勇者の行い
剣聖ミカ視点のお話になります。
「剣聖」ミカside
「アイリ、あなた本気で言ってるの?あんな人間のクズを探しても意味ないよ!」
私は英雄王エドを支える仲間たちの一人、聖女のアイリに問いかける。
「はい、これは私の自己満足でしかありません。見つからない可能性の方が高いと思います。ですがこのままではいけない気がしてならないのです。それにライルを探しながら世界を見てみたいというのもあります。こんな我儘な私をお許しください、陛下」
アイリはこれからあのクズ勇者ライルを探す旅に出ようとしている。なんでそんなことをするのか理由は分からないし、教えてくれない。
「謝ることはないよアイリ。幼馴染のライルのことが心配なんだよね。俺も戦争中にいなくなった彼が心配だ。だから見つかったら昔のことは気にすることはないから会いに来てくれって伝えておいて」
私はあのクズ勇者ライルのことが大嫌いだ。魔王を倒す旅の中で本当に迷惑をかけるようなことばっかりしてきたからだ。その中でも人身売買をやっていた闇の組織と繋がっていたことは本当に許せない。私の大事な妹がその組織に攫われた。今は見つけ出して王宮で侍女として働いているけど、その妹が攫われたことを知っているにも関わらず取引していたのだから本当にクズだ。
それなのにアイリは今でもライルの肩を持っている。エドもあんなにいじめられて酷い目にあっていたのにそれを許そうとしている。本当に意味が分からない。
※
私はグネという商人の街で商売を営む両親の娘で長女。本当は婿養子を迎えて跡を継ぐつもりだった。ところが成人の儀で「剣聖」の加護を得てから私の生活は一変する。
すぐに王都に呼ばれて訓練が始まった。「剣聖」の加護を持つ私だけど生まれてから剣なんて持ったことがなかった。だから最初は重くて持ち上げるだけでも精一杯だった。普通に剣が振れるようになった頃にはもう魔王退治の旅が始まってしまった。
私は完全にお荷物状態だった。いや正確には勇者ライル以外の私達全員だ。戦闘は全部ライルがやってくれていた。ライルの強さは異常だった。訓練の時から私達とは違ってどんどん成長していく。そんな彼に憧れていた。
それなのに徐々にライルは性格が変わっていった。まず私達を見下し始めた。
「はん、本当にお前らは使えねえな。ちょっとぐらいは役に立てよな」
「なんでそこでそんなことするんだバカ!邪魔になるからあっちに引っ込んでろ!」
など雑言罵倒は当たり前。自分自身役に立ててないのが分かっていたから余計に惨めな思いになった。
見下しの次は豪遊をし始めた。私達の旅で使う資金は全て王都から支給される。みんなの税金だ。私は商売人の娘だからお金の大切さは分かっている。そのお金を高級料亭に使ったり高級旅館に使ったりと本当に贅沢ばかりしていた。その内に高級娼館にも通うようにもなった。
そんなことをしていれば当然皆がライルのことを軽蔑し始める。私もライルへの憧れなんてなくなっていた。多分それが分かったのだろう。
「俺がいなかったら魔王はいなくならないんだぜ?いいのか?俺が機嫌を損ねて魔王を倒すの辞めることなっても知らねえよ?」
そう言われたら街の人たちもライルのいうことを聞くしかない。私達も足手まといだから何にも言えなかった。彼はどんどん傲慢になっていき、私達の一行の荷物持ちのエドをいじめだし始めた。
エドは心優しい人だった。人には思いやりをもち、草木や花を愛で、いつも役に立たない私達を励ましてくれた。この一行にはいなくてはならないムードメーカーだった。
それが気に食わなかったんだろうと思う。「剣の稽古だ」、「魔法の稽古だ」なんて一方的にエドを痛めつけた。エドは荷物持ちだから戦闘に参加しなくてもいい。それなのになぜか剣の稽古だ、魔法の稽古だとことあるごとにエドに突っかかっていた。
「エド、大丈夫?アイリに行って回復魔法かけてもらうように言っておくから」
「ありがとうミカ。大丈夫だよ。ライルは俺にも強くなってもらいたいからこうして特訓してくれてるんだと思う。それに応えるために頑張るよ!」
そんなエドを見ていると私達も頑張らないとって思うようになった。あとライルを見返したいというのもあった。私達は夜遅くまで特訓をすることにした。
※
「え?ベラが誘拐された?どうして……」
私達が王都を出て半年が過ぎた頃だった。親からの手紙に私の大事な妹ベラが誘拐されたことが書いてあった。私は呆然としてしまい、何をするにしてもやる気が起きなくなってしまった。
「おい、どうしたんだよミカ。いつも使えねえけど最近はもっとひどいぞ」
「ごめんなさい。実は妹が誘拐されたって聞いて何も身に入らないの」
「なるほど、そういうことか。分かった、俺が王都に手紙出して探してもらうにしてやるから元気出せよ」
珍しくライルが優しい言葉をかけてくれた。そのことに私はつい嬉しくなってしまった。
「ほら、嫌なことは忘れて酒でも飲めよ。気分がよくなったら少しは気が紛れるぞ」
そういってお酒をどんどん注いでくる。私は勢いに任せてバンバンお酒を飲んでしまった。
「……あれ、ここはどこ?って私なんで裸!?」
朝目覚めると私は裸になっていた。自分の泊まっていた部屋ではなかった。急いで服を着て部屋を出るとその部屋がライルの部屋だったことが分かった。
(もしかして私、昨日ライルと寝たってこと?当然裸だからやっちゃったの!?)
