第52話 全権大使
元神の残念な姿は一旦忘れることにして、今後の動きについて話し合った。
「アーサー、すまなかった。幻術の類だったのだろう。長い間騙されていたようだ」
「いえ、お父様、幻術が解けただけでも利益はあったと考えましょう」
「そうだな。お前も立派に成長したものだ。さて、先ほどの元神を名乗る者は世界の破滅を目論んでいるようだったな。何か知っているか?」
そんな時、ガシャガシャと音をたてながら走ってくる者がいた。
「お話中失礼します。陛下宛てに火急の用件という手紙が届いております」
門兵は急ぎ足で手紙を持ってきた。
たっぷりチップをもらったのか、チャリチャリ鳴っている。
「手紙か……。今はそれどころではないのだが……。……隣のレイサーム王国の騎士からの様だな。……なに!? 世界の破滅を目論む者について調べている!? まさに元神のことではないか。明日登城したいだと!?」
タイムリーすぎる。
何か罠の予感しかしないな。
「お父様、その話は信用できる方からなのですか?」
「知らん、レイサームの上級貴族であればわかるが、騎士までは覚えておらん。こんな時に宰相がいれば……。っは! 私は宰相にかなりの政治権限を渡しているな。国内の安全管理から見直しが必要だ。こうはしておれん。アーサー、明日の騎士の話は任せたぞ」
え?
世界より国をとるの?
「僕に務まりますでしょうか?」
「お前は当事者なんだから、ほかの者には任せられないだろう? それに、何かあっても剣聖と賢者がついておるだろ?」
「はぁ、そうですけど……」
世界の存亡を14歳に任せる?
タイミング良すぎるから罠っぽいけど……。
なら、なおさら、大人が対応しろよな……。
あと九か月もしたら僕も大人だけど……。
よくわからない間に来客対応を任されてしまった。
相手が騎士だから対応は王子で十分と言ってしまえば、そうなのだが……。
どこか納得しにくい決め方だった。
僕はこの日は城に泊まり、翌日に備えた。
未来の妻たち三人も泊まっている。
もちろん部屋は別だ。
僕は自分からは声をかけられないので、基本は受け身だ。
三人とも何も考えていなかったらしく、その晩は何事もなく過ぎ去った。
そして、翌朝一番に来客は来た。
とても美しい女性の騎士がいた。
「はじめまして、レイサーム王国騎士団ゴールデンナイツ所属のアステリア・トートと申します」
そう言うと、アステリアさんはきれいなお辞儀をしてくれた。
どこか懐かしい雰囲気を纏っている人だ。
「ご丁寧にどうも。サリューム王国第六王子アーサー・ド・サリュームでございます。よろしくお願いいたします」
ペコリと礼をする。
礼儀作法のお稽古もサボっていたので、正しい挨拶がわからない。
ここにきて学の無さが悔やまれる。
顔を上げるとニコリと笑ってくれた。
うまくできたのだろうか?
ほほえましいくらいヘタクソだったのだろうか?
そんなことより、彼女から目が離せなくなっていった。
今まで美少女は沢山見てきたが、けた違いに美しい。
例えるなら、美の暴力だ。
美しすぎて、目がつぶれそうだ。
まばたきができない。
必死で見つめていたら、一歩下がられてしまった。
どうやら、引くほど見つめていたらしい。
申し訳ないが、これは仕方がない。
僕は悪くない。
彼女が美しすぎるせいだ。
「さて、本日は火急の用件と陛下からは、うかがっております。どのような用向きでしょうか?」
ちょっと、それっぽくしゃべってみた。
正しいのかどうかはわからない。
敬語の使い方とかちゃんとは知らない。
「はい。本日は世界の破滅をもたらす者についての情報を提供しようと馳せ参じました」
「なるほど、それは火急ですね。しかし、ちょうど、昨日、同様の内容をのたまう輩が現れまして、そのような内容は聞きました。それと関係があるのでしょうか?」
ちょっと、緊張しすぎて自分でも何言ってるかわからない……。
「はい。関係があります。その男は元神を名乗っていませんでしたか?」
「ええ、そう名乗っていました」
「やはりそうでしたか。私は、その件につきまして、レイサーム王国国王陛下より全権を委任されています。元神を打倒すべくサリューム王国へも協力を仰ぎに参った次第です」
「なるほど、私の一存では決めかねる案件ではありますが、私個人としては共に並び戦いたいと考えています」
お、なんとなく、それっぽいこと言えたぞ。
「ありがとうございます。具体的な協力体制だけ先にお伝えしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「ええ、もちろん。教えてください」
「承知しました。実は、ダンジョンの奥地に元神の拠点があると現状では予測しています。そのダンジョンがサリューム王国とレイサーム王国の境界線付近を移動する魔物の口が入り口であることがわかりました。国境を超えることから調査ができない状態です。調査の許可をいただけないでしょうか?」
僕は、美女の懇願のまなざしを受けてたじろいだ。
「……許可だけでいいのですか?」
「そうですね。先ほど殿下がおっしゃられたように叶うのであれば、並び戦っていただけると幸いにございます」
さっきから、僕がアステリアさんに見惚れていたから未来の妻たちの機嫌が悪い。
「横から失礼します。私はガーベラ・ストライクと申します。本日は殿下の護衛という立場で同席させていただいていますが、トート様はいかほどの腕前なのでしょうか? ダンジョン攻略には腕っぷしも必要かと」
ガーベラは剣をチラリと見せた。
「いいでしょう。場所を変えましょうか」
応接室から城内の練兵場へ移動することにした。
移動の時に、サルビアも「次は私ね?」とか言ってた。
頼むから失礼なことをしないでくれ。
隣国の全権大使なんだぞ?
そう考えながらも、僕はビビッて何も言えなかった。
大きなトラブルにならないといいけど……。