13
「おい」
修司が休み時間に廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。
振り返ると、かなりの短髪で気が強い印象の、三年の男子生徒である脇津正太が、にらむような目つきを向けていた。
「お前よぉ、保健委員会の仕事、普通にやれよ。迷惑なんだよ、『二年生のあいつは立派だ。それに引き換え……』みたいなことを言われて。俺らみんな、サボってるわけじゃねえってのに」
つまり彼も保健委員である。
それに対して、修司は礼儀正しくおじぎをした。
「ありがとうございます」
「あ?」
訳がわからず、正太は顔をゆがめた。
「陰で悪く言われるより、不満をはっきり口にしていただいたほうが助かります。理由がわからず怒りをぶつけられても、対処のしようがありませんので。委員の他の方も皆さん、そう思ってらっしゃるんですか?」
「全員かどうかは知らねえけど、少なくとも俺以外の何人かも同じように思ってるだろうよ」
「そうですか。わかりました。どうしたらよいか考えますから、何日か待っていただけますか?」
「え? ああ……」
正太は腕力がありそうなこともあって、てっきり怖気づく、でなければ反対に反抗的な態度をとる、と踏んでいた正太は、どうリアクションすれば良いか迷い、素直に受け入れる感じになったのだった。
前の場面から数日が経過し、廊下で、集まった三年生の保健委員たちに向かって、修司は話をした。
「そういうことで、保健室へ行く回数を減らして、目立たないようにもしますので、許していただけますでしょうか?」
受け入れてもらえそうな内容に加えて、彼の態度は非常にきちんとしていたが、三年生たちは冷めた雰囲気である。
そして一人の女子生徒が口を開いた。
「ちょっとさ、それはそれで勝手じゃない? なんか私たち悪者みたいだし、そうすることでこっちに文句が来たらたまんないんだけど」
男子の一人が「そうだよな」と同意した。
すると、後方にいる正太が声を発した。
「まあ、待てよ。こいつは真面目に生徒みんなのために仕事をしてて、そのうえ俺たちに配慮してくれるって言ってるのに、ケチをつけたら、どうしたらいいのかわからなくて、かわいそうだよ。今、ふと思ったんだけど、俺たちも主体的に活動してみりゃいいんじゃねえか? こいつみたいにずっとやるのはさすがに勘弁だけど、例えば、一回、生徒目線でちゃんと役に立つ健康情報をまとめたようなのを作って配ったりすれば、『あいつらもしっかり働いてるじゃん』ってなるぜ、きっと。なんだったら、俺がその大部分をやってもいいからさ」
三年生たちは軽く顔を見合わせ、それだったらいいかなと肯定する空気になったのだった。
修司と正太が二人だけで廊下にいる。
「ありがとうございました。助かりました」
修司が正太に頭を下げた。
「では、これ」
正太が他の三年生たちにやったらどうかと口にした、健康情報をまとめた冊子を手渡した。
「でもよ、俺が作るなんて嘘を言わなくても、うまいこと乗りきれたんじゃねえか? 本当にいいのかよ? 調べたり、作るの大変だったろう? これ」
「いえ、あれが皆さんが納得する一番良い提案だったと思いますし、本当に助かったので、これくらいなんでもありません」
「そうか」
「それでは、失礼します」
再び丁寧に礼をして、修司は離れかけた。
「おい」
正太が声をかけ、修司はまた顔を向けた。
「お前、すげえ奴だな。文句言って悪かったな」
正太は上機嫌になった。
「じゃあな!」
彼は大きく手を振って、走って去っていった。
修司は、正太が完全に視界からいなくなるまで、ずっと優しい笑みを浮かべて見送ったのだった。
そのやりとりを、遠くから見ていた生徒がいる。
隆也であった。