お酒をかなり飲んだせいで記憶が飛んでいた。二日酔いもひどくて思考がまとまらない。そうしているとライルが部屋の前まで来たので私は思い切って尋ねてみた。
「ライル、私……、その、昨日あなたと……何があったの?」
「もしかして飲み過ぎて記憶なくなった?昨日のお前は激しかったぜ!また相手してやるよ!」
私は絶望した。好きでもない男と体を重ねてしまったことに。妹の誘拐とライルと寝たという事実が重なってしばらく部屋に引きこもることになった。私の調子が悪いせいでしばらく旅を再開できなくなってしまい、申し訳ないと思いながらも疲弊してしまった心は回復する兆しがなかった。
「ミカ、部屋入っていいかい?」
コンコンとノックがしてエドの声が聞こえた。いいよと部屋に入ることを許可するとエドが部屋に入ってきた。
「調子はどう?色々と話を聞いたよ」
「もう体と心がぐちゃぐちゃな感じ。元気が出ないよ」
「ライルが王都に妹さんのことを探すように手紙を送ってくれたみたいだよ。だから希望を捨てないで。それと君の心は俺が支えるよ。君には笑顔が似合ってる。だから元気出して」
エドの言葉がジーンと心に沁み込んだ。エドの顔を見ると、思わずエドの瞳に吸い込まれそうになった。とても真剣で私を心から思ってくれていることが伝わったから。私はエドに抱きつき思いきり泣いた。
エドのおかげで回復し、旅が再開された。妹のことが心配だったけど、私はつらいことがあるとエドに相談するようになった。エドはどんな時でも親身になって話を聞いてくれた。その優しさにだんだんと惹かれていってエドのことを好きになった。
魔王の配下である四天王の一人を倒し、その祝勝会をやった夜に私はエドに告白した。エドは私を受け入れてくれた。そのまま私はエドと体を重ねた。その時の幸福感はたまらなかった。記憶にはないけど、ライルに汚されたという感覚がエドによって上書きされたことがとても嬉しかった。
その後、順調に四天王を倒していく中、ナナとシノブもライルに嵌められてライルと体を重ねてしまう。私とエドは彼女達を必死にフォローした。それもあり彼女達も次第にエドに好意を持つようになり、エドは彼女達を受け入れた。
【この世界では重婚が認められており、複数のパートナーを持つことは普通の感覚です】
最後の四天王を倒し、魔王城に攻め込むだけとなった私達は魔王城に一番近いロウレスという街に拠点を置き準備を始めた。このころのライルはもう別人というぐらいに最低なクズとなっていた。
王都から支給される資金では足りないからとさらに資金を要求するようになり毎晩豪遊していた。また自分以外の人間を下に見ており常に上から目線。気分を害せばすぐに暴力。魔王を倒す準備も完全に私達に任せて何も手伝わない。しかもたまに街を離れてどこかに遊びに行く始末。
私達はライルを何とかできないかと考えるようになった。それはエドに異変が起き始めたからだ。
「実は最近不思議な力が湧いてくるんだ。日増しにどんどん強くなっていく。そのおかげで最近はライルとの稽古も俺の方が勝ちそうになるときもあるんだ」
エドが魔王決戦の直前で急激な成長を遂げ始めたことで私達は勇者じゃなくてもエドが力をつければ魔王に勝てるんじゃないかと思い始めた。
「皆様聞いてください!大ニュースです!ライル様が闇の組織とつながってることが分かりました!」
忍者の加護を持つシノブがライルを不審に思って跡を付けたみたいで、その時の闇の組織との取引現場を映像記録の魔道具で撮影していた。闇の組織の中には妹のベラを誘拐したとされる組織もあった。
妹のベラを誘拐した組織と繋がってるってことはベラを誘拐するようにさせたのもライルじゃないの?とだんだんと怒りが増していった。
「これは流石にひどいよ!もうあんなやつ勇者でもなんでもない!犯罪者だよ!エド、もう私は我慢できない!お願い、勇者を倒して!」
「……、分かった。この映像は確かに言い訳ができないね。でも俺一人じゃ勝てない。だからみんなでライルを倒そう。みんな協力してくれるかい?」
私とナナ、シノブは大賛成だった。でもアイリだけは最後までライルのことを庇った。最終的にはエドの説得で折れてくれたけど。こうして勇者打倒作戦が始まった。
魔王城出発まで3日前と迫った日、ライルはいつものようにエドに剣の稽古をつけていた。エドも言っていた通り、エドの実力はライルに引けを取らなかった。というよりもライルの力が劣っているような気がした。もっと強かったような気がする。
その時だった。エドの体から白い光が輝きだした。
「な、なんだこれ!力が、力が溢れてくる!英雄?俺の加護は『英雄』だったのか!」
