プロローグ
正直言って、この第六話は、シリーズの中でもスケールの大きい話だと思っています。最終章の最後の最後、最後の四行に、話の本質が浮かび上がってきます
前回の話、対決、爆弾魔で高評価を受けましたので、思い切って公開します
今回は、サスペンス満載、シリーズ最大の目まぐるしい展開となっています。感想が欲しいです。
もしなければ、路線違いだと思い、この、なろうから、退こうと思っています。
その日の深夜、小雨の中、一台の白いRV車が走っていた。制限速度を十キロぐらい超過したぐらいか、運転手の、こうじ、が助手席に座っている、まい、に向かって、
「もうすぐ着くよ。だいぶ、おそくなっちゃったけど」
声をかけていた。顔ににきびあとが少し残った青年である。
「あー、早く着きたいわー。今日はシチューの材料いっぱい買ったし」
まいも、そう微笑みながら答えていた。二人は仲のいいカップルであった。一連のデートを終え、二四時間スーパーで買い物をすまし、今はその帰りなのだ。
「まいたんのシチューは、おいしいから。特に、お肉はとろけちゃうような」
「学校でも、結構がんばってるから、それに、また、新しい隠し味や技法も覚えたのよ」
言葉から見て、まいは、調理師専門学校の生徒のようである。
「それは、楽しみだね」
「でしょう。楽しみでしょう。だから戻ったら、すぐに仕込みを始める予定よ。何時間も煮込まないと、その味は出ないからね」
「本当に楽しみだなあ。久しぶりに、ぼくのマンションで、まいたんとも♡」
こうじは、わくわくしながらハンドルを握っていた。
やがて、車は、こうじの住むマンションの前にきた。だが、すぐに降りて、お楽しみをするわけにはいかなかった。大都会の街中、駐車スペースはその周辺にはなかったのだ。
こうじの運転する車は走り続け、そのまま、約二百メートルぐらい離れた場所にある、月極の契約駐車場に向かっていった。
入口に着くと、こうじは、ウインカーを出し、中に入るために左折した。
左折を終えたと同時に、ある事態が! 両手を上にあげ、口を大きく開けた男が、別の駐車をしている車のかげから、彼らの前に飛び出してきたのだ。男性は何かに追われているのか、助けを求めるように無我夢中で走っていたようであった。
こうじはあわてて、車のブレーキペダルを踏み込んだが、間に合わなかった。
前方から、鈍い衝突音がした。またたく間に赤く染まるフロントガラス。
「や、やっちゃったよ」
こうじは震えた声を出した。助手席の、まいも顔が真っ青であった。
「やっちゃったって、こ、こうじ君、ま、まさか」
「仕方がなかったのだよ。まいたんも見ていただろ。急に飛び出してきて」
「でも、どうするのよ?」
「どうするも何も、まずは様子を見ないと」
エンジンを止めた、こうじは、ドアを開けて車の外に出た。そこには無残な光景が!
「まいたん、だめだよ。この人、間違いなく死んでる」
それを見た彼は、何とも言えないような顔をして、大きく首を振っていた。
「死んでるって、こうじ! わたしたち、どうするの」
まいはヒステリックに叫んだ。
「まずは、警察に届けないと」
「警察に!」
「大丈夫だよ。僕たちは、お酒なんか、飲んでいなかったしね。だいたい、相手は急に飛び出してきたのだから」
「でも、死んじゃったのよ!」
二人は真っ青な顔をして言い合っていた。そのカップルに向かって数人の人物が近づいて来た。数は五人か、全員サングラスをつけた屈強な体つきの男たちだ。
こうじは、そのとき、なぜ男性が血相を変えて、自分の車のところに駆け寄ってきたか、おおよその理由を理解した。と同時に身震いが、
〈今、ひいてしまった男性は、この男たちから逃げてきたのだ。そして、自分たちも・・〉
「ま、ま、ま、まいたん、に、逃げないと」
こうじは、まいに言葉をかけたが、身体がすくんで動かなかった。まいもまた、近づいているサングラスの集団を見ながら、歯をがくがくと震わせていた。
その間に、怪しげな集団は二人の車を取り囲んでいた。絶対絶命のピンチに、こうじとまいの二人は、お互いに身を寄せ合い、誰か助けがくるように願うしかなかった。