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シリアスっぽい話

だって、『恥ずかしい』のでしょう?


 わたくしには、婚約者がいる。


 どこぞの物語のように、平民から貴族に引き取られたお嬢さんに夢中になって……複数名の子息共々彼女に侍っている非常に残念な婚約者だ。


「……っ!?」


 ちょっと通りすがっただけで、大袈裟にビクッと肩を震わせて顔を俯ける彼女。そんな姿を見て、


「貴様! 彼女になにかすることは許さんぞ!」


 なんて抜かして、震える彼女の肩を抱く婚約者。鼻の下が伸びていてよ?


「全く……彼女を脅して彼の愛が手に入るとでも? そのような浅ましい心をしているから、余計に彼に嫌われるというのに。そんなことも判らないのですか?」


 得意げな顔をしている眼鏡は、わたくしの家よりも下位の家の子息だと思うのですが? そのことは判らないのかしら?


「いえ、そもそも彼とは単なる政略の婚約者ですので。羽目を外さなければ、如何様にして頂いても結構です。どこぞの女性に複数で侍っていようが、個人資産でどれだけ貢いでいようが、特に興味はありません。但し、公費や交際費を流用しているのであれば、横領を疑われますわね」

「お、横領っ!? そ、そんなことはしていないっ!?」


 どうだか?


「それと、過度な身体接触は困りますわ。変な病気でも移されては堪りませんもの」

「な、な、なにを言っているんだっ!?」

「口付けでも、病気は移りますもの。無論、それ以上の行為なら尚更。常識でしょう?」

「彼女を侮辱するなっ!?」


 ヒステリックに叫んだのは、わたくしの義弟。


 一人娘であるわたくしが政略で婚約者の家へ嫁ぐことになったので、親族から優秀な子を見繕ってうちに養子として迎えたのよね。


「こんな女が、義理とは言え姉だなんて僕は恥ずかしいですよっ! いい加減にしてくださいっ!!」


 悔しげな顔がわたくしを睨み付ける。


 昔は割と仲が良かったのに。彼女に傾倒して、段々わたくしに刺々しい態度を取るようになってしまったのよね。


 最近は家の中でもこの様子で――――


「全くだ。こんな女が婚約者だなんて、わたしも恥ずかしい。できるものなら、今すぐに婚約破棄してやりたい程に忌々しい」


 吐き捨てるような言葉。


 まあ、この婚約を破棄したいという点に於いては、同意しますけど。


「そうですか、わかりました。では、皆様ごきげんよう」


 呆れて(きびす)を返そうとしたら、


「待て、彼女に謝るんだ」


 彼女へ謝れと強要。


「俺も、あまり乱暴な真似はしたくない」


 騎士志望で長身の子息がわたくしの前に立ち塞がります。


「わたくし、単にここを通り掛かっただけですわ。いきなりラブロマンスを模した小芝居が始まって、無理矢理キャストを要求されるとわかっていましたら、通りませんでしたのに」

「小芝居だとっ!?」

「違いまして? ああ、あなた? わたくしに危害を加えるのであれば、学園、警邏、貴族院へと報告致しますので。将来、騎士には成れなくなりますわね」

「脅す気かっ!? 卑怯だぞ貴様っ!」

「あら? 複数人で女一人を取り囲んで喚き散らしておいて。どの口が仰るのかしら? ちなみに、瑕疵の無い相手へ謝罪の強要をするのは侮辱罪に当たりますの。知ってまして?」

「チッ! もういい! さっさと行け!」


 と、舌打ちでシッシと追い払うように手を振られました。


 さすがに、衆人環視でのこの仕打ちはどうかと思いますわねぇ?


 それに、『恥ずかしい』のは一体どちらの方なのかしら?


