使えない看護師をゲス介護士がチクった件
退院をひかえた、ある日の朝。
俺は退院後の生活について、ぼんやり考えながら朝飯と戦っていた。
急速な回復を見せているとは言え、右手はまだまだ不自由だから、食事は毎回大変な作業なのだ。
食事の途中で、例の中年看護士が薬を持って来た。相変わらず「私仕事が大嫌いですー」という本音が表情と態度に溢れている。
朝食後に必ず飲むことになっている血圧を下げる薬を、叩きつけるように置き、形容し難い不快なトーンで「薬です」と告げる。そして、こちらの礼も聞かずに、逃げるように部屋から出て行く。何かまるで、俺に親でも殺されたような態度だ。
時間にして5秒かそこら。よくもまあ、この短時間でここまで俺を不愉快にできるものだと感心する。
若手の看護士達は元気に愛想良く振舞っているというのに。
俺は相かわらず、ぼんやり退院前後の段取りを考えながら、朝飯にも取り組んでいた。そのせいでいつもとの違いに気付けなかったのだ。
食事を終え、お膳を下げようと、部屋を出る。まっていれば、スタッフが回収に来てくれるのだが、これもリハビリだ。食堂脇に留めてある配膳車までいくと、俺はミスをしていたことに気付く。
食器の影に、飲み忘れていた血圧の下げる薬が「コンニチワ」していた。いけねえいけねえ。俺には命綱だというのに。俺は薬だけを回収して、お膳を片付け、部屋に戻る。
もし医療や介護に従事している人がこの駄文を読んでいたなら、この時点で、俺の行動に「あれ?」と思って欲しい。
部屋に戻って、飲み忘れていた薬を飲んだ後、俺はやっと気が付いた。これは俺のミスじゃない。
「あ。あのクソ女。服薬確認サボってんじゃん。」
朝のヘルパーの最も大事な仕事は、入居者に間違いなく確実に薬を飲ませることだ。
なんだ。そんなことか、と思われるかもしれないが、この仕事はバカに出来ない。
なぜかというと、朝飲む薬は重要なものが多いからだ。一つ忘れただけで、元気だった高齢者が病院送りになることもあり得る。
そして、高齢者に任せていると、まず間違いなく飲み忘れてしまったり、飲むべき薬の種類や量を間違える。だから、本人任せにせず、ヘルパーや看護師が介在するのだ。
ところが、高齢者をフォローするための、この「服薬介助」では、まあ、よく事故が起きる。
朝食の時は忙しいから、ついつい確認が疎かになるし。ベテラン気取りの勘違いヘルパーは、むやみやたらと新人を焦らせて、事故がおきるように仕向けることも、しょっちゅうだ。
服薬事故は様々だ。薬を落っことして無くしたり、飲み忘れてしまうくらいならまだいい。ダブルチェックしてるはずなのに、なぜか全く機能せずに、全然違う人に飲ませてしまうことすらある。
例えば、俺のように朝イチに血圧を下げる薬を飲んでいる脳出血サバイバーに、間違えて血圧を上げる薬を飲ませてしまったら?致命的な結果になるだろう。実際に、そうなってしまったことも見たことがある。裁判沙汰にも十分なり得る。
看護士が薬を仕分ける段階で、もう取り違えが起きていたこともあったし、薬局での包装段階で間違っている反則みたいなことすらある。
そういう事故を防ぐ、最後の砦が利用者とスタッフが、お互い薬の袋を見て確認し、そこに書かれた氏名と薬の種類を声に出す、朝の儀式なのだ。
これは万一事故が起きた時、スタッフを守ることでもある。
だが、あの女はそれをせず、薬を叩きつけて、5秒で出て行った。
この病院では、若い看護師達が、特に慌てることもなく確実に服薬介助を行っていたから、俺は感心していた。
当たり前の仕事を、人間が確実に行い続けるのは、案外難しい。
ここは病院だが、服薬介助は仕事として介護施設と同じようにあるし、そこにあるリスクと課題も似たようなもんだ。
繰り返すが、あの中年の女性看護師は、そういったことを放棄した。
それに看護師はヘルパーの上位互換。なのにこのザマだ。これじゃ関西で働いてた頃に良く出くわした、ベテラン気取りの使えないクソ女介護士達と変わらないじゃないか。
あの馬鹿の動きは習慣化されたものだった。きっと何回もやってきたのだろう。本人の中では軽い手抜きのつもりかもしれないが、手抜き介護の帝王として言わせてもらうと、これはシャレになっていない。
俺は手を抜く仕事に、入居者の安全に関わることは絶対に含めなかった。
無論、俺は俺で、勝手に自分の物差し作って、手を抜いているわけだから、それはそれでアウトだ。偉そうに言えたことではない。良い子は真似すんなよ。
服薬事故は、救急沙汰にもなり得るわけで、そうなったら自分一人の責任では済まない。真面目に仕事ををしてる若いスタッフに、超迷惑だ。だがそもそも、そういう発想を持たなさそうなツラしてやがるからな。あのクソ女。
だが何より、俺は舐められていた。手抜きに気付かず、気付いても何もしないヤツだと見なされている。そこに一番腹がたった。
そして、同時に一つ確信した。
どんなに素晴らしい施設、病院にも、それをたった一人で台無しにしてしまうクズスタッフが必ず居るということに。若い未来のあるスタッフの努力を、賽の河原みたいに崩すクズが居るということに。
俺が過去、勤務して来た施設にも、必ず目を盗んで入居者を虐待して憂さ晴らしするような問題外スタッフが、一人は居た。
約15年間で5施設に勤務してきたが、必ずヤツラは居た。そして、たまたま入院した病院でも、またしてもこのテの手合いに出くわしてしまった。
だから、経験上、施設を潰しかねない程の危険なスタッフが、必ず居ると考えなければならない。どんな施設でもだ。これだけ頻繁では、そう考えるしかない。
しかも奴らはけっこう巧妙だから、中々本性を現さない。ゴキブリ並みだ。だから、尻尾を掴んだのなら、直ぐに対処すべきなのだ。たいていの場合、勤務態度も褒められたモンじゃないし。
ともかく、これは若いスタッフの手本にならないし、彼等のためにも、このバカは排除されるべきだと思った。これであの女の給料が、若いスタッフより高かろうモンなら、世の中間違っている。
手許には、今日の日付と「朝」と書かれた薬の空き袋。服薬後の薬は、確認の一環として、スタッフが回収する。だから、空き袋を俺が持っている時点で、おかしな話で事故なのだ。
「居るんだなあ・・・。こういうヤツが、どこにでも。前に大阪でゲス女を潰した時以来だな。こういうの・・。」
俺は呟くと、看護師長に直接事情を説明しに行くことにする。念のために、あのバカが休みの日にしよう。証拠はあるんだし。
教訓:どんな素敵な施設にも、ゴキブリとクズスタッフは必ず居る。家族が入院や入所したら、そのつもりでね!!




