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三組の教室で、玲香が真に言った。
「なんであんな真面目なことを喜んでやってたのよ? 普段のあんたとまったく違うじゃん」
「別に喜んでるわけじゃねえよ。新聞の記事の件で世話になったから、そのお返し。とはいえ、道行く人に署名を頼むなんて初めての経験で、新鮮だったからだろうな、けっこう楽しかったけどさ」
「それに、あの大場くんって人も、おかしくない? 最初あの人にインタビューしたのを記事にしようとしたら、目立ちたくないって理由で断られたんじゃなかったっけ? 新聞を全然読まない人も少なくないんで、署名活動をするほうがよっぽど注目を浴びると思うんだけど」
「知らねえよ、そんなの」
面倒そうにそう口にした後で、「ん?」と真は何かに気づいた表情になった。
「そうか。なるほどな」
「え? なに?」
真面目な顔の真に、玲香も真剣に問うた。
「俺をあいつに取られちゃうんじゃないか心配なんだろ? その気持ち、わからないでもないぜ」
一転して、彼はまたもやおどけてかっこつけたポーズをきめた。
「ふざけんな! ボケッ!」
玲香は真の腹にパンチを食らわせた。
「ぐおっ!」
そして、真が苦痛にあえぐなか、彼女は頭から蒸気が噴きだすんじゃないかというほどに怒って離れていった。
少しして、クラスの男子の一人が、真のもとにやってきた。
「おい、真。お前、今朝、校門のところで、一組の大場といたろ?」
「うん」
「あいつと仲いいの?」
「まあ、まあ。最近ちょっくら関わることがあってさ」
「知ってんのか? あいつの噂」
眉をひそめて、その男子は訊いた。
「え? 噂?」
真は、ちんぷんかんぷんといった、間の抜けた顔になったのだった。
休み時間に、玲香が廊下で独り、壁にもたれかかって、考え事の最中といった表情をしている。
「高山さん」
そう名を呼ばれて、彼女が向けた視線の先にいたのは、二年二組の生徒である前原隆也だった。
「前原くんか」
背が高くて頼もしい印象があるうえ、優しい雰囲気もにじみでている隆也に、玲香はほっとした感じになった。
「どうかしたの? 難しい顔をしてたけど」
「うん……ねえ、知ってる?」
玲香は躊躇しつつも言葉を発した。
「ん?」
「一組に転入してきた、大場くんって人の噂」