 では、このことをお父様にご報告致しますか。


✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰


 数日後。


「おい貴様! アイツになにをしたっ!?」


 怒声を上げながらわたくしの方へやって来たのは……


「彼になにをしたんですかっ!? どうして学校に来ないのっ!?」


 元平民のお嬢さんに侍っている集団でした。


「なんのことでしょうか?」

「あなたでしょうっ!? 一体、彼になにをしたのですかっ!?」


 眼鏡が糾弾するようにわたくしへ指を突き付ける。


「監禁などは犯罪だぞ!」


 騎士志望がわたくしを睨み付けて言いました。


「わたくしが、誰を監禁するというのです?」

「貴様の義弟だっ!? アイツがここ数日登校してない。お前が、なにかしたに決まっている。アイツをどうしたっ!? 義理とは言え、お前の弟だろうが!」

「ああ、彼のことでしたか。彼なら、もうわたくしの義弟ではありません。養子縁組を解除して、実家へ戻しました」

「は?」

「え? なん、で? 彼が一体なにをしたというんですかっ? なんで、そんな酷いことができるんですかっ!?」


 彼女が、小刻みに震えながらも潤んだ瞳で、健気にも見える表情でわたくしを糾弾する。そんな彼女を守るように取り囲む男達。


「養子縁組の解消を決めたのは父なので、わたくしに言われても困りますわ。ご不満があるのでしたら、父にお話をお願いします。まずは、貴族家当主へと面会の許可を求める書類申請を出してくださいませ。お名前の名義は……婚約者様、あなたの名義では如何でしょうか? お宅の家の代表、もしくはわたくしの婚約者として、重要なお話があると言えば、父との面会が叶う可能性はありましてよ? まあ、もう一度彼と我が家の養子縁組を申請したところで、一蹴されるでしょうけど」

「っ!?」

「なんで? どうして、なにも悪くない彼にそんな酷いことができるんですか?」

「なぜ、と尋ねるのでしたら……彼が、わたくしに敵対する、と公言したからですわ。だって、『恥ずかしい』のでしょう? わたくしが義姉であることが」


 そして、あなたも。わたくしと婚約していることが。


「もう、義理の姉弟ではないのだから、恥ずかしくはないでしょう?」


 まあ、養家から不要だと実家に戻されたことを恥だと思わなければ、ですが。


「それくらいのことでかっ!?」

それくらい(・・・・・)、ですか……皆さん、なんのために彼が我が家の養子に、嫡子として育てられて来たとお思いで?」

「それは、お前が女で嫡子になれないからその代わりに、親族の中でも優秀なアイツを無理矢理養子にしたんだろ? それを今更、放り出すだなんて非道にも程がある!」

「はぁ……嫡子として望まれた養子は、養家に尽くすことを求められます」


 義弟が優秀だったのは確かですが、一番の決め手は義理の姉弟となるわたくしと相性が良さそうだったから、だと父が言っていました。


「その養家に実子がいる場合、実子と敵対するような養子を嫡子にしておくはずがないでしょうに? 故に、わたくしに敵対すると公言した彼が、わたくしに危害を加える可能性があると父に判断され、これ以上は我が家に置いておくことはできないと、養子縁組の解除が行われました。そんなこと(・・・・・)も判らないのですか?」

「そ、それは……」

「それとも、彼を使って我が家の乗っ取りでも企んでいらして? それでしたら、貴族院、警邏、王城へと報告して徹底的に調査する必要が出て来ますが? 他貴族家の乗っ取りを企てたのであれば、学生とて実刑判決は免れません。最悪、一族に死刑を科される可能性がありますが。それでも、我が家の事情に口を出しますか? 皆様、わたくしの義弟だったあの子のために、その命を……ご家族全員の命までをも懸ける覚悟がありまして?」

「い、いや……他家の事情にまで口出しをする権限は、無い。失礼なことを言った」

「ご、ごめんなさい! 死刑は嫌!」

「失礼……しました」

「すまなかった」


 顔を真っ青にした彼らは、サッと頭を下げてさっさか逃げ出した。


「あらあら、なんとも麗しい友情ですこと」


 そもそも、義弟(あの子)のことを本当に大事に思っているのなら、わたくしや我が家への悪意ある言動を窘めるべきだったのでは?


