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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魚雷艇の鎮魂歌

作者: 座頭

 1945年 シンガポール

その日は暑い日だった。大日本帝国は4年前に開戦した太平洋戦争で敗北を続け、今まさにその息を引き取ろうとしていた。1隻の魚雷艇はシンガポールの小島で赤い錆の混じった悔し涙を流していた なぜ自分は敵を攻撃できないのか。なぜ自分はこんなにも非力なのか。乗員達も気持ちは同じようだった せめて1隻でも敵艦を沈めたかった。それが叶わないなら死んでも死にきれない。4年前のこの空は味方の航空機が自分の縄張りとして飛び回っていた それが今は味方の基地を攻撃しに行く敵の爆撃機だけが飛んでいる。魚雷艇は毎日自分を呪った なぜ自分は空を飛べないのか。あれを1機でも落とせば味方の被害も減るのに、悲しむ人がいなくなるのに。魚雷艇は悔しんだ、悲しんだ。また、味方が死んでいく。魂が陽炎のように儚く散っていく。

 その日は違った。敵の空母を発見した、これを撃沈せよ。それが自分に課された最後の命令だった。空母は大量の航空機を積んでいる。いくら魚雷艇の足が早くても航空機の前では無力だった つまりこれは死にに逝けと言われているようなものだった。乗員達は悲痛な面持ちで島を出る。敵は空母、それに対してこっちは唯の魚雷艇。勝負は始まる前から決まっているようなものだった。

 

 全速で前進する。乗員たちは自分たちがもう帰れないことを悟っている。ならば私もせめて彼らが命の華を咲かすのを手伝いたいと思う。

 敵戦闘機発見 誰かが叫んだ。敵は容赦ない鉛の雨をぶつけてくる。魚雷艇には次々と穴が空いていった。空母まであと少し、あと少しだ。







 見つけた。

空母に全速力で接近する。空母の前には分厚い弾幕の壁があった。駆ける、駆ける、まだ撃たない 被弾した、でも足を止めない 誰かが死んだ、それでも足を止めない。まだだ、まだだ………

 

 今だ 魚雷を撃つ  2本の白い線が伸びてゆき、空母に当たる。

空母は真ん中から折れて沈んでゆく。やった、やったぞ。

だが、魚雷艇にも限界が来ていた 敵の駆逐艦が撃ってくる 空からも戦闘機が鉛の雨を降らす。






 魚雷艇は満足気に沈んでいった。最期に自分の役割を果たせたことに満足しながら、その船体を深い海の底へと沈めていった。

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