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独裁者  作者: 柿井優嬉


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「ここか」

 麻奈と萌美は、修司が以前に籍を置いていた武秀中学校にやってきた。彼女たちが通っている相羽中は公立で土日は完全に休みだが、私立の武秀中は基本的に週六日授業を行っているので、都合が良い土曜日に訪れたのだった。

 とりあえず、授業を終えて帰宅するので校舎から出てくる男子生徒に尋ねてみることに決めており、実行した。

「あの、以前ここの学校の生徒だった、二年生の大場修司くんという人について知りたいんですけど、ご存じないですか?」

「さあ?」

「知らないです」

 このような具合で、けっこうな人数の生徒に尋ねたのだけれども、すべて空振りに終わった。

「どうしようかな。忍び込んで、二年生の教室に行こうか?」

 麻奈が訊いた。

「えー? 許可を取ったほうがいいんじゃないの? この学校の制服じゃないから目立つし」

 萌美はそう返した。

「でも、どういう用件だって言う?」

「だから、うまくいかないようなら、次に声をかけた人が二年生じゃなかったら、誰でもいいから二年生を、二年生だけどあの人のことは知らないって答えだったら、知ってそうな生徒を、呼んできてもらうって決めたじゃん」

「わかってるけど、まどろっこしいかなと思ってさ。ちゃんとあいつの情報を得るところまでたどりつけるかも微妙だし。それに、他の学校、特に私立の校内がどんなか、見てみたくない?」

「そりゃあ、見られるものなら見てみたいけど」

「ほら」

「でも、やっぱりやめとこうよ。怖いもん」

「なーにが怖いの。ここに大場はいないよ。だいたい、私と一緒なら平気だったんじゃないの?」

「そうだけど……」

 そんな調子で、校門のそばでしばらくしゃべっていたときだった。

「あの」

 二人に声がかけられ、視線を向けると、おとなしい雰囲気の、一人の男子生徒が立っていた。

「大場くんについて、知っていないか尋ねている人たちっていうのは、あなたたちでしょうか?」

 二人は顔を見合わせ、麻奈が恐る恐る答えた。

「はい……」

「大場くん、どうかしたんですか?」

 心配するような表情で、彼はさらに質問した。

「え……いや……」

「僕、大場くんと友達だったんです。ここじゃなんですから、場所を変えて、座って話しませんか?」

 二人はまたアイコンタクトをして、麻奈が返事をした。

「はい。お願いします」

 そして三人は、近くの歩道の、ベンチがあって休憩できるスペースに移動して、話を始めた。

「で、どういった目的で、ここに?」

 男子生徒が問うた。

「こちらの学校にいたときはどんなだったかわかりませんが、大場くんてすごい人じゃないですか? うちに転校してきて、すぐだから何もしなくていいのに、保健委員をやると名乗りでたうえ、本物の看護師かというほどの見事な働きぶりで、今や校内で知らない人はいないくらいの存在なんです。それで、聖地巡礼じゃないですけど、以前通っていたこちらの学校にも興味を持って足を運ぼうとするコたちがいて。でも、何人もで押し寄せたりしたら、ここの人たちに迷惑がかかる可能性が大じゃないですか。なので、彼に熱を上げたりしていない私たちがいろいろ見聞きして情報をあげるから、それで満足しなさいってわけなんです」

「はあ」

 麻奈の説明に対し、相手の男子はなるほどといったふうにしっくりはきていない顔つきだ。

 それでも麻奈は続けた。

「ということで訊きたいんですが、大場くん、こちらではどんなでした? ざっくりとした質問で申し訳ないですけども」

「今教えてくださったような、そんな目立つ人ではまったくなかったです。ただ、すごく優しかった。なので、本物の看護師かというほどの働きぶりだという点に関しては納得できます」

 そこで彼は少し言いよどむ感じになった。

「実は大場くん、うちの学校にいたとき、別の男子生徒を殴ったんです。表向きは、彼自身がいじめられていて、その相手に、我慢が限界を超えて、やってしまったんだという話になっているんですけど、本当は、弱い同級生たちがいじめられていたのを、許せなくてやったことなんです。それも大場くんは、母親が教育ママって人で、中学受験をしたくなかったのに無理やりたくさん勉強させられただとか、つらい思いをいっぱいしてきたみたいで、その影響で精神的に不安定だったのに、他人のためにそういうことをやったんです。詳しくは知らないですが、おそらくそのトラブルも転校していった理由としてあって、心配してたんですよ。そっか。新しい環境で気持ちがリセットされたのか、元気になったんですね。よかった」

 安堵している男子を横目に、萌美は小首を傾げて麻奈を見たが、うつむき気味の麻奈は何かを考えている様子で、なかなかそれに気づかなかった。

 少しして、ようやく彼女も萌美に視線を向けたけれども、落ち込んでいるような元気がない表情だった。



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