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「アー」
相羽中のとある教室で、一人の男子生徒が大きなあくびをした。
「最近、つまんねえよな」
隣の席に座っている、話し相手の別の男子に言った。
「何が原因って、あの新しいメンバーになった生徒会だよ。期待外れもいいところだぜ。リコールなんてするから、さぞかし自分たちはすげえことやるんだろうと思ったら、全然だもん」
「まあな」
「それに、大場が会長になれば、今までとは比べものにならないくらいに学校を楽しくするんだって話、あれ、どうなったんだ? だから支持したってのに」
「情報の出どころがはっきりしないから、怪しいと思ったんだよ、俺」
「チェッ」
「で、聞いた話によると現執行部の連中、いかにも落ちこぼれって奴らに、勉強を教えるだとか、助けになることを手厚くやってるんだと」
「ふざけんなよな。生徒のための生徒会なんだろうが。俺たち他の生徒の得になることもやれっつうんだよ」
すると、そばにいてそれを耳にした、また違う男子生徒が話しかけた。
「おい、あんまりそういうことを大声で言わないほうがいいぞ。生徒会役員に聞かれたらまずいだろ」
「え?」
言われた生徒は眉をひそめた。
「知らないのか? 三年生で、今みたいに大場に対して不満な態度をおおっぴらにしてた人が、急におとなしくなったんだって。どうも、暴力を振るわれたか、それに近いことをされたって噂だ」
「マジで? だ、誰に?」
「そりゃあ、大場本人か、取り巻きなんかだろう。でも証拠がないから先生たちは何もできないだろうし、そもそも教師たちは全般に大場に好意的だから当てにならないし、それ以上に告げ口なんてしようものなら本気でやばい目に遭うおそれがあるから黙ってるしかないって状態なんだよ」
「くそー」
その頃、萌美と廊下にいる麻奈が、そう落胆の言葉を漏らしていた。
萌美も同様に落ち込んだ表情だ。
麻奈は、リコールの署名を提出する直前の修司とのやりとりのとき、彼が女性をけなす発言をしたのを、父親が警察官だからということではないだろうけれども、録音していたのである。もちろんああいった内容を口にするとわかっていたわけではなく、挑発することによって、何か悪い本性を見せる失態を犯す可能性があると考え、会話をすべてを録っていたのだ。
そして修司が生徒会長に就任し、ずっと完璧に運営していけるはずはないと考え、予想通り彼のやることに不満や疑念を抱く生徒が増えてきたタイミングで、周囲の生徒に音声を聞かせたのだが、今しがたの男子たちが話していたように、反感を持っても、それを表に出すと身に危険が及びかねないという状況になったために、修司への有効な攻撃にはならなかったのだった。
場面は男子たちのほうに戻る。
修司に刃向かった態度をしていた三年生がおとなしくなったという話を聞いたコが言った。
「じゃあ、やりたい放題じゃんか。他の役員連中はみんな家来みたいだし、大場は独裁者だな」




