。

「やっぱり、もう完全に、ホレてるじゃん」

「違うって。私のタイプ、知ってるでしょ?」

 そうキャッキャッ話す二人を、そばの数人の男子が、見ていられないといった顔でうっとうしそうにしている。

 すると、一人の男子が里紗たちに歩み寄り、しゃべりかけた。

「なあ、面白い話を聞かせてやろうか?」

 悪そうな笑みを浮かべている彼を見て、嫌なことを口にしそうだと察した、里紗ではないほうの女子は、表情を曇らせた。

「どうせまたくだらないことを言う気でしょ。いいよ。里紗、行こう」

 そうして里紗を連れて離れていこうとするなか、声をかけた男子生徒は、もったいないという顔で続けた。

「絶対に驚く、大場のすげえ話なんだけどな」

「え? なになに?」

 里紗が興味津々で立ち止まって尋ねた。

「ちょっと、里紗ー」

 友人の女子生徒に聞かないほうがいいといった調子で言われても、変わらぬ態度で彼女は耳を傾けた。

「あいつ、前の学校で……」


 玲香が、別の女子と学校から帰る道を歩いている。

「あのさ。ちょっと、ある噂を聞いたんだ」

 相手の生徒がそう口にした。

「ん?」

 玲香は聴く姿勢になった。

「一組に転入してきた、大場って人、知ってる?」

「あー。知らないけど知ってる」

 真から、記事を書くのに、修司に協力してもらったことを玲香は聞いていた。修司が悪さを働いたわけではないが、彼のその行為によって真から仕返しを食らった身として、ちょっとばかり嫌なイメージがついていたために、気分が悪くなって、ぶっきらぼうに答えたのだった。

「はあ? どういうこと?」

「いや、ほら、よくは知らないけど、転校してくるタイミングで、どんな感じの人なのかとか、多少の情報は耳に入ってきたってこと」

 我に返り、玲香は態度を普通に戻して答えた。

「それで、何なの? 噂って」

「あ、そうそう。その大場くんが、転校してくる前にいた学校、私立なんだって。それは知ってた?」

「ううん。へー、そうなの」

「だから、前の学校に入るとき、受験してるわけじゃん。なのに公立のうちに移ってきたのは、それなりの理由があるらしいんだ」

「え? なに? その理由っていうのは」

 いっぺんに全部言わない話し方のせいもあって、玲香は興味が強くなり、向けていた顔をさらに相手の方向に動かして訊いた。

「うん、前の学校でね……」

 友人の女子は、しゃべっちゃっていいのかなとためらう様子で、少々間を取ってから述べた。

「暴力事件を起こしたんだって」

「え……」

 玲香は驚いて目を見開いたのだった。



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