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第55話 臨戦態勢

 もうパーティはつぶすと決めた。

 いや、つぶれると決まっていた。

 何者かはわからないが、お兄様に成り代わっている。

 いつものトリスタンお兄様は実直な方だ。

 自分の間違いに対して謝罪がないことなんてない。

 徽章を付け間違えることもない。


 この気づきは僕が純粋な心でパーティ会場と向き合って得た成果だ。

 大事にしていきたい。

 今まで生きてきた中で一番の成果と言っていも過言ではない。

 前世から、僕は大事なところでいつも足元を見ていた。

 僕が好きだった女の子と大山健一君が付き合い始めたところでも。

 就活の面接でのグループディスカッションの場でも。


 今は違う。

 正面を見据えて、真実を見抜くことができる。

 それに対応するためのスキルもある。

 実際、アドルフお兄様を使って行動を起こした。

 今は違うんだ。


 でも、何からすればみんなが助かるのかはわからない。

 お兄様が人質として取られている可能性が非常に高い。

 ヘタな行動はとれない。

 かと言って、相談する相手は少ない。


 お父様か?

 僕の勘違いだったときのリスクが大きすぎる。 


 お母様か?

 お兄様がいなくなることで僕の王位継承権が上がる。

 余計な策略を練りかねない。


 ガーベラか?

 彼女は本来、内向的な性格であるため、パーティ会場ではスミで小さくなっている。

 とても、今の状況を打開する案を考えられるとは思えない。


 アドルフお兄様か?

 そもそも、アドルフお兄様はこの場にいない。

 先ほど、ワインをかけてしまったからだ。

 一緒についていっている。

 今頃謝罪しているはずだ。

 そこへトリスタンお兄様もついていっているはずなので、彼らが帰ってくる前に問題解決する必要がある。

 

 僕の相談できそうな相手はこれくらいだ。

 もちろん貴族の中に顔見知りはいるが、自分への利益をベースに考える傾向が強い彼らに相談すれば、僕が望む円満解決にはならないだろう。

 一番信頼できるストライク家であっても同じことが言える。

 それに、他の兄姉の顔はわかるが、あくまで他人という枠からは出ない程度の付き合いしかない。

 嫌われていたアドルフお兄様が一番近しい兄弟となったことは皮肉なことだ。


 つまり、この状況は誰にも相談せずに僕一人の力で解決する必要があることがわかった。

 できる範囲の準備をしておくしかない。

 トリスタンお兄様が帰ってくるまでの時間でできるかぎりの準備を行った。

 

 そして、トリスタンお兄様たちは帰ってきた。

「アドルフお兄様、大丈夫でしたか?」

「ああ、俺としたことが大きな失敗をしてしまった。トリスタンお兄様には恥をかかせてしまったな」

「謝罪は受け入れてもらえたということですかね? よかったです。何かおかしな点はありませんでしたか?」

「おかしな点? 特には気づかなかったが、ああ、お兄様の軍服の徽章の位置が逆なことくらいかな?」


 なるほど、アドルフお兄様も気づいてはいるわけだ。

 もちろん確証には至っていないから、違和感を覚える程度だということだな。

 僕も確証を得ていないから困っている。

 しかし、僕にはそれをはっきりさせる手段を持っている。


『ピュア』「トリスタンお兄様、大丈夫でしたか? 徽章を付け間違えたり、間違いを訂正しないのは普段のお兄様らしくありませんね。正体を現してください」

「あっはっは、アーサーは冗談も言うようになったんだな。確かに徽章は付け間違えていたけど、これは、普段のメイドではないメイドに着付けを頼んだからだよ? 正体も何も、私は私だ」


 あれ?

 勘違いだった?

 いや、宰相の時にやられた『ピュア』を無効化する方法がある。

 その後、調べてわかったが、事前に「催眠術にはかからない」という自己暗示をしこんでおけば『催眠術』にかからないことがわかった。

 宰相はこの手法を使って僕の『催眠術』を回避していたのだ。

 今回もそのケースであると考えられる。

 仮にそのケースが当てはまるのであれば、魔王級の災害が起こる可能性を示唆している。

 非情に危険だ。慎重にことを進める必要がある。


『ピュア』「そんなこと言ったって事実は変わりませんよ。お兄様は『催眠術』が効くようになります」

 僕は『催眠術』の上書きをした。

 同じスキルが使われている場合、上位のスキルで上書きできることは時を止めた謎の人物が教えてくれた。

 今の僕の催眠術は『ピュア』と『催眠術』を同時に使っている状態だ。

 ある種、上位版と言えるのではないか? と、予想した。


「ああ、そうだな。お前の『催眠術』は効くようになったようだ」

『ピュア』「そうですか、それでは、改めてお願いしましょう。正体を現してください」


 ボウッ


 会場全体が強烈な風に包まれた。

 トリスタンお兄様の胴体からは無数のぶっとい触手が生えている。

 顔面は醜い姿に変わりはて、衣服は全て破れさり、黒紫色のタコに変身している。

 その姿を見て、とっさに『鑑定』を使っていた。


『鑑定結果 魔王もどき(因子)年齢不詳 性別不詳 スキル【魔王因子 レベル512】(変装 レベル5)』


 変装レベルが中途半端だから細かなミスがあったのか?

 それにしても『魔王因子』ってなんだ?


『魔王因子…魔王に近づこうとするもののエネルギー。魔王の力の一部が使える』


 なんだこれ? 魔王の力の一部ってことはこの前倒したヤツの力の一部ってことか?

 そんなヤツがこの場で暴れたら国の重鎮が死にまくるぞ?

 これはまずい。

 ここまでとは想定していなかった。

 しかし、準備もしていた。


 魔王戦の時に知り合った、白虎組組長ロウリッヒに頼んで、近衛兵に警備を強化させた。

 何かが起こったときは、王侯貴族を優先して助けるように指示しておいた。

 近衛騎士に知り合いがいて助かった。

 

 さて、あとはコイツをどうするかだな。

 横を見ると、ドレスの裾を剣で切り、動きやすい服装になっているガーベラがいた。

 もう、臨戦態勢だ。

 さすがだな。

 さっきまでのパーティ会場のスミで小さくなっていたガーベラではない。

 僕は婚約者の前で少しくらいはカッコつけられるような動きをしてみようかな?

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