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廊下に移動した麻奈に、萌美は問うた。
「大丈夫なの? あそこまでのことを言って」
すると、直後に彼女はビクッとなった。
それで足もと付近に視線があった麻奈も同じ前方に目をやると、離れた位置から彼女たちを見ていた様子の修司が、横の方向に歩いていった。
「どうしたの?」
麻奈が萌美に訊いた。
「今、あの人が、こっちに顔を向けて、不気味な感じでニヤッとしたの」
「え?」
「やっぱり私のこと覚えてたんじゃないかな。それで、ああいう怖い面があることを口封じするために、何かやってくるっていう予告的な笑みとか……」
萌美は恐怖で震え上がった。
麻奈は鋭い目つきになって、修司が行ったほうへ走りかけた。
「ちょっ……麻奈っ。待って、どうするの?」
萌美が麻奈をつかんで引きとめた。
「もしかしたら私の見間違いだったかもしれないし、どっちにしても、へたなことすると余計に怖いよ」
「わかった。でも、いい気にさせてはおけない。萌美のことは何も言わないで、宣戦布告っていうか、少しだけかましてくる」
そうして麻奈は、離れていく修司に追いつくために、急ぎ足で別ルートから回り込んで、彼の目の前に立った。
彼女は、体は腕を組んだ状態で動かさず、しかしこれでもかというくらいに鋭い目つきで見つめた。
対する修司は、いつもの穏やかな顔で、麻奈同様に言葉を発することなく、彼女の横を通り過ぎていったのだった。
修司が遠くへ行って視界から完全に消えたタイミングで、麻奈のもとに萌美がやってきた。
「あいつ、やっぱり黒だな」
麻奈がつぶやいた。
「え?」
「あれだけ私がにらんで、まったく表情が変わらないなんておかしい。必ず悪党のしっぽをつかんで、叩きのめしてやる」
「だけど、どうやるの?」
萌美は心配を含んだ顔で問いかけた。
「そうだな、あいつが悪い奴ってはっきりさせるために、前にいた中学校へ行って、知っている生徒に訊いてみるか。暴力事件も、本当は先生が説明した正当防衛みたいな感じじゃ全然ないって話になるかもしれないしね」
「じゃあ、私も行くよ」
「いいよ、あんたは。あいつが怖いんでしょ? 深入りすると、危険な目に遭う確率が高まるよ」
「平気、麻奈と一緒なら。それに、あの人の詳しいことを私も知りたいし」




