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「そう」
浩子が言った。
「だから、麻奈のなかで何があったのかはわからないんだ」
萌美が、麻奈の様子がおかしくなった経過を説明したのだった。
二人は相羽中学校の廊下で話している。彼女たちは、仲が良いとまではいかないが、麻奈を通じて、友達に近い関係になっていた。
「どうしたらいいんだろ」
萌美が暗い表情でつぶやいた。
浩子は、考えるので少しの間黙った後で、口を開いた。
「私も武秀中に行ってみようかな」
「え?」
「その、大場くんのことを教えてくれた男子が、嘘を言ってるとは思わないけど、彼について知っている別の人には違ったふうに見えていたり、他の何か重要な情報を得られるかもしれないじゃない?」
「そっか……そうだね」
「どうしよう、いつ行こうかな」
「なら、私も一緒に行くよ。麻奈が元気になるものが手に入らないとも限らないし、じっとしてても気が滅入るだけだから」
「わかった。あ、そうだ。だったら学校の場所を教えて」
「もちろん」
今回も土曜日に、武秀中学校に足を運んだ二人は、前のとき麻奈と萌美が行ったように、校門前で聞き込みをした。
その最中に、またしてもやってきた、といってもこの前とは別の男子生徒が、修司のことを知っているというので話を聞いたのだが、前の男子よりも情報量は劣り、得られた内容はほとんどが重複していたのだった。
「あーあ。収穫なかったね。前回聞いた中身は間違いないみたいだし」
帰り道を歩きながら、萌美が言った。
「でも、もう少し聞きたいな。また別の、例えば女子から」
浩子がそう口にした。
「そう? 何か出てくるかな?」
「わからないけど……あ、次は私だけでもいいよ」
「いやいや、大丈夫。私も行くよ」
浩子と萌美はその後、数回訪問した。
そうしてある日、武秀中の校門前にいる二人のもとに、細身でメガネをかけた中年の男性教師がやってきて、声をかけた。
「おい、きみたちか? 出てくる我が校の生徒たちに、何やら話を訊いて回っているというのは」
「え? はあ……」
歓迎する気持ちでないのは明らかで、萌美が遠慮がちに返事をした。
「もうやめてくれないか? 迷惑しているんだ」
「ど、どうしてですか? 別に失礼なことはしていませんが」
浩子が尋ねた。
「とにかく、駄目ったら駄目だ。うちの生徒が嫌がっているんだから。もしそのせいで不登校にでもなったりしたら、責任を取れるのか?」
「……」
困惑して、答える言葉が思い浮かばず、お互いの顔を見ることしかできなかった二人を、教師は軽く押した。
「ほら! 言うことを聞かないと、きみたちの先生や親御さんに連絡することになるからな」
浩子と萌美は、名残惜しいといった態度ながら、仕方なくその場を後にしていったのだった。




