セルフ「ざまあ」小説。「転生して朝起きたら半身不随でした(泣)」
さて、救急車に担ぎ込まれた俺は、何時ごろから症状が現れたか、同乗していた母親と共に救急隊員に繰り返し質問されていた。
この時点では俺は普通に「喋れて」いたのだ。
その日、俺は会社を早退していた。
若干の風邪症状と、花粉症で、傍から見たら相当体調が悪く見えたに違いない。
そんな俺に、上司は早退するように勧めてきた。
俺はありがたく上司の言葉にしたがって職場を早退する。車の運転も普通に出来た。確か午後1時過ぎの話だ。
早退した俺は集落のクリニックに通院する。
田舎故、隣町の病院の医師が週に半日だけ出張していたのだ。なんてことはない。風邪薬をもらって終わり。
ここまでで、午後3時頃になっている。
俺の体に異変が現れたのは、その後だ。
心当たりのある中年諸氏は、参考にされたい。
帰宅した俺は、とりあえず横になった。
布団に入ってゴロ寝を決め込んでいた俺は、右腕を下にした姿勢でスマホいじっていたが、違和感に気付いた。
(右腕がしびれてる・・?)
それが最初の兆候。麻痺が現れたのだ。
それだけでなく、涎が垂れてきた。
(うわ。ボーっとして、口を開けたままスマホいじってたのかな?)
この時点で俺は、「涎はたまたま、手のしびれはそのうち治る」程度に思っていた。貴重な時間を無駄にしているとも気付かずにだ。
(このように、脳卒中の症状は割と最初の段階では気付き難い!
世のメタボリック中年諸賢は、このようなことがないよう脳卒中の兆候をきっちり押さえて、症状が現れたなら即受診頂きたい!
ちなみに激しい頭痛と嘔吐を伴う場合もあるらしい。俺の場合、全くなかったけどね。)
だが、しびれは治らず、涎も何回か垂れた。
この時点でも俺は「体調が悪いせいかな?」と思っていた。
いやまあ、確かに体調は悪いどころの話では無かったのだけれども。
俺がこれ以上、貴重な時間を無駄にせずにすんだのは、18時頃、母親が夕食に呼び出したからだ。
そして、俺と違って母親は「身構えていた」おかげで早めに医者にかかることが出来た、というわけだ。(脳卒中の初期対応の区切りと言われる、4時間ギリギリだ。)
これが一人暮らしだったとしたら、適切に動けていただろうか?そもそも、最後まで体調の異常に気付けなかったかもしれない。
さて、隣の市の赤十字病院に搬送された俺は、直ぐに処置室に運ばれて点滴を繋がれた。
多分「グリセオール」というやつだ。脳の腫れを抑える効果がある。他にもこの点滴には出血を止める効果があったはずだ。
ちなみに血圧を測られたが、190くらいのあり得ない程高い数値だったことだけ覚えている。
処置中に医師が「まだ若いから、きっと回復するよ」と声をかけた。俺は素直にその言葉を信じ、希望を持った。
(彼のこの一言が、俺にとってはとても重要だった。)
処置が終わると、病棟に移された。
とりあえず、命に別状は無いらしい。
ベッドに移る前に、看護師達に囲まれた俺は体の状態について、「やりとり」をした。
だが、自分で思っていることを、ちゃんと言葉に出して喋ることが出来ないのだ。
俺は、慌てず「ならば筆談だ」と思い、苦労してジェスチャーで意思を伝えた。
ベテランの看護師が俺の言わんとするところを察して、持っていたペンとメモを貸してくれる。
やれやれ、なんだか喋ることが出来ないが、とりえずこれで意思疎通が出来る・・・と思った。
「!?」
思っているとおりの言葉が、書けない・・。
必死に、渡されたメモに用件を書こうとしているのだが、手は意思とは無関係に、わけのわからない文字列を書いたのだ。
「失語」だ。
さすが、ベテラン看護師。今の俺には字が書けないことを自分で納得させた方が、話が早いことを分かっていたのだ。
俺はあきらめて、とにかくベッドに移乗させてもらって、安静にしていることにする。
消灯された病室で眠りについた。と思ったら、右足が痙攣を起こした!
俺はよく痙攣を起こす。なので、対処は慣れていた。
だが、体が思うように動かないのでいつも通りの対処ができない。
そこで俺は、落ち着いてナースコールを使って助け呼ぼうと考えた。
「!!?」
だが、既に俺の体は言うことを聞かず、身動きが出来なかった。枕元のナースコールを手に取ることさえ出来なくなっていたのだ。
叫んで看護師を呼ぶこともできないから、痙攣を止めることができない。痛みとあせりで、おれはさすがに動揺する。
しばらく悶え苦しんだところ、痙攣は自然に収まった。
やれやれ。セルフで「ざまあ」小説だぜ。。。
疲れ切った俺は、ようやく眠りに落ちた。
気が付くと朝になっていた。気分は意外にスッキリしていた。
痛みとかは無いが・・。
体の状態を確認してみる。
右足は僅かに動くが、右腕はまったく動かない。たった一晩で半身不随だ。
「・・・。」
俺の脳裏に「転生して朝起きたら半身不随でした(泣)」とかいう、クソみたいな小説タイトルが浮かんだ。