語り継がれる英雄譚
最終的には自己犠牲系のお話に分類されるかと思います。
2作目を書きながら同時に書いていたのでちょっとくどいところがあるかと思います。
設定などはざるなのでご容赦ください。この話を含めて五話で完結です。
日が沈み、夕飯を済ませそろそろ寝静まる頃合い。ここはとある辺境の村。その村のとある家に住んでいる小さな男の子がおばあちゃんにお願いをする。
「おばあちゃん、久しぶりに英雄王のお話聞かせてよ!」
「そうさね、英雄王のお話をしてあげましょうね」
おばあちゃんは英雄王のお話を語り始める。
※
あれは今から10年前のことでした。この世界の平和を揺るがす魔王が復活しました。その魔王に対抗できるのは「勇者」とその仲間たちのみ。
各国は必死になって彼らを探しました。ところがどこを探しても勇者とその仲間たちは見つかりませんでした。
「おそらく今度の成人の儀の若者たちの中にいるのではないだろうか」
成人の儀とは15歳になる年に受ける洗礼のことです。洗礼と言っても教会で神官様から「女神様の祝福」と呼ばれるお神酒をいただき飲むだけ。
そのお神酒を飲むことで「加護」を得ることができるのです。その加護をいただくことでその人の適正職業が決まります。例えば「剣士」の加護を得ると剣士や戦士と言った職業に就くことが推奨されるのです。
世界の人々はこの成人の儀に期待していました。そしてその期待に応えるべく勇者とその仲間たちが現れたのです。
「勇者」の加護を持つライル、「聖女」の加護を持つアイリ、「剣聖」の加護を持つミカ、「賢者」の加護を持つナナ
彼らは早速王都に呼ばれ訓練が始まりました。期間は半年。その間に勇者はめきめきと力をつけていきましたが、仲間たちはそこまで成長することができませんでした。
仲間たちがもっと力をつけるまで訓練を延長するかどうか議論されましたが、一刻も早く魔王を倒さなければ多くの犠牲が出るわけですから、延長されることはなく勇者一行は魔王の住む魔王城まで出発することになりました。
その際に勇者一行の一員として「忍者」の加護を持つシノブ、そして荷物持ちとして後の「英雄王」となるエドが採用されました。勇者一行の旅は困難を極めました。なぜなら勇者しか活躍ができないからです。経験不足である仲間たちは足手まといでしかなかったのです。
そのうちに勇者は仲間たちを見下すようになっていきました。さらに傲慢な態度をとるようになり、訪れる街々では大層偉ぶって好き勝手やるようになりました。一番ひどかったのは荷物持ちのエドをまるで奴隷であるかのように扱ったことです。
彼は荷物持ちの他にも王都への報告や事務処理、交渉など雑用と呼ばれる仕事を嫌がらせかのようにやらされるようになりました。
それでもエドは心折れることなく自分に与えられた仕事を全うします。
街の人々は勇者が街を訪れると大歓迎しますが、街を離れる頃には彼への評価は最低なものになっていたそうです。逆にエドは最初の評価はただの荷物持ちでしたが、彼の頑張りが評価され街を離れる頃には心から応援されたそうです。
魔王を倒せるのは勇者だけ。無碍にもできない状況で人々は我慢するしかありませんでした。勇者はさらにつけあがるようになり傍若無人の限りを尽くしました。
街では豪遊をして贅沢三昧、そして仲間たちに手を出したのです。聖女様は純潔でなければ力を使えないため手は出されなかったみたいですが、剣聖様、賢者様、忍者様は勇者の性奴隷として扱われるようになったと聞きます。
さらに荷物持ちであるエドをこれでもか言わんばかりにいじめたそうです。剣の稽古だと言ってエドがボロボロになるまで甚振り、食事も十分に与えなかったりと散々なものでした。勇者の仲間たちの心はだんだん勇者から離れていきました。
人々から、仲間から嫌われる勇者でしたが実力は認めるしかできず魔王の配下で四天王と呼ばれる魔族を全て倒すことに成功しました。あとは魔王城を攻めて魔王を倒すだけとなりました。
魔王城に近いロウレスという街を拠点にして勇者たちは魔王退治の準備を始めます。勇者はその準備を仲間たちに任せ、自分は何もせずに自らの欲望を満たすことに全力を尽くします。
もうそのころには街の人々も仲間たちも我慢の限界を迎える寸前でした。勇者をなんとかできないか、裏でこっそり活動を開始します。
すると勇者はとんでもないことをしていたことが発覚しました。なんと人身売買や違法薬物などを行う闇の組織と裏で繋がっていたのです。
もはやここまで堕ちるとは、ともう勇者を味方する者は誰もいなくなっていました。
そして魔王城出発まであと3日と迫った日、いつものように勇者がエドをいじめていた時、ついにエドの「英雄」の加護が発現されました。エドは成人の儀で得た加護は「??」と不明でした。英雄の力を解放したエドは仲間たちと協力して勇者を圧倒しました。
魔王決戦の直前ともなればこれまで足手まといであった仲間たちの力も十分についていました。勇者に隠れてエドたちは各々の役割を十分に果たせるように連携を組む訓練をしていたのです。
それが功を奏し、勇者は倒されました。そして勇者の使っていた聖剣を英雄が手にするとまばゆいほどの光が放たれました。聖剣の真の持ち主は英雄のエドだったのです。
魔王を倒せるのは正確には聖剣に選ばれし者。つまり勇者でなくとも魔王を倒せる者が現れたというわけです。
人々は歓喜しこれまで暴虐の限りを尽くした勇者を捕えます。捕らえられた勇者は暴れましたが、どうやら勇者の持つ聖なる力は全てエドに引き継がれたようで、もはや一般人でも勝てるレベルまでに下がったためボコボコにされ牢屋行きとなりました。皆口々にこう言ったそうです。「ざまあみろ!」
勇者の処遇をどうするかとなりましたが、英雄のエドが「魔王を倒してからにしてください」と言ったことで先送りとなりました。
エドが英雄に覚醒して3日後、英雄一行は魔王城を目指し出発しました。それから1週間後、彼らは魔王を倒し戻ってきました。魔王との戦いはまさに死闘で、勇者に隠れて訓練した連携がなかったら勝てなかったぐらいだったと聞きます。
王都に帰還した英雄一行は大観衆に迎えられ、盛大なパレードが行われました。そして平民だったエドは侯爵の地位と広大な領地を与えられます。彼の執政は英雄と呼ばれるにふさわしいもので、領民は大変幸せな暮らしができたと言います。
一方で魔王が倒されたことで今まで協力的だった各国は魔王という脅威がなくなったため、戦争を始め国民に徴兵を強制し重税を課すようになりました。各国の国民は当然ながら国に対して不満を持つようになりました。
皆が英雄に期待し願います。誰もが幸せに暮らせる国にしてほしいと。その声が英雄の耳に届き始めます。決意した英雄は魔王を倒した仲間たちと共に立ち上がります。
魔王を倒した英雄一行ですから人間を倒すことは難しいことではありませんでした。2年をかけて全ての国を滅ぼし英雄王となりました。英雄王となったエドはこれまで一緒に戦ってきた仲間と結婚をして今も幸せに暮らし、国民も幸せに暮らしています。めでたしめでたし。
※
「やっぱり英雄王ってすごいよね!僕も英雄王みたいになれるかな?」
「そうね、正しい行いをしていればなれるかもしれないわね」
「僕頑張る!そうだ、悪いことをした勇者はそのあとどうなったの?」
「勇者はね、魔王が倒されたあと英雄王のおかげで処刑されずに済んで牢屋で一生を迎えることになったの。でもそのあとすぐに戦争になって周りがバタバタとしている間に脱獄して今はどこで何をしているのかは分からないみたい。本当なら指名手配するところなんだけど、英雄王は彼を許すことにした。自分に酷いことをした勇者を許せる寛大な心をもつ英雄王は本当にすごいわね。」
魔王が現れ、戦争が始まり人々の心には余裕がなかった。しかし英雄王エドによって安寧がもたらされた。これはそんな平和な日々の一部である。
お読みいただきありがとうございます。
次話から登場人物視点でのお話になります。