17
平凡な一軒家である、真の自宅で、まだ遅い時間帯ではない夜、彼は個室のドアの前から、その室内に呼びかけた。
「恵ちゃん」
「ん?」
「ちょっといい?」
そう言われて、中から顔を出し、真を招き入れた少女は、一つ年上の姉である。背は真よりわずかに高く、きょうだいの顔は似ているのだが、彼女のほうはおとなしい印象が強く、雰囲気がだいぶ異なるために、初見の人には感じにくい。名前は、恵と書いて、「けい」と読む。
全体的に、物が少なく、整理整頓されている、その恵の部屋で、二人は向かい合って座った。
「なに?」
「うん……」
恵に訊かれ、真は言いづらそうに頭をかいてから、その日の朝の、修司と生徒会役員の出来事を話した。というのも、彼女は真と同じ学校の三年二組の生徒なのだけれども、生徒会の会長でもあるのだ。
「ふーん。そうなんだ……」
当事者である二人の男子役員から報告を受けてはいなかった恵は、考える顔つきになった。
「言い訳じゃないけど、経済的に困窮している生徒の話題は、役員の間でも出てはいたんだよ」
「へー、そうなの」
「うん。求められても、募金をするのが難しい家庭環境のコもいるだろうっていうのでね。だから、教室じゃなくて、校門の前で集めるかたちにすることで、寄付しなくても目立たないし、大丈夫なようにしたんだ」
「そっか」
「でも、そのコの言うように、うちの学校のお金に困っている生徒のために募金をしたとしてさ。誰に、いくらを、どうやって渡す? 経済的には助かっても、プライドが傷つくとかがあるかもしれないし、そんなに簡単じゃないよね」
「うんうん。だよなー」
真は激しくうなずいた。
「私も保健委員にすごく評判がいいコがいるって話は聞いてたけど……。ありがとうね、心配してくれて」
「ああ、うん、まあ、そんなに気にしなくても、問題はないと思うよ。いつも穏やかーな奴だったから驚いちったけど。んじゃ」
そう明るく口にして立ち上がり、彼は恵の部屋を後にしていった。
学校の廊下を浩子が歩いていると、前方に数人の別の男子生徒といる修司の姿を目にした。
その一緒だった他の男子たちが離れていくと、修司は浩子に視線を向けて、笑顔で声をかけた。
「四組の宮城さんですよね? とても真面目で優秀で、たしか三組の伊藤真くんと仲がいい」
「え? はあ……」
「よかったら、これに署名をお願いできませんか?」
「ああ、先生の負担軽減を求めるのですよね? それなら、以前に、真のほうにしましたけど」
「いや、これは違う署名なんです。ここに書いてあるように」
そう言われ、修司が持っている用紙に浩子は目を移した。
「え!」
「ア~」
三組の教室の自身の席で、大きなあくびをしていた真のもとに、浩子が急ぎ足でやってきた。
「ねえ! 大場くんがやってる署名のこと、聞いた?」
着いて早々に、彼女は尋ねた。
「ああ? 何だよ、そんなに慌てて。署名なら、教育委員会に送ったけど、やっぱり何のリアクションもないって……」
「その署名じゃなくて、別の目的のものを始めたの!」
「別の? なに、それ。知らねえけど」
「リコール署名なの」
浩子は真を見つめて言った。
「りこおる?」
「そう。生徒会の役員たちが不適格だからっていうので、辞めさせるための署名」
「え……」
真はびっくりした表情になったのだった。




