第48話 内省
最近、心身ともに変化が起こっている。
『ピュア』を使うことで少しずつ変化がある。
純真な気持ちで物事に取り組むことができるようになってきている。
根本的なところではクズなんだが、土壇場で「やればできる子」となっている。
思えば魔王を倒したあたりからおかしいとは思っていた。
この僕が魔王を倒そうと思うのだから。
でも、クズはクズなのだ。
簡単な方へ、いつでも流されるし、気持ちいいことは好きだ。
今も流されている。
ショコラに誘惑されるがままに致している。
されるがままにされている。
僕の上で大暴れのショコラを眺めながら、反省をしている。
ああ、やっぱり、反省してる分ピュアだな。
僕が果てた後、ショコラは満足したようにおなかをさすっている。
僕は気持ちを声にしてみる。
「もう、ショコラとはしない」
「え? じゃあ、これがラストチャンスだったのですか?」
「そうなるね」
「それじゃあ、あと一回だけ続きでお願いします」
そんなに僕の子が産みたいのか?
それで幸せになれるのかな?
と、言いながら、またしてる。
反省はしているが、反映はされていない。
それがクズな僕。
ああ、クズな自分がイヤなんだな。
だから、大山健一君に嫉妬して「持ってる人」に憧れてるんだ。
僕は「持つ側」に立ちたいんだ。
そのためには、流されてはいけないんだ。
自分の考えを持つ必要があるんだ。
再度、果てた僕を絞りだそうとショコラが頑張っている。
急に醜いものに見えてきた。
僕が欲しいんじゃなくて「王子の子種が欲しい女」に嫌気がさした。
僕はすぐに服を着て飛び出した。
しばらくはショコラに会うのを控えよう。
そうだな。
王城に住ませて、仕事だけをさせよう。
『鑑定』を使って精神支配系の能力者を特定することは行き詰まっていた。
容疑者の人数が多いうえに、ショコラの身分では会えない人物が多すぎた。
主に、役職級は『鑑定』できていない。
一番怪しいのに。
ショコラが城で勤務して三日がたったとき、城から使者が来て、手紙を渡していった。
手紙は宰相からで、一言だけだった。
「ショコラは死体として発見された」
僕は急いで城へ行った。
事情を聞くと、昼間に発見されたそうだ。
僕が城に住むように言って三日後に。
僕は責任を感じた。
彼女が死んだ原因の一部が自分にある気がした。
そう、こんな責任を感じるのもピュアだからだ。
こんなにしんどいならピュアじゃなくていいと考えた。
でも、みんなはこんなしんどい思いを乗り越えて真面目に生きているんだ。
それを僕は放棄してきた。
責任感なんて生まれた時から抱いたことはない。
初めての感情に翻弄され、奔走し、容疑者をさがした。
僕の一日二回しか使えない『鑑定』と十七回使える『ピュア』を駆使して。
万が一を考えて護衛にガーベラを付けた。
何日もかかった。
ショコラの捜査ノートを熟読し、続きの捜査を行った。
「アーサー、もうショコラが亡くなって十日がたちましたが、これはいつまで続けますか? 私も騎士団の仕事があるので長くは空けられないのですが……」
「見つかるまでやるさ」
「そうですか、護衛は他の誰かに交代してもらってもいいですか?」
「そうだな。少しムキになっていたようだよ。何日も引き留めてごめん」
「いいえ、私も同じように辛いです。犯人を見つけたときには必ず切り伏せますので、教えてください」
「ああ、ありがとう。護衛はアイリスに頼むよ」
「わかりました。アイリスは攻撃手段を持っていませんので、アーサーは自分の身は自分で守ってくださいね」
操作に一行に進展がない状況にガーベラも焦りを感じたらしい。
たしかに、僕のようにフラフラしてる貴族とは違い、ガーベラは騎士団の千人長だ。
どこかで区切りを付けなければ、仕事に支障をきたす。
それに、捜査の進め方もどこか自暴自棄になっていた。
責任を感じすぎて、ヤケクソなやり方だった。
もっと効率よく立ち回らなければならない。
ガーベラは騎士団の詰め所へ行ったが、僕は捜査を続ける。
アイリスはいないが、気にしない。
万が一に備えて剣は用意しているし、今日はまだ『ピュア』がすべて残っている。
『鑑定』はその辺の兵士に使ってしまったが、何かあっても対応できるだろう。
僕はガーベラがいなくなったことで少し冷静になれた。
よく考えると、兵士より、上位階級の人間から操作を進めた方がいいように感じた。
とりあえずは王だ。
お父様に聞いてみてヒントをもらおう。
もちろん秘密にできないように、スキルは使う。
『ピュア』「お父様、先日のショコラの殺人事件の犯人について何かご存知ですか?」
「その件か、捜査は宰相を中心に行っているから、そちらに確認してみるといい」
「はい。わかりました。ありがとうございます」
そうか、宰相か。
城内の事とはいえ、宰相が担当するのはおかしい気もするが?
近衛騎士でいいんじゃないのか?
まあ、いい、聞きに行こう。
宰相の私室前でばったり出会った。
『ピュア』「こんにちは、この前のショコラ殺人事件について知っていることを教えてくれませんか?」
「ええ、犯人は私です。少々ジャマになってきたもので……はっ! 違います。失言です」
ああ、そういうことか。
ショコラはがんばっていたんだ。
コツコツ頑張って、宰相にまで近づこうとしていたんだ。
それを疎んだ宰相はショコラを殺したんだ。
『ピュア』「お父様に自首してきてください」
「いや、私は犯人ではありませんよ」
宰相の太ももにナイフが突き刺さっている。
痛みで冷静さを保ったのか。
こんな方法で『ピュア』を回避できるのか。
「驚いたでしょう? 私も『ピュア』に負けない『催眠術』スキルを持っているのですよ」
「なんだって?」
「『催眠術』ですよ。私の言ったことはなんでも信じてしまう催眠術です。あなたを殺すと大事になるので、『催眠術』を使って口封じをしましょう。あの奴隷の女は何度もしつこかったので殺しましたが、あなたは王子、そうはいきません」
僕は怒った。
久しぶりの感情だ。
コイツを追い詰めることを決めた。