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二年一組のホームルームの最中で、前に立っている、たくましい印象の男性教師が口を開いた。
「大場に関する噂が広まっているらしいな。すでにその話を耳にした人も少なくないだろう」
生徒たちは静かに聞いている。
「大場が前の学校で暴力事件を起こしたという内容で、確かに彼は別の男子生徒に暴力を振るった」
「本当だったのか」といった調子で、教室内が軽くざわついた。男性教師は冷静なまま、すぐに続けた。
「ただ、それは、大場がいじめに遭い、我慢できずにやり返してしまったんだ。もちろん、だから問題がないということにはならないが、彼は十分に反省したし、相手のコがひどいケガを負ったなんてことにもなっていない。そのときの担任の先生から、きちんと調査を行ったと報告を受けている」
当の修司は自身の席でじっとおとなしくしている。
「大場と相談して、その件について何も言及しなかったり、オブラートに包むような説明だったりすると、事実と違った話が出てきて、誤りが浸透しかねないということで、こうしてみんなに真実を伝えることにしたんだ。だから、これ以上噂に振り回されないように。いいな?」
多くの生徒が、何も口にせず、他のコたちはどう思っているのか探るような顔つきになったのだった。
一人の女子生徒が、用があって居た職員室を出ると、廊下の反対側からやってきて職員室に入る修司に気がついた。
「ありがとうございました」
彼は、クラスの教室で暴力事件について説明した男性教師にそうお礼を述べて、頭を下げた。
「大丈夫か? 私だけでなく、他の先生方もみんな、お前のために体を張る覚悟はあるからな」
「ありがとうございます」
再び感謝を口にした修司は、落ち着いた態度で言葉を続けた。
「しかし、その気持ちが生徒のみんなに伝わると、えこひいきじゃないですけど、反感を買ったりしかねないんじゃないかと思うんです。それに、来てまだ日は浅いですが、この学校やクラスの人たちは優しいので、普通にしていれば嫌なことを言われたりされたりする心配はほとんどないと思います。ですから、僕のことを思っていただけるのであれば、今まで通り他のコと同じように接してください」
「そうか。わかったよ」
男性教師は微笑んだ。
「まあ、ちょっと言い方が大げさだったけども、あんな署名活動までしてくれて、それくらい先生たちはお前を支える気持ちがあるってことだ」
その様子を、ドアのところからぼーっとした表情で見ていた先ほどの女子生徒だったが、話し終えた修司が自分のほうにやってくるかもしれないと、はっとなり、慌てて離れていった。
「……だって」
二年一組の教室で、修司と男性教師の話す場面を目にした女子が、五、六人の他の生徒に、聞いた内容を教えた。
「ふーん」などと、ホームルームのとき同様に、それぞれが周りの反応をうかがう感じになった。玲香だけでなくこのクラスの生徒たちも、普段の修司と暴力事件というワードのギャップの大きさに戸惑い、気味の悪さから彼を嫌悪する言動もちらほら起きていたので、どう振る舞うのが差し障りがないか計りあぐねているのである。
話をしたのとは別の女子生徒がしゃべった。
「だからさ、結局、暴力はいじめられたからなんでしょ? それを、ああだこうだ言って、またつらい思いをさせたら、かわいそうじゃない?」
「そうだよ。大場くんが保健委員をやりたいって名乗りでたとき、『なに、あいつ、でしゃばってんだよ』みたいな、冷たい態度をとった人いたよね。それなのに、クラスの人たちは優しいって言ったんでしょ? あんな善い人いないよ。みんなが悪く思っても、私は味方だから」
そう主張したのは里紗だった。
「でもよ、クラスの奴らを優しいって口にしたのは、保身のためかもしれねえじゃん。悪く言ってるのを聞かれたら、実際に話を聞かれてるわけだし、やばいってのと、自分でしゃべったように、先生があいつを守るぞってなっちゃうことで、反感を買いかねないっていうのでさ」
男子生徒によるその言葉に、同調する生徒はいなかった。
「丹波。あんた、大場くんに嫌がらせをするんじゃないよ」
また別の女子が、丹波という名の今の男子に、きつい口調で言った。
「やんねえよ。そんなことしてキレられたら怖いだろ。それに、結局のところあいつを先生たちは注意して見るだろうし」




