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不遇職と言われたクラフターを優遇職に!  作者: 黒井隼人


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一人前に必要な事


付与が完了した端材をトーマスのところへと持っていくと、じっくりと観察されていく。


「……しっかり付与されているようだな」


そう言いつつ腰にあるハンマーを手に取って数回端材を叩く。


「…付与の内容は衝撃吸収か。また新しい付与だな」

「わかるんですか?」

「手ごたえが違うからな。問題なく付与できるようになったようだし、これを本来の材料にもできるか?」

「要領はわかりました。時間はかかるとは思いますが可能です」

「そうか。ならば材料を渡す。素材のままなので、それをインゴットへと加工。そして衝撃吸収の付与をすべてにかけろ。それが依頼だ」

「わかりました」

「じゃあちょっと待ってろ」


そう言ってトーマスが鍛冶屋の奥へと向かう。


「………」

「レン?」


どこか落ち込んだような雰囲気のレンに声をかける。


「いや…お前はすごいなと思ってな。親方にこんなすぐに仕事を任されるんだから…」

「まだまだだけどね。でも、今回の依頼のおかげでようやく僕が望むクラフターの姿が見えた。あとはこれを突き詰めていくよ」


グッと力強く拳を握る。

今まで漠然とできることをやろうとしていた。でも、どこかこのままじゃいけないとは思っていた部分があり、それが何なのかはわからないが、それでも努力をやめるわけにはいかず、邁進していた。

それが今回の依頼でようやく自分が求めているクラフターとしての理想像が垣間見えた気がした。あとはそれをどれだけ広く、理想的に仕上げられるか。それが今後の目標になる。

今までとは違う明らかな手ごたえ。それを感じたクレイの目にはもう迷いはなかった。


「………」


そんな表情のクレイをレンが複雑な表情で見ているとも気づかずに。


「おう、待たせたな」


そう言ってゴトリと大量のミスリルゴーレムの素材を机の上に置く。


「普通にやってインゴットは10個。それが最低数必要だ。そして半数は衝撃吸収の付与を、もう半数には耐久値上昇の付与をかけてくれ。素材が余った分はこっちと要交渉でお前にも分けてやるからな」

「いいんですか?」

「ああ、もともとそういう約束でもあったからな。素材は余ったらもらい、その分を報酬から引く感じだ。まあ現物支給ってやつだな。安心しろ、お前の依頼料に関してもきちんと計算しておいてやるから」

「わかりました。じゃあ完成したらまた来ます!」


そう言ってクレイは素材をすべて空間収納へと入れて大急ぎで鍛冶屋を後にした。


「やれやれ…せわしねぇな。さて…レン、ちょっとこい」

「あ、はい」


唐突に呼ばれ、レンは慌てつつもトーマスについていく。そして応接室へと入っていった。


「まあ座れ」

「あ、はい…」


唐突な個室での面談にレンが戸惑いつつも座る。


「さて…ずいぶん落ち込んでいるように見えたが、どうした?」

「え…いえ、そんなことは…」


落ち込んでいる…のかと問われてもいまいちわからなかった。

だがトーマスからの依頼を受けたクレイを見て劣等感を感じてしまったのは事実だ。

もともと少し前からレン達見習い用にクレイが付与された鉄インゴットを用意してくれていた。それはわかっていたし、それもトーマスからの依頼だった。それでもここまで劣等感を感じることはなかった。

