牛
ピコーン!
メッセージアプリからお知らせがあり、義母からの着信を確認した。急用だと困るので、早速開いてみる。
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牛 1
人 1
芋 1
玉葱 1
鶏肉 300
帰りに買つてきてください♪
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何じゃこりゃ?
牛? 人? いったい何を買えと言うのだ。
大体どこに、牛って売ってるんだ? 仕事帰りに買える牛って何?
人って、お手伝いさんを頼むのか? それとも奴隷でも買ってこいと?
さっぱりわからん。
音符よりも、品名を詳しく書いてくれ。購入単位を書いてくれ。
私がスマホを見ながら悩んでいると、横の席の同僚から声をかけられた。
「難しい顔してどうしたの? 何か悩みでも有るの?」
「あ、いえ、義母からのメッセージが、毎回、中途半端な謎解きなんです」
私は画面を同僚に見せた。
「牛!?」
牛と発言したまま、笑い転げてしまい、以後会話にならなかった。
前にいた上司も、気になったのか、こちらを見に来た。
「見ても良いか?」
「あ、はい、どうぞ」
私のスマホを受け取った上司は、画面をじっと見つめていた。
「本当に、牛って書いてあるんだな。牛もそうだが、人って、何買うんだ?」
「そこ、本当にわからないですよね」
「聞き返してみないのか?」
「一応、今日のメニューは何ですか? と、返してみたんですが、見ていないのか、返事がありません」
「なら、わかるものから、推理してみよう」
「はい。玉ねぎと鶏肉は、はっきりしていますが、芋は何芋かわかりません」
一番遠い机にいた先輩が覗き込みに来た。
「ねーねー、牛って、牛肉を買ってこいって意味じゃないの?」
「それだと、鶏肉もあるので、違うような気がします」
「鶏肉は確実なのか、て言うか、単位もワケワカメだね」
「あはは」
他は、1個なり、1袋だと思うけど、恐らく鶏肉だけグラムではないかと考えている。しかし、玉ねぎと鶏肉を使う料理なんて、たくさん有りすぎる。
ピコーン!
メッセージアプリからお知らせがあり、義母からの返信が届いた。
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寒い からしちゆーがたべたいっていっていたじゃない
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寒い、からし、ちゆ? あ、寒いから、シチューか。
ってことは、牛ではなく、牛乳!? 人ではなく、人参?
義母の作るシチューは、ミルクベースに、人参、じゃが芋、玉葱、鶏肉が入ったものなのだ。
義母さん、省略しすぎです。
「皆さんすみません。解決しました」
「なんだったの?」
「シチューの材料のようです」
「牛は何?」
「牛乳だと思います」
「うはは。わからないよ、それ」
みんなが笑ってくれたから、まあ、良いや。
早番で上がり、牛乳、人参、じゃが芋、玉葱、鶏モモ肉を買い、家に帰るのだった。