15
学校の廊下で、二人の女子生徒が楽しげにおしゃべりをしている。
その横を、修司が通り過ぎていった。
すると、少ししてから、真剣な面持ちへとがらりと態度を変えて、その片方の女子が、もう一方のコに言った。
「大丈夫? 血の気が引いたみたいな顔になってるけど」
「うん……なんとか」
顔色の悪さを指摘されたほうのコの名は、佐野萌美。この物語の冒頭に登場した彼女である。
「動揺したの、気づかれたかな?」
「多分、大丈夫」
萌美でないほうの女子は答えた。
萌美は、修司に背を向ける位置に立っていたので、顔はほとんど見られなかったと思われる。
「何回も言っちゃうけど、ほんと私が最初に目にした車の中と雰囲気がまるっきり違うんだよ。今のさわやかで善人百パーセントな感じが、逆に怖い。あ~、何度思いだしても、あのときの表情、恐ろしい~」
寒気がして、己の体を激しくさする動作を彼女は行った。
「こっちも何回も訊いちゃうけど、ほんとに人違いじゃないの? 信じられないんだけどさ」
相手の女子は問うた。
「私もそう思ったよ。でも、脳裏に焼きつくほどしっかりあの顔を記憶しちゃったんだもん。しかも暴力事件の話が出てきたでしょ。間違いない」
「ふーん」
「うちのクラスの前原くんも、私と一緒で殺人鬼みたいなときの顔を目撃でもしたのか、あの人が気になってしょうがないって様子だったんだ。それが、ここのところは敢えて避けてるくらいの感じなの。もしかしたら、本性を見たのがバレて、あの人に何かされたんじゃないかな」
「えー。だけど、前原だよ。もっと軟弱な奴ならまだしも、ちょっと何かやられたからって、おとなしくはならないでしょ」
「だから、すごく強かったりするんだよ、きっと。暴力事件の話も、周りに圧力をかけて、都合のいい内容に変えたとか。あー、あの車中の怖い姿を見ちゃった私のことを覚えてて、次の標的にされちゃわないかなー?」
萌美は一層不安な表情になって頭を抱えた。
「そんな、怖い表情をしているところを目にした程度のことで?」
「だからー、しつこくて悪いけど、ちょっと機嫌が悪いなんかのレベルじゃなくて、悪魔みたいな感じだったんだから」
「わかったよ。でも、安心せい。何かあったら、私が守ってあげるから。ね? 萌美ちゃんよ」
女子のなかで背が高く、活動的な印象の彼女は、名前を山県麻奈といった。クラスは二年四組である。萌美はというと、小柄で、控えめな性格といったイメージであり、隆也と同じなので二組に属している。
その明るく頼もしい振る舞いをした麻奈のおかげで、萌美は少し気が楽になれたのだった。
「そうだよね、麻奈は最強だもん。お父さんは警察官だしさ」
「ちょっと、それは言わない約束でしょ。私一人で十分!」
「ごめーん」
そして萌美は笑顔を見せた。