だが、今回はなぜか劣等感を感じてしまった。

明らかにクラフターとして成長しているクレイ。そしてそれを頼りにしているトーマス。

レンはクレイより一つ年上だ。それゆえに一年早く選定の儀式を受けており、その分年季が違うはずだった。

それなのに自分はまだ見習い鍛冶師でクレイはすでにクラフターとして一人前になりつつある。今回の一件でそれをまざまざ見せつけられた気がした。


「………ふむ…」


否定しようとしたがそれでも口をつぐんだレンをトーマスはじっと見る。


「レンよ。一つ問おう。一人前の職人とはなんだ?」

「え?」

「仕事を任されたら一人前か?一人で依頼をこなせば一人前か?確かに間違ってはいないかもしれない。だがな、俺が考える一人前の職人とはそうじゃない」

「そうなんですか?」


親方に認められれば仕事を任される。そうすれば一人前だと思える。そして依頼を受け、それをこなせれば様々な人に認められることになるからそれでも一人前だといえる。

だが、それはトーマスが考える一人前の職人ではないらしい。


「俺はな、自分の作品を作れて初めて一人前だとみなしている」

「自分の作品…」

「そうだ。俺はお前たちに鍛冶を教えている。だが、それを教わったままやっているだけでは一人前にはなれない。なぜならそれは俺の技術を模倣しているだけで、お前の技術ではないからだ」

「………」

「俺の技術を教わり、それを習得し、自分の技術へと昇華する。それができて一人前になれる。お前はまだ俺の技術を教わってそれを習得している最中だ。だからまだ見習いのままなんだ」

「…だけどクレイは…」

「あいつは特別だ」


その言葉に思わず唇を噛んでしまう。


「なぜならあいつは鍛冶師ではなくクラフターだからな。技術を教えてくれる奴がいない。最初から自分自身で技術を付けなければいけない。だから最初の教わり、習得する。その工程がないんだ」


師が居ればその人にやり方を教えてもらえばいい。そうすればその人の技術を習得し、それを自分なりにアレンジすればいいんだから。それがレン達が今やっていることだ。

だが、クラフターであるクレイにはその師はいない。

鍛冶師であるトーマスは鍛冶の事を教えることはできる。だが、クラフター特有の魔力加工に関しては教えることはできない。

それは他の生産職の人たちも同じだ。だからクレイは悪戦苦闘しながらも自らでやり方を開拓していかないといけない。ある程度その職業によってやり方は頭には浮かぶ。

鍛冶師であれば鎚の振り方や熱の入れ具合が、裁縫師だと糸や布の強度や繊維の向きなど、加工の仕方が浮かぶ。

クラフターであれば魔力加工や付与のリストやそのやり方等、しかしそれはあくまでやり方であり、どうすればうまくいくかまでは教えてくれない。だからこそクレイは数をこなしていたのだが。


「あいつはずっと努力してきた。魔力加工も付与も何度も何度も繰り返し、自分なりのやり方を見つけ出そうとしていた。そして今回の依頼でそれが実を結んだ。あいつは自分なりのやり方を見つけ出した。それによって普通のやり方じゃうまくいかない魔物素材の付与を成功させた。もしかしたら今後、今までできなかった加工済みの装備にも付与ができるかもしれない」


クレイの努力が今回の依頼をきっかけに実を結んだ。ここからあいつがどうなるかその成長が楽しみな部分がある。


「そしてお前も同じように努力を積み重ねている。だが、それが実を結ぶのはまだ先の話だ。焦る気持ちはあるだろう。クレイが自分より前にいるようにも思えるだろう。だがな、それはお前がまだ自らの技術を作り上げれてないからそう感じるだけだ。お前の中で自分の技術が確立した時、それまでに続けていた努力が一気に開花する。それによってお前がどこまでいけるか。それはこれからのお前次第でもある」


そう言ってトーマスは立ち上がり、レンの肩を叩く。


「腐ることなく、努力し続けろ。その努力が開花した時、お前がどこにいられるかは、それまでのお前次第だ」


そう言ってトーマスは応接室から出ていく。


「努力の開花…か…」


ただ漠然と教わったことを反復していた。もしかしたらそれだけじゃだめかもしれない。クレイに追いつく…いや、追い越すにはもっと自分なりのやり方を見つけないといけないかもしれない。


「…いざとなったら親方にも相談しよう。そうだよ。俺には親方がいるんだ。ただ真似するだけじゃなくて自分なりのやり方も見つけよう。クレイだってやっていたんだから」


そう決め、鋭い目つきになったレンは応接室を後にした。




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