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昼休みになり、真は一組へと移動し、ドア付近にいた男子生徒に声をかけた。
「あの、転校してきた、大場って人、います?」
男子は教室内を見回した。
「いないな。どこかに行ったみたい」
「そうっすか。どうも」
真は自らのクラスに戻りかけたが、すぐに立ち止まった。
「あ、そうだよ。保健室にいるんじゃねえの?」
そうして今度は一階にある、保健室に向かった。
「うわ、すげえな」
途中、廊下の窓から、外の雨がどしゃ降りで、加えて雷が落ちるのも目に入って、思わずつぶやいた。
「すみませーん」
彼は、着くとノックして、返事を待たずにドアを開けた。
「ありゃ? 誰もいねえ」
言葉の通り、部屋の中は無人で、養護教諭も見当たらなかった。
「チェッ、何だよ。ま、いっか。元々気が乗ってなかったんだし……」
立ち去ろうと振り返った、次の瞬間。
「うわっ!」
目の前に人がいて、びっくりした真はそう声を発した。
「あ、ごめんなさい、驚かしちゃって」
それは男子生徒で、よろめいた真の手首をつかんで支えた。
「ああ、ありがとう」
真は、体勢を戻して、お礼を口にした。
「何か用ですか? 具合が悪い様子ではないですけれど」
真より少し背が高く、男子の平均的な身長のその彼は、とても穏やかで優しそうで、善人の雰囲気に満ちていた。かけられた言葉からも、真はすぐにわかった、「こいつが大場だな」と。
「きみ、大場くん? 二年一組で、ちょっと前に転校してきた」
「そうだけど……」
彼、大場修司は、なんだろう? といった疑問の表情を浮かべた。
「きみに用があってさ。保健委員で、ここによくいるって聞いたもんで、来たんだ」
真が語っている最中に、女性である養護教師もやってきた。
「あ、先生。この彼が僕に用事があるらしいので、離れても構いませんか?」
修司が彼女に訊いた。
「いいよ、もちろん」
養護教諭は笑顔で答えた。
「じゃあ、すみません」
そう口にして頭を下げ、彼女が保健室に入るのを見届けると、修司は再び真に視線を向けて尋ねた。
「それで、どういう?」
「えっと……あ、俺も二年生だから、教室のほうへ歩きながら話そうか?」
「うん、いいよ」
真は、自分は新聞委員で、記事を書かなければならないことを説明し、修司が転校してきてまだ日が浅いというのに保健委員の仕事を精力的に行い、しかもその活動ぶりが素晴らしいと、関わった先生や生徒たちに絶賛されているという噂を耳にして興味を持ったので、取材としていろいろ話をするのと、まだ確定ではないけれどもそれを記事にしてよいかを問うた。
「え……」
修司は困惑した顔を見せた。
「悪いんだけど、それはちょっと勘弁してもらいたいな。その噂は大げさで、普通に保健委員の仕事をしているだけで、記事にされるなんて、単純に恥ずかしいのもあるし、この学校に来てそんなに経ってないから、読んだ人にどういう反応をされるか予想がつきにくくて、不安だからさ」
「そっか。そうだよな」
浩子から話を聞いたとき、真自身が、「やらなくていいものを、わざわざ保健委員になるなんて」と、真面目過ぎる感じがして、あまり良い印象を抱かなかったので、今の言葉に納得したのだった。
「わかった。じゃあ、他を探すよ。悪かったね、保健室の前で言えばよかったのに、こっちに来させちゃって」
真は彼のもとを去る仕草をした。
「ごめんね、役に立てないで」
修司はとても申し訳なさそうである。
「いいよ、全然。逆の立場だったら、俺も断ると思うから。じゃあ」
明るくそう返したものの、自分の組の教室に向かい、修司を背にすると、真は顔をゆがめた。
「でも、どうすっかな。ほんと、こういうとき、全然面白いこと起きねーし、断られちまうしで、うまくいかねーな」




