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朝、登校中で、真が独りで道を歩いている。
「伊藤くん、おはよう」
近くから声をかけられ、見ると、それは修司だった。
「ああ、おっす」
二人は並んで学校へ向かった。
「学校に行くの、いつもこのくらいの時間なのか?」
真が尋ねた。
「いや、普段はもっと早いよ。今日はちょっと寝坊しちゃって」
「へー」
「でも、おかげで伊藤くんに会えたから、ラッキーだよ」
「そんな、おだてても、何も出てこねえぞ」
「ハハハ」
和やかにしゃべりながら歩を進めていくと、着いた学校の校門前で、二人の男子生徒が募金箱を持ち、やってくる生徒たちに呼びかけていた。
「募金、お願いしまーす」
彼らは生徒会役員だった。
「あ、やべ。金、忘れちった」
真がズボンのポケットに手を突っ込んでそうつぶやく間に、修司は男子二人に近寄って話しかけた。
「あの、この募金って、何に使われるんですか?」
「えっと、貧しい国の子どもたちの生活や教育です」
二人はともに真面目な印象であるが、よりしっかりしたイメージのコのほうが返事をした。
「それは構わないけれど、この国の、もっと言うならこの学校の、生活が苦しい人のために、そういったことは行わないんですか?」
「え……」
訊かれた彼は、思いもよらない問いかけで、ぽかんという顔になった。すると、少し離れた位置にいる女子生徒が声を発した。
「あの、お金……」
募金したいのを示す手の動きをした。
「あ、はいはい」
生徒会役員の男子は、よくぞ話しかけてくれたとばかりに、修司にそっぽを向く体勢になった。
「ねえ、どうなんですか?」
修司は引き下がらずに質問を重ねた。
「あー、そうだね。なるほど。検討します」
仕事しているのにうっとうしいんだよというのを暗に伝える態度で、男子生徒は距離をとった。
そうして一段と熱心に募金をやりだした彼を見つめる修司に、真が近づいたタイミングだった。
「これだからよっ!」
修司が大声を出し、役員の二人や真のみならず、周辺にいた何人もの生徒の全員が、驚いてビクッとなった。
直後に修司は校舎内に入っていき、真は戸惑いつつ後を追った。
「ど、どうしたんだよ?」
興奮を抑えようとしつつも、しきれないといった様子で、修司は少し速いスピードで歩きながら、真のその問いに答えた。
「ごめん。今の会話、聞いてた?」
「う、うん」
「おかしいと思わない? 『生徒』会だよ? うちの学校の生徒のために活動するのが最優先じゃないの?」
「ああ……まあ、そうか」
「日本の子どもだって、六人に一人という高い割合で貧困にあえいでいるんだよ。あの人たちは、表面的だけで、ちっとも真面目じゃない。政治家と一緒だ。ああいうの、許せないんだよね」
「……確かに、大場は本当に生徒のために仕事をしてるもんな。偉いよ」
「偉くなんかない。それが当然なんだよ。もう一度、校内の経済的に困っている生徒のために募金をする気はないのか訊きたいけど、冷静でいられるかわからないから、質問状でも書いて送ろうかな」
「え? そんなわざわざ。だったら、俺が訊いてやるよ」
「なんで伊藤くんが?」
「あ、いや……俺、生徒会に知ってる奴がいるから」
真は少々動揺した態度で言った。
「そうなんだ。でも、いいよ。そんなにしょっちゅう僕のやることに手を貸してもらうのは悪いから、自分でなんとかする」
「……そうか」




