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「ねえ、真。私立の武秀中学校ってところに通っている、女子生徒の知り合いなんて、いないよね?」
当てのない浩子は、言葉の通り、いないだろうなと期待はしないながらも、念のために三組に赴いて真に尋ねた。
「いないけど」
「やっぱりそうだよね」
浩子は軽く肩を落とした。
「どういう目的なんだ?」
今度は真が問いかけた。
「ちょっと、大場くんのことで……」
すると、二人の近くにいた玲香がしゃべってきた。
「あの、それだったら、二組の前原くんが知ってるかもしれない」
「え? そうなんですか?」
「うん。小学生のときから行ってる塾で一緒だった、私立の中学校に進んで、今も連絡が取れる、仲のいいコが何人もいるみたいだから、女子もいる可能性があるし、いなくても、友達の友達といったつながりで紹介してもらったりできるんじゃないかと思うよ。なんなら私が訊いてあげる」
「本当に? じゃあ、お願いします」
「今、行こうか? 一緒に来る?」
「はい」
うなずいた浩子は、真に視線を向けた。
「真も行く?」
「別にいいよ、俺は。関係ないから」
「そう」
恵へのリコールの件があるので、修司に関わることはすべて関係あるとも言えるのだけれども、乗り気ではない真を慮って、浩子は無理に連れていこうなどとはしなかったのだった。
「あ、じゃあ、よろしくお願いします」
彼女は玲香に軽く頭を下げた。
「うん」
そうして浩子と玲香は、前原が籍を置く二組へと移動した。
「萌美ちゃん」
二組は萌美のクラスでもあるため、教室に入った浩子は、本人の席にいた彼女を手招きして呼んだ。
やってきた萌美に、浩子は事情を説明した。
「そうなんだ」
萌美が言うと、浩子が玲香にしゃべった。
「この件で一緒に行動してるから、彼女も話に加わっていいよね?」
「うん」
玲香はうなずき、三人で隆也のもとに足を運んだ。
「前原くん」
玲香が声をかけた。
「ん?」
「前原くんさ、塾で一緒だった関係で、私立中の友達がたくさんいるんでしょ? 武秀中の女のコって、誰か知らないかな?」
「武秀中の女子?」
誰かいたっけ? といった考える顔になった隆也だったが、すぐに表情が変わり、眉をひそめた。
「待って。武秀中ってまさか、大場の……」
「うん、前にいた学校」
玲香が答えると、浩子が続けた。
「そこで彼が当時どんなだったか、ちょっと知りたいと思って。男子には何人かから話を聞けたので、違った印象や情報を持っているかもしれない女子にもできたらってわけなんです」
隆也は内心激しく動揺した。けれども、必死に平静を装い、三人には気づかれないようにした。
「やめときな」
彼は落ち着いた調子で浩子に言った。
「大場には関わらないほうがいいよ。あいつには……」
「どうして? 大場くんは凶暴な人じゃないんだよね? 前原くん、前に教えてくれたじゃん」
玲香が口を挟んだ。
「私と委員会が一緒の伊藤が、ふざけてばっかの奴だったのに、最近元気がないの。あいつのお姉さんは生徒会長で、そのせいだと思う。いかにも弱ってるっていうんじゃなく、なんともないって顔をしてるんだけど、それがかえって痛々しくて、ちょっとかわいそうになってきちゃってさ。そんなに生徒会役員が問題だとは思えないし、もし本当に良くないとしても、リコールなんてする前にもっといろいろできるじゃん。ちゃんと聞いたわけじゃないけど、この二人もそういった気持ちだから、大場くんのことを調べたりしてるんだと思う。ごめん、勝手なこと言っちゃった。合ってる?」
彼女は浩子と萌美に訊いた。
「うん。ほぼその通り」
浩子が答え、萌美は首を縦に振った。
「だからお願い、力になってあげて、前原くん」
「駄目ったら駄目だよ」
「なんでっ?」
あまりにそっけない隆也の態度に、玲香の口調が強くなった。
少しの間じっと考えた彼は、辺りを見回すと、机の上にノートを出して広げ、何やら書き始めた。
〈大場がどこかで俺たちの会話を聞いてるかもしれない。あいつに伝わらないように、言いたいことをここに書くから、口に出さずに読んで〉
玲香と浩子と萌美は、隆也の意図を理解し、目立たないようわずかにうなずいて、続きの文字を待った。
〈以前、俺も大場がどういった人間なのか気になって、密かに調べていたんだ。それに感づいたあいつは、俺に警告してきた。次に記す言葉に驚くと思うけど、我慢して動揺しないようにして〉
隆也が三人に視線を向けると、彼女たちは了解して、再びコクッと少しだけ頭を上下させた。
〈大場ははっきりこう口にしたんだ。「僕をつけ回すのはやめろ。さもないと、きみと仲のいい高山さんが、どういう目に遭うかわからないぞ」〉
三人の女子、特に自分の危険についてで玲香は衝撃を受けたが、表情はどうにか変えなかった。
〈そういうわけで、あいつには関わらないほうがいい。裏の顔は絶対にあるし、その悪い面がどの程度のものなのかもわからないんだから〉
萌美は、麻奈と武秀中に行って以降の出来事を、携帯のメッセージで彼女に伝えた。気持ちが不安定な様子の彼女にそうするのは迷いがあったけれども、武秀中で修司が苦しんでいた話を聞き、浩子に「自分はやっつけられない」と口にしていたことから、修司に同情心を抱いたのではと思い、隆也がノートに記した内容を教えるべきだろうと判断したのだった。
それを自宅の自室で見た麻奈は、息をのんだ。
しばらくベッドに横になった後、彼女は勢いよく体を起こした。
その目には力がみなぎっていたのであった。