 むしろ、彼女を巡るライバルである義弟(あの子)を貶めるために好き勝手に言わせていると思っていたのですが……ただ単になにも考えていない愚か者共でしたか。


 まあ、これで彼らに絡まれることも無くなるでしょう。


 わたくしとて、あのような愚か者に嫁ぐなんて願い下げですもの。


 養子が実子に敵対する言動を取り、お家騒動に発展。養子縁組を解除。わたくしを嫡子とするため、婚約は解消……もしくは白紙撤回、と言ったところでしょうか?


 婚約者の家がごねるようなら、『彼らが義弟を誑かして我が家の乗っ取りを企てようとしていた』、と。貴族院や王城へ訴えると言えば、すんなり婚約解消に応じてくれることでしょう。


 さて、次の婚約者はもっと誠実でわたくしを大切にしてくれる方がいいわね。


 お父様に頼んでみましょう。


 うふふ、しばらくは婚約者のいないフリーな状況を楽しむとしますか♪


 ――おしまい――


 読んでくださり、ありがとうございました。


 おまけ。


 主人公「え? 元婚約者達がどうなったか、ですか? そんな、なぜそのようなことをわたくしに聞くのですか?」Σ(´□`;)


 「あんな興味の欠片も湧かない連中のその後を、縁切りしたわたくしへ尋ねるだなんて酷いです……」(´・д・`)


 「あの連中のその後を調べるなら、まだ不快害虫である蚊の、孵化して死ぬまでの生態を調べた方がよっぽど有意義ですわ。違いまして?」ζ*'ヮ')ζ


 と、お嬢様は申しております。


 主人公ちゃん的に、連中は蚊以下の存在に成り下がった。(((*≧艸≦)ププッ


 ふと思い立って書いたリハビリ作なので、爵位や婚約の詳しい内容は書いてる奴にも不明。まあ、元婚約者が傍系王族とかで、血統維持や派閥関係で組まれた縁談なんじゃない? 適当。


 とりあえず普通に考えたら、嫡子に求められた養子が実子に敵対するって公言して、実際にそういう言動してたら養家から縁切りされて追い出されるよねー? って思っただけ。


 ほら? 幾ら優秀だって言っても、子供の頃のことでしょ? 嫁に行ったりした実子を支えたりサポートして養家を発展させる目的での養子縁組なのに、養子自身がそれを判ってなくて台無しにしちゃ、養家からポイされて当然みたいな?


 多分このあと婚約者は後継から外されて、逆ハーレムは自然消滅。ヒロインちゃん? は、別の逆ハー作りに勤しんで、でも誰にも相手にされなくて卒業とか?


 この話の続きっぽい話、【なにを言っている。『恥ずかしい』のだろう?】主人公ちゃんパパ視点と、


 【これでもう、『恥ずかしくない』だろう?】元婚約者視点を書きました。


 上のシリアスっぽい短編リンクから飛べます。


 思ってたんと違うってなったら、すみません。(;´∀`)ゞ


 感想を頂けるのでしたら、お手柔らかにお願いします。


 ブックマーク、評価、いいねをありがとうございます♪(ノ≧▽≦)ノ

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― 新着の感想 ―
その後の馬鹿どもの末路も読みたいと思いました。面白かったです!恥ずかしいのだろう?もこれから読みます!
 「恥ずかしいのだろう」が面白かったので、こちらも読みました。  どちらもとても面白かったので、ぜひ、他の関係者達の続きも読んでみたいですね。
お嬢様は蚊の生態を論文にでも纏めてていいですので、第三者視点で馬鹿元義弟と阿呆元婚約者のその後がちょっと見てみたい。
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