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真が生徒会室を訪れた。
「やあ」
それを修司は笑顔で迎え、他の役員たちは彼に応対を一任した。
「何か用かい?」
「ああ」
修司の問いかけに、真はうなずいて、言った。
「新しい部を創設したいんだ。あと、それに絡めてイベントをやりたい。紙に書いてきたから、了承のサインをくれねえか?」
修司は、真がよこした用紙に目を移した。
「コメディー部、お笑い大会……なに、これ?」
修司の顔から笑みが消えた。
「だから、やりたいんだって。いいのかよ?」
「くだらない」
悪い表情になった修司は、紙を派手に破り、放り投げた。
「何すんだよ」
真は軽く腹を立てた。
「だって、馬鹿げてるだろ。自分でもわかってるくせに」
「馬鹿げていようが、いまいが、関係ねえだろ。どうなんだよ? やっていいのか? 悪いのか?」
「勝手にすりゃあいい。馬鹿馬鹿しい。そんなもののために、ここにやってくるんじゃねえよ」
修司はキッとにらむ視線を注いだけれども、真はそれには付き合わないといった態度で返した。
「今、勝手にしていいって言ったよな? じゃあ、するよ。悪かったな、手間を取らせちまって」
そして平然と部屋を後にしていき、修司も大きなリアクションはせずに見送ったのだった。
放課後、真は校内の壁に、お笑いや芝居の喜劇など広くコメディーに関わる活動を行う、コメディー部のメンバー募集の張り紙を何枚もしていた。そこには、漫才やコント、漫談、落語など、何でもありのお笑い大会を行う考えが、未定ではあるものの、計画としてある旨も記されている。
「なに、これ。面白そうじゃん」
真と知った間柄の男子が通りかかり、声をかけた。
「だろ」
真は笑顔で応じた。
「でも、俺はなー。笑いのセンスないし」
「慣れればいけるって。俺、ネタ書いてやろうか?」
そう明るく会話を交わした。
ところが翌日——。
「ひでえ。何だよ、これ」
せっかくたくさん貼った張り紙が、すべてはがされ、それもビリビリに破かれた状態になっていたのだった。
「きっと大場たちの仕業だ」
「文句……を言うとやばいか」
真と一緒にいる友人たちが言った。
「まあ、いいよ。すでに目にした人もいるだろうし、また貼ればいいし、声をかけて勧誘することだってできるんだから」
真自身は落ち着いている。
「それより、この部に入るって決めた奴、いる?」
友人たちを見渡して問いかけた。
「いや……」
「俺は向いてないし」
「僕もパス」
「もー。部員が集まらないほうがショックだよ」
ふざけた感じで真がほおを膨らませ、場は和んだのだった。
「真……」
その様子を、離れた位置から浩子が見ていた。彼女は恵のことで落ち込んでいた真を思ってそっとしておいたが、元気を取り戻し、ふざけたり、我関せずとなっているのではなく、暗さに覆われた学校の雰囲気を良くしようとしているのだと、彼の行動の意図を察知して、安堵していた。
とはいえ、あのやり方では、修司が支配する現在の状態を正常化させるまではできないであろうし、どうすればいいのかと頭を悩ませてもいた。
良い方法が浮かばないなか、彼女はもう一度武秀中に行ってみることにした。以前に中断となった、修司について知っている、絶対にそうである必要はないけれど女子生徒に会って話を聞けないかと。また教師に注意されたらされたで、そのときどうにか対処すればいいやという考えだった。
今度も土曜日に、到着して、校門の近くで、どのコに声をかけようかと、しばらく立っていた。
すると——
「え?」
そばに、窓に黒いフィルムが施されたワゴン車が停まり、中から二、三十代とみられる背の高い男性が降りてきて、浩子のほうに向かってきたと思ったら、なんと彼女の手を取って、その車に無理やり乗せた。
「ちょっ……」
あまりの、そしてあっという間の出来事で、呆気に取られて、まったく抵抗できなかったが、ようやく声を出そうとしたところ、口をふさがれた。
そして、浩子は意識を失ったのだった。