この時はエドが何を言ってるのか分からなかったけど、この瞬間エドの不明だとされてきた加護が発現したと言っていた。エドに纏わる白い光を見た私達はここだ!と判断してエドに加勢する。
「ライル、覚悟しなさい!あなたは今日で終わりよ!」
「ほう、俺を裏切って倒そうって魂胆か。いいだろう、かかってこいよ!全員ぶっ倒して服従させてやる!」
これまで剣の稽古のときは木剣だったけど、ライルは聖剣を引き抜いた。やつも本気ってことだ。引き抜いた瞬間ライルはエドに向かって飛び出した。違和感があった。普段はもっと速かったのにと。私でも対応できるくらいにライルの動きは遅かった。
すぐに私はエドの前に立ちライルの振るう縦一閃の剣撃を受け、それを薙ぎ払う。そこまで力を入れたつもりはない。だけどライルの腕は大きく弾き飛ばされて後方に吹っ飛ぶ。
そこにナナが炎弾を複数繰り出してライルに向ける。ライルは魔法障壁を作り出して魔法から身を守ろうとしたけど、4発目で障壁が破れて残りが全段直撃した。
爆風が霧散するとライルは仰向けになって倒れていた。そこにエドが近づきライルの手放した聖剣を手に持つ。すると聖剣から光が放たれ一面が白い光で覆われた。この場面は見たことがある。それは王都で訓練をしていた時にライルが聖剣を手にした時と同じだ。
神官様はこの光は聖剣に選ばれたことを意味すると仰っていた。つまりエドは聖剣に選ばれたということになる。
「俺が聖剣に選ばれたということなのか?ライルという勇者がいるのにどうして?」
エドが不思議がっているのも頷ける。私もなぜ?と思った。
「簡単なことです。聖剣はライルを見放し、エドを持ち主として認めたということです」
アイリが淡々と告げる。
「魔王を倒すには聖剣が必要です。本来であれば聖剣は勇者しか扱えません。ですが聖剣はエドを選んだ。つまりエドは魔王を倒せるということです。これで勇者がいなくても大丈夫ということになりますね」
アイリはボロボロになったライルの元に進み、回復魔法をかける。傷は回復したけどライルは起き上がらなかった。
「俺の負けだ。俺のことは煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
なんだかあっけない終わり方だった。ライルは暴れることもなく街の牢屋に入れられた。勇者の代わりに英雄が現れ、その英雄が魔王を倒すことになったというニュースはあっという間に街に流れていった。
ライルは牢屋で鎖につながれた状態で見世物状態になっていた。街の人々は「ざまあみろ!」や「こんなやつ死刑にしろ!」と口々に言っていた。私自身も鎖につながれたライルを見て「ざまあみろ」と心の底から思った。
「皆さん、皆さんの気持ちは分かりますが、ライルの処遇は俺が魔王を倒してからにしてもらえませんか?もし俺が魔王を倒せなかった時、勇者が必要になるかもしれない。そうならないようにはしますが、万が一のことを考えてこのまま牢屋に入れておいたままにしてください」
エドの言うことに納得した人々はライルの処遇を先送りにした。私達はエドをリーダーとする新パーティーとして魔王城を目指した。
魔王との戦いは困難を極めた。魔王には聖剣でしかダメージを与えられないからエドが攻撃をしない限り倒せない。だから私達はエドが攻撃できる隙を必死になって作る。隙ができて攻撃をしても魔王にそこまでダメージを与えられない。それを何百回繰り返しただろう。もう永遠と感じるくらいに長い時間戦い続け、ようやく魔王を倒すことができた。
「余の負けだ……。最後に教えてくれ……。お前からはどうしても勇者の気を感じない……。お前は何者なのだ……?」
「俺は勇者ではなく、『英雄』の加護を受けたエドだ!」
「フハハハ、まさか余が勇者ではなく英雄に敗れるとはな……。最後に一つ良いことを教えてやろう……。余が最後の魔王となった……。これでもう勇者と魔王の戦いは終わるのだ……。よかったな人間どもよ……」
魔王が私達にそう告げると魔王の台座の周りからたくさんの光の玉が空へと上がっていった。結構な数だった。そして最後に魔王も光の玉になって空へと上がり消えていった。
「やっと終わったんだな。さあ、みんなで王都へ帰ろう!」
こうして私達の旅は終わった。王都へ戻るまでに寄った街々で多くの人から感謝され、宴を開いてもらい、大好きなエドと幸せな時間を過ごした。そして王都で凱旋パレードを行い、エドは侯爵の地位と隣国の国境付近の領地を与えられ、私達はその領地で生活することとなった。
※
私は魔王を倒すまでに起こったことを思い出していた。それはアイリがエドにこう言っていたからだ。
「陛下はあの魔王を倒す旅で感じた違和感はありませんでしたか?」
お読みいただきありがとうございます。