12
学校の屋上で、真はまた一人で景色を眺めていた。この日も、雨は降っていないものの、黒い雲が空を覆った、気持ちの良くない天気である。
「ここにいたんだ」
背後からそう声がして、彼が顔を反対のほうに向けると、修司がゆっくりと歩いて近づいてきていた。
「聞いた? 僕の、前の学校でのこと」
真の目の前で止まって、修司は尋ねた。
「ああ……大変だったんだな」
言葉を選んで、真は答えた。
「僕と距離を置こうと思ったんじゃない?」
真が本心を口にしやすいように、修司はうっすら笑みを浮かべ、リラックスした状態で訊いた。
「そんなことねえよ」
すると、修司はうつむいた。
「ありがとう。嬉しいよ。他の人にはどう思われてもいいけれど、伊藤くんに嫌われるのだけは嫌だったんだ」
そして顔を上げ、まっすぐに真を見つめた。
「伊藤くんはどんなふうに考えてるかわからないけど、今、僕が友達と言える、唯一の人だからさ」
真も真面目な表情で応じたけれども、重い空気に耐えかねるといった感じで、視線は少し外した。
「今までと変わらない関係でいてくれるかな?」
「ああ、もちろん」
その問いに対しては、濁したりなどせず、彼はうなずきながらはっきりイエスの回答をしたのだった。
廊下に、玲香と隆也がいる。
「やっぱり噂で人を判断しちゃ駄目だよね」
玲香が安堵した様子で言った。噂が広まっていたために、二年生の他のクラスでも、修司が前の学校で別の生徒に暴力を振るった件について、教師から同様の説明がなされたのだった。
「うん……」
ところが、二人が以前に話したときとは逆で、今回は隆也のほうが深刻な顔つきになっている。
「どうかした?」
玲香が尋ねた。
「大場くんが前に通っていた学校は、武秀中ってとこらしいって耳にしてさ。俺が行ってる塾に、小学生のとき中学受験する人もたくさんいたから、私立に受かって進学したなかに彼のことを知っている奴がいるかもと思って、当時仲が良かった何人かに連絡して、訊いてみたんだ。先生からまだ説明を聞いてなくて、暴力事件の話がデマだったらかわいそうというのもあったしね。そしたら、本人たちは知らなかったんだけど、そいつらの友人なんかから情報を入手してくれて」
そこで少し間を置いた。
「確かに、伝え聞いた話で人を判断するのは良くないと思うよ。それでも一応言っておくと、暴力は先生たちが述べた通り、大場くんから始めたんじゃなくて相手に絡まれた結果やったみたいだけれど、彼は今のあの穏やかな雰囲気とはまったく違って、怖くて近寄りがたい人だったんだって」
それを聞いて、玲香はまた驚きの表情になった。
「あ、ごめん。不安にさせちゃった?」
玲香がうつむいて、青ざめているというほどの顔になっているのに気づき、隆也は明るい調子で言った。
「情報の発信者がわからないからその話も本当か怪しいし、仮に大場くんが乱暴な人だとしても、俺も高山さんもクラスが異なるんだから、近寄らなければいいんで、そんなに心配することはないよ」
「うん……」
しかし玲香の表情は変わらない。
「でも、嫌な予感がする」
「え?」
「人を悪く見るのは善くないってわかってるし、私と一緒に新聞委員をしている伊藤があの人と友達と言っていいくらいの関係になったみたいで、接点はたったそれだけなんだけど……」
隆也の自分に注ぐ眼差しが非常に心配そうであることに気づいて、玲香は気を取り直した。
「ごめん、そうだよね。クラスが別なんだから、もし嫌な人だとしても、近づきさえしなければ」
「そうそう」
隆也は安心させようと、少し前に見せたのよりも一層表情を柔らかくし、こう言葉をかけた。
「何かあっても、俺がなんとかするからさ」
「ありがとう」
そうして玲香もようやく笑顔になったのだった。




